課題山積みのロボットSI、業界一丸で難局超える
ロボットシステムインテグレーター(SI)業界は国内の人手不足や技術領域の急拡大、自動化投資規模の小さな低予算市場の開拓、海外への仕事の流出など、さまざまな課題を抱える。業界としての対応を進めるため、2018年7月にFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、東京都港区)が設立された。1年以上が経過し、協会とSI各社の取り組みも進み、課題解決の芽が出つつある。(取材・小寺貴之)
欧、食品消費期限延長を実現
食品製造業向けなどの低予算市場に対し、ロボSI各社は共同開発や先端技術を排することで開発コストを切り詰めて対応してきた。だが自動化によって省人化以上の価値を提案することも可能だ。欧州ではロボで食品を製造し、消費期限を3日延ばしたスイスABBのような例がある。盛り付けなどの作業をロボ化し、クリーンルームのような環境で製造する。雑菌などの汚染源である人間は現場に入れない。
スイスABBを視察したオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の青木伸輔営業本部長は、「人が作るから消費期限が短くなるという発想に驚いた。食品安全の規制当局も協力し実現している。衝撃だった」と振り返る。毎朝コンビニにお弁当やお総菜が並ぶまでに、配送会社や食品工場などで多くの人が働いている。ロボ化で消費期限が数日単位で延びるなら、無理な深夜労働を減らせるかもしれない。
ただ、既存の食品工場へのロボ導入ではなく、工場を新たに設計して作る必要がある。投資は大がかりになるが、青木本部長は「人手不足やサプライチェーンの抱える問題を根本的に解消できる可能性がある」と期待する。
発想の転換、VB知恵絞る
お弁当などの盛り付けに人が必要とされてきたのは、軟らかく不定形な食品をロボが苦手としてきたことと、見栄えを含めた細かな検査が作業に組み込まれているためだ。頻繁に作るものが変わることもあり、機械より人手で作業した方が低コストなケースも多い。
これは人工知能(AI)技術でシステムを汎用化することで対応できると期待される。AIベンチャーのDeepX(東京都文京区)は、計量器のイシダ(京都市左京区)と組んでディープラーニング(深層学習)を用いたパスタの盛り付けロボを開発している。ゆでパスタのつかむ位置や、つかんだ後に軽く揺すり盛り付け量を調整する。DeepXの那須野薫社長は「パスタができれば、きんぴらなどのお総菜に展開できる」と説明する。
盛り付けも課題だ。iCOM技研(兵庫県小野市)の山口知彦社長は「熟練者は唐揚げの肉を見極めて、食感の違う唐揚げを選んで並べている」と指摘する。同じ鶏もも肉や胸肉であっても場所が違うと食感が変わる。衣が揚がった状態で食感を推定する。これは従来技術では難しかった。熟練の眼力を深層学習に学ばせれば、実現できるかもしれない。見栄えもAI技術で評価し、問題があれば遠隔で修正することも不可能ではない。
「構想」に正当な対価
産ロボの7割が輸出されている。システム構築の仕事が海外に流れている課題に対しては、システムの構想設計を日本のSIが受ける仕組みを構築しようとしている。最上流の構想設計を握れれば、現場での調整を含めてシステム構築の知見が日本のSIに蓄積する。だが、これまで構想設計はSIの営業努力の一つとして無償で提供されることが多かった。発注側がロボットシステムの構想を求め、それを他社に作らせる例さえある。リンクウィズ(浜松市東区)の吹野豪社長は「構想を提出したら設計はそのまま、他社と相見積もりにかけられた。憤るよりもあきれた」と経験を語る。
構想設計に対して対価が払われないと技術や知見が健全に蓄積されない。そこでSIer協会では設計流用の適正化を呼びかける。受発注の力関係は強固だが成功例はある。
ロボコム(東京都港区)は構想設計を担うベンチャーだ。同社取締役でオフィスエフエイ・コムの飯野英城社長は「構想設計で対価をもらうのは不可能と言われてきた。組織を作り、適切に契約すればビジネスになる」と説明する。現在同社はキャパシティーに対して2倍の仕事がきている。
さらに現場調整のデジタル化や職人が担ってきた技の可視化も進む。リンクウィズはパナソニックと組んで溶接の熟練技能のデジタル化を進める。リンクウィズはロボットアームの先のレーザースキャナーで加工と同時にワークの形を計り、動作修正や品質検査ができる「Lロボット」を持つ。ここに溶接機の電流値や溶接の速度、仕上がりなどのデータを統合し、パナソニックの熟練技能者と溶接の現象理解を深める。熟練の技を可視化してロボで再現する。
人材集う業界へ
日本では人手不足や熟練技能者の高齢化も深刻な問題だ。リンクウィズの吹野社長は「溶接に限らず、職人のノウハウをデジタル化してロボに実装していくことが必要」と説く。構想設計から職人ノウハウまで日本に蓄積できれば、ロボを設営する場が海外に流れてもSIの競争力を維持できる可能性はある。
ロボSIはロボの据え付けだけではなく、AIや加工技術、生産管理など幅広い知見が必要になる。製造業そのものを支える職種だといえる。これまでは産業のヒエラルキーに隠れて光が当たらなかったが、SIer協会設立によって、業界としての認知を広げる構えだ。その取り組みの一つとして、高校生や高等専門学校生らを対象とした「ロボットアイデア甲子園」を開く。SIer協会の久保田和雄会長は「若い世代にまずSIという職業を知ってもらう」と狙いを説明する。
SIは幅広い技術を統合するため、「一生勉強が宿命付けられた職種」(久保田会長)だ。ハードもソフトも技術の進化の速度は日々増している。一方でAIのように長年開発してきた技術がある日無料でばらまかれるほどの極端な変化はない。オープン化された技術の恩恵を受ける側だ。専門技術を深めてからSIに転身する人も多い。オフィスエフエイ・コムの飯野社長は「一個人でみると技術者としての寿命は長く、経験や蓄積が生きる」と断言する。業界として優秀な人材を惹きつけられるか注目される。