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「SHINKANSEN」始動!タイとは政府間で合意、対米輸出でJR東海も布石

「新幹線開業から50年で蓄積したものを共有し発信したい」(葛西JR東海名誉会長)
 政府は2020年に現状10兆円のインフラ輸出の受注を30兆円に拡大することを目指し、各国でトップセールスに力を入れている。その代表格の一つが「新幹線」だ。タイとは新幹線導入に向け政府間で合意。JR側も着々と輸出への体制を整えつつある。「SHINKANSEN」が世界各国を走る日はいつ訪れるか。

 【タイ・バンコク―チェンマイ間で1兆円プロジェクト】

 太田昭宏国土交通相は27日、都内でタイのプラジン・チャントーン運輸相と会談し、タイがバンコク―チェンマイ間で計画している高速鉄道に日本の新幹線を導入することで合意し、覚書を交わした。海外での新幹線の採用は台湾に次いで2件目。今後は両国合同で事業化調査(FS)をするほか事業スキームを検討し、新幹線の導入に向けた体制を整える。
 
 過去に両国が個別に実施した調査では事業費1兆円強と試算している。今後は両国合同で行うFSで事業費を精査するほか、資金面の手当てなども協議する。
 
 バンコク―チェンマイ間は現在、在来線が走っている。総延長距離は約750キロメートルだが、新幹線の整備では可能な限り直線に近い路線で建設するので660キロ―670キロメートル程度と想定する。同路線の高速鉄道整備について日本企業では、JR東日本、三井物産日立製作所三菱重工業が企業連合を組んで検討している。
 
 このほか、両国大臣が交わした覚書では、カンチャナブリ―バンコク――チャチェンサオ―アランヤプラテートなどを結ぶ「南部経済回廊」の沿線の改良・整備などに向けたFS実施でも合意。タイ中部を東西に結ぶメーソート―ムクダハン間の新路線の整備や、貨物輸送サービスの効率化、都市鉄道整備の協力も進める。人材育成など技術協力にも取り組む。

 【JR東海は対米輸出見据え初の外国人を取締役に起用】

 世界では新興国を中心に高速鉄道プロジェクトが立ち上がっており、JR東日本はアジアに力を入れている。一方、JR東海が狙う市場は米国。新幹線専用の軌道を導入できる広大な国土があり、大都市間の輸送需要が見込めるためだ。

 09年に専門事業室「海外高速鉄道プロジェクトC&C事業室」を設置し、高速鉄道システムの海外展開を本格化した。米国に重点を置き、新幹線と超電導リニアの輸出を目指している。超電導リニアはワシントン―ボストン間の「北東回廊」、新幹線はテキサス州のダラス―ヒューストン間での導入をそれぞれターゲットとしている。

 さらに対米輸出を見据え、元米大統領特別補佐官のトーケル・パターソン氏(60)を6月23日付で非常勤の取締役に起用する。同社にとって外国人の役員就任は初めて。パターソン氏は2009年からリニア中央新幹線の米国での販売促進活動に携わり、米政界に通じる人物だ。

 JR東海が米国向けに輸出を想定しているのは、N700系の車両を中心とする高速鉄道のトータルシステム「N700―I Bullet」。昨年4月には日本型高速鉄道システムの国際標準化を進める「国際高速鉄道協会(IHRA)」をJR各社やメーカーとともに設立。開業から50年にわたり、車内乗客の死傷事故がゼロという東海道新幹線の高い安全性を強みだ。

 「東海道新幹線開業から50年の経験で蓄積したものを財産として共有し発信したい」。JR東海で高速鉄道輸出を推進する葛西敬之名誉会長はIHRAの初会合でこう語った。同協会には同社のほかJR東日本やJR西日本、JR九州の新幹線を運行するJRグループ3社やメーカー、商社など25社が名を連ねている。

 高速鉄道の輸出をめぐっては中国なども売り込みを加速しており、国際競争が厳しくなっている。IHRAはまず、日本の新幹線の衝突を防ぐ仕組みである「平面交差のない新幹線専用の軌道」と「自動列車制御装置(ATC)」の二つを国際的な標準とすることを目指す。昨年10月には国際高速鉄道会議を開催し、日本の技術力の高さを世界にアピールした。

 だが具体化の段階にあるプロジェクトはまだない。JR東海は当初、米フロリダ州の高速鉄道プロジェクトに照準を合わせ準備を進めていたが、11年に知事が代わり、プロジェクトが白紙になった苦い経験がある。高速鉄道の輸出には政治も絡み一筋縄ではいかない。「地域の状況などを見ながら時間的に長いスパンで取り組むことになるだろう」(海外高速鉄道プロジェクトC&C事業室)と腰を据えて挑む。

 昨年4月に台湾新幹線を運営する台湾高速鉄路と技術コンサルティング契約を締結した。海外での技術支援の実績を示し、米国での展開につなげる考えだ。
 
 東海道新幹線開業から半世紀。関連産業はこれまで典型的な内需型で日本経済を下支えする存在だった。だが今後は積み上げてきた技術力や安全性を海外で展開する。
日刊工業新聞2014年09月25日 1面/2015年05月15日 2面/05月28日2面を加筆・修正
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
とにかくインフラ輸出は政府の後押しとオペレーターが先頭に立って動かないと進まない。スマートコミュニティーやインダストリー4・0は、そのオペレーターの役割が見あたらない。

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