大企業アクセラレーターの「本音」、新たな協業先はこう探す

富士通・徳永氏vs東急電鉄・加藤氏

 大企業とスタートアップとの連携が増えている。技術革新や産業構造の変化を機敏に捉えた事業展開には、自前主義から脱却しオープンイノベーションへ舵(かじ)を切る必要があるからだ。有望スタートアップを発掘する方策のひとつとして、注目されるのが大企業による「アクセラレータープログラム」。公募先の中から選抜した将来有望企業に出資や経営支援を行うことで、事業成長を「加速(アクセラレート)」する取り組みだ。その代表格として知られる2社の担当者が現状と将来展望を語り合う。

イノベーションの萌芽は外にある


 東急電鉄 事業開発室プロジェクト推進部プロジェクトチーム課長補佐・加藤由将さん(以下、加藤) 東急アクセラレートプログラム(TAP)は4期目を迎えました。徳永さんのところはもっと長いですよね。

 富士通 マーケティング戦略本部ビジネス開発統括部シニアディレクター兼ベンチャー協業推進部部長・徳永奈緒美さん(以下、徳永) 現在、第7期を募集中です。私自身はベンチャーとの協業に携わるようになって18年ほどになりますが、事業環境は様変わりしました。当社のように国内に開発部隊の軸足を置く技術志向の事業会社にとって、協業の可能性を秘めた日本のスタートアップ企業が格段に増えたことが最大の変化です。

 加藤 富士通さんは充実した研究開発部門を抱えておられますが、東急グループにはそれがない。少子高齢化をはじめとする制約条件を乗り越え、暮らしに深く関わる多様なサービスを展開する上で、技術革新を取り込むことは不可欠ですが、僕らはそれを外に求めているのです。当社のアクセラレートプログラムはグループ全体のリアルの顧客接点を活用しながらイノベーションの創出に取り組めるのが特徴です。

 徳永 リアルな現場を持つ意義は大きいですね。

 加藤 例えば一般の不動産会社はショッピングセンター(SC)という「箱」があるかもしれませんが、資本が異なるテナントのオペレーションまでなかなか踏み込めない。でも東急グループは百貨店からスーパー、映画館まで直営展開しています。生活者と密接に関わるこれら場面を生かしてテクノロジーの実証が可能です。

「いま」より「道程」が大事


 オープンイノベーションや「協創」の重要性が叫ばれるいま-。果たして大企業の組織風土はそれを体現するものとなっているのか。

 徳永 AI(人工知能)関連の複数のスタートアップと共同開発したロボットAIプラットフォームが象徴的なのですが、スタートアップはもはや私たちにとって「支援」の対象ではなく「パートナー」なんです。ある技術領域では競合することもありますし、真っ向から対峙(たいじ)したら我々がコスト面で負けるかもしれない。でも、顧客企業は特定の課題解決のためだけに新たな技術や製品を導入するわけではありません。トータルソリューションとして価値を生み出すには、スタートアップとSIerが組むことが大きな意味を持つのです。当社はアクセラレータープログラムの実施にあたり、半期に一度、各事業部門のトップと事業目標や技術ニーズについて議論を重ねた上で、協業相手の選定に臨みます。さまざまな事業分野において、スタートアップとのリアルビジネスの経験を重ねる中で、連携に一層前向きになる社内の雰囲気を肌身をもって感じます。

 加藤 その瞬間に最も優れたパフォーマンスやスペックを提供する相手と組むことは合理的な意思決定だと思いますが、一方で表層的な見方になる恐れがあります。僕は協業相手の成長性を見極める上で、「時間軸」を加味することが大切だと考えるんですよ。現時点でのインターフェースもユーザーエクスペリエンスには遜色ない2社があったとします。一方は、ここ数年、あまり変わってこなかった中小企業、もう1社は飛躍的な変化を遂げてきたスタートアップ。さてどちらと組むべきか。

 徳永 確かに事業部の担当者は、その瞬間を「点」で捉えますが、スタートアップを長い時間軸でウオッチしている私たちのような立場の人間は「線」で捉えますよね。「この技術はそろそろいけるんじゃないか」と協業のチャンスを見極めることは重要なポイントです。

 加藤 全く同感です。その視点は、事業開発室という組織運営においても大切にしています。さまざまなスタートアップと接点がありますが、「現在の姿」だけに目を奪われては、将来を見誤ってしまう恐れがある。経営者の軌跡やビジョンが僕らが目指すものと合致するのか、コンテクスト(文脈)で捉えることはすごく重要だと感じてます。だから起業家のフェイスブックもよくチェックしますよ。「苦境にある中で、よくこんな夢のある投稿ができるな」なんて胸を打たれることも。

 徳永 私もむしろ、そちらの方が大事。すでに成長した企業とは、スペックを見て契約するわけですが、スタートアップとの関係は違う。経営者がどんなストーリーを持つ人物なのか、どんな夢を追っているのか、「個人」が極めて重要になります。こうした情報を集め、社内の事業部門につなぐことで経営判断の一助としてもらうことも私たちの役割だと思っています。一方で、自社に有用な情報を得るには「富士通の一担当者」ではだめなんです。スタートアップコミュニティーの一員として受け入れられ、経営者との信頼関係を構築するには、こちらもまず個人として、どんな価値観や経験を持つ人物なのかを知ってもらうことが第一歩となります。
ベンチャー協業を通じてキャリアを築いてきた徳永さん

築いてきたノウハウ、どう継承するか


 試行錯誤しながら、培われてきたスタートアップとの関係。これを組織としてどう生かし、どう継承すべきか。

 加藤 大企業の新規事業担当者が人事ローテーションの中で、数年で異動するのは問題だと思っています。既存の事業部門でも、それに長く携わる人が紆余(うよ)曲折を経て組織が目指すビジョンを長い時間をかけて育んできたからこそ、いまにつながっているケースもある。だから、徳永さんのようにスタートアップとの関わりを通じて長くキャリア形成されている方が、本当に価値を生み出すのはまさにこれからだと思いますよ。

 徳永 私たちには、求められる成果も価値観も全く異なります。ある人が言っていたのですが、既存事業に携わる人材はプロセス重視、いわば「様式」に重きを置く「侍」だとすれば、新規事業に求められるスキルは、失敗しながら作戦を編み出し、それをチームで共有しながら学習する、「忍者」なんですよ。

 加藤 「忍者」、確かにね(笑)。僕はこれからの組織風土改革において、人材を流動化する効果は非常に大きいと感じますね。アクセラレートプログラムに基づいて、出資はしているものの連携効果がどうも薄いという協業先に、当社から人材を送り込むケースがあります。すると入ってくる情報が質・量ともに格段に異なってくる。大企業って温水プールの中をコーチに教えられた泳法でコースに並んで泳ぎ続けているようなものですが、一度、外海に出ることで、同じ事業に携わりながらも目線や意識が全く変わることを目の当たりにしました。

 日本ではまだ少ない大企業によるM&A(企業の合併・買収)。スタートアップとの連携が深まる先に、そんな未来は到来するのか。

 徳永 当社のアクセラレータープログラムではまだそうした事例はありません。経営に直接的なインパクトがあるような結果を残したいとなれば最終的にはM&Aに舵を切らざるを得ないと思いますので、今後そのように協業案件を育てていきたいと考えています。

 加藤 日本のスタートアップには新興市場の功罪があるというのが僕の持論ですが、TOB(株式公開買い付け)やM&Aはいずれ広がっていくと思いますよ。ダイナミックな事業の新陳代謝が生まれないような日本では困るでしょう。ただ、そのためには大企業側ももっと経験を積む必要がある。この世界の成功事例として知られるのはKDDIですが、「あの会社なら事業売却してもいい」と経営者が言ってくれるー。そこに至るには並々ならぬ努力があったと思います。
「スタートアップファースト」を信念とする加藤さん

神崎 明子

神崎 明子
12月27日
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次回はEDGEof柳原暁氏とベンチャーカフェ東京小村隆祐氏の対談です。

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