日本の腰痛生涯有病率は83%、「一家に1台アシストスーツ」が救世主に!
進む低価格化、ユーザー側の製品リテラシーも広がる
人の活動をサポートするパワーアシストスーツの低廉化が進んでいる。電池や駆動力を減らしたパッシブ型(受動型)モデルが続々と投入された。バネの力で上半身を起こす動作を支援し、腰痛予防につなげる。各社はモーターなどの駆動源を装着するアクティブ型にはない軽さと価格の安さを提案する。広い価格帯で商品がそろい、介護分野などではユーザー側の製品リテラシーも広がりつつある。アシストスーツ市場が立ち上がる環境が整いつつある。(取材・小寺貴之)
「マーケットを立ち上げる起爆剤として新商品を投入する」―。イノフィス(東京都新宿区)の古川尚史社長はパッシブ型の「マッスルスーツ・エブリー」の位置付けをこう説明する。11月1日に発売する同エブリーの消費税抜き価格は13万6000円だ。古川社長は「日本は人口の25%が腰痛に悩み、その10%が通院している。一家に1台アシストスーツの時代がくる」と掲げる。
同社のマッスルスーツは空圧式が特徴だ。コンプレッサーなどで圧縮空気をため、人工筋肉で腰の動きをサポートする。電池が必要なモーター駆動に比べスーツ重量当たりの支援力が大きい。高出力モデルは約36キログラム重の支援力が出る。だがコンプレッサーを含めて90万円ほどの投資が必要だった。
同エブリーは人工筋肉を空気バネとして利用し、駆動源に手動ポンプを採用するパッシブ型として価格を抑えた。補助力は約26キログラム重。介護や農作業など向けに提案する。
マッスルスーツを開発してきた東京理科大学の小林宏教授(イノフィス取締役)は「13年に会社を作った頃は、スーツを着ると全身が筋肉隆々になるかのように人体に出せない力が出せる装置と受け止められた」と振り返る。
ユーザーにとって難しいのは、一つの装置で全ての動作をサポートできる訳ではない点だ。重量物を抱え上げる動作や中腰姿勢の維持は支援するが、他の動作時にはむしろ邪魔になることもある。
電動補助型を手がけるサイバーダインやパナソニック系のATOUN(アトウン、奈良市)も腰補助モデルを投入し、作業者の動作分析や環境整備など、現場改善コンサルティングを含む提案を重ねてきた。
アトウンの藤本弘道社長は「作業環境を工夫し身体に無理な作業をなくせるならば、その方がいい。現場の求める答えは必ずしも装着型ロボに限らない」と指摘する。ここにオランダ・レイボなどのパッシブ型が参入し、安価なアシストスーツも選べるようになった。
アシストスーツは機能をそぎ落とすにつれて、フレームのないサポートウエアと競合し始めている。装着型ロボットから派生したアシストスーツは、身体をフレームで支えてバネやモーターの力を身体に伝える。サポートウエアはゴムベルトや伸縮生地を着るため、より軽く安い。サポートウエアもこれまでは数千円の腰痛防止ベルトと比較されてきた。
モリタホールディングスの腰部サポートウエア「ラクニエ」はもともと消防士の腰負担軽減のために開発された。開発当初はモーターを積んだアクティブ型を設計したが、弾性生地の張力を利用するサポートウエアに落ち着いた。
重さは250グラムで、脊柱起立筋と大腿二頭筋の負担を17%軽減した。価格は2万3000円。バックルを外せば補助が解除され、そのままトイレに行ける。作業着の中に着ることができ、トラクターやフォークリフトの操縦などイスに座る作業を邪魔しない。
開発担当の松島至俊課長代理は「腰補助はできて当然。むしろ他の作業を邪魔しないデザインに開発資源をさいてきた」と振り返る。消防よりも介護現場に受け入れられ、12年の発売から累計3万着が売れた。
現在は農作業向けが売れている。農家は後継者問題が深刻なこともあり、「自分の身体を自分で守る意識が高い」(松島課長代理)。介護施設では従業員の腰痛離職を減らすために事業者が購入するが、農家は利用者自身が購入していく。
日本の腰痛生涯有病率は83%と高く、サポートウエアは作業服と同じくらいの数が売れてもいいはずだ。作業服メーカーの旭蝶繊維(広島県府中市)は早稲田大学と開発したサポートウエアを販売する。
腰に加え上腕もサポートし、3割程度の筋負荷軽減効果を確認した。価格は3万9000円。早大の田中英一郎教授は「上腕二頭筋の負荷を三頭筋へ、背筋の負荷を腹筋へと回す」と補助原理を説明する。「女性は二の腕が締まり、男性はおなかが引っ込む」という。
旭蝶繊維は同ウエアを1月に発売し、現場に出向いて使い方を指導してきた。児玉賢士社長は「使っているうちに、だんだんキツく締めたくなってしまう。本来は15―20%の負荷軽減で、長時間身につける使い方をしてほしい」という。ユーザーが締めすぎる前提で縫製法や生地を選ぶ。
パワーアシストスーツは低廉化し、サポートウエアもメーカーが増えている。これまでは開発者がユーザーの現場作業を分析し、補助力や作業性などを考えてきた。だが現場は多様で、持ち上げ動作以外の作業が導入を阻んできた。一つのアシストスーツで全ての動作を支援できることはなく、人体に出せない力が要る仕事はスーツで補うよりも機械に任せた方が安全だといえる。
これからはユーザー側から現場や作業内容に応じて製品の補助力や重量、価格を選べるようになる。そして初期に導入した介護や農業などのユーザーは補助の限界を知り、スーツに合わせた身体の使い方などのノウハウを蓄積しつつある。各メーカーの販売代理店施策はバラバラだが、売り方次第ではマーケットが急速に立ち上がる可能性がある。
マーケットを立ち上げる起爆剤
「マーケットを立ち上げる起爆剤として新商品を投入する」―。イノフィス(東京都新宿区)の古川尚史社長はパッシブ型の「マッスルスーツ・エブリー」の位置付けをこう説明する。11月1日に発売する同エブリーの消費税抜き価格は13万6000円だ。古川社長は「日本は人口の25%が腰痛に悩み、その10%が通院している。一家に1台アシストスーツの時代がくる」と掲げる。
同社のマッスルスーツは空圧式が特徴だ。コンプレッサーなどで圧縮空気をため、人工筋肉で腰の動きをサポートする。電池が必要なモーター駆動に比べスーツ重量当たりの支援力が大きい。高出力モデルは約36キログラム重の支援力が出る。だがコンプレッサーを含めて90万円ほどの投資が必要だった。
同エブリーは人工筋肉を空気バネとして利用し、駆動源に手動ポンプを採用するパッシブ型として価格を抑えた。補助力は約26キログラム重。介護や農作業など向けに提案する。
マッスルスーツを開発してきた東京理科大学の小林宏教授(イノフィス取締役)は「13年に会社を作った頃は、スーツを着ると全身が筋肉隆々になるかのように人体に出せない力が出せる装置と受け止められた」と振り返る。
ユーザーにとって難しいのは、一つの装置で全ての動作をサポートできる訳ではない点だ。重量物を抱え上げる動作や中腰姿勢の維持は支援するが、他の動作時にはむしろ邪魔になることもある。
電動補助型を手がけるサイバーダインやパナソニック系のATOUN(アトウン、奈良市)も腰補助モデルを投入し、作業者の動作分析や環境整備など、現場改善コンサルティングを含む提案を重ねてきた。
アトウンの藤本弘道社長は「作業環境を工夫し身体に無理な作業をなくせるならば、その方がいい。現場の求める答えは必ずしも装着型ロボに限らない」と指摘する。ここにオランダ・レイボなどのパッシブ型が参入し、安価なアシストスーツも選べるようになった。
他の作業を邪魔しない
アシストスーツは機能をそぎ落とすにつれて、フレームのないサポートウエアと競合し始めている。装着型ロボットから派生したアシストスーツは、身体をフレームで支えてバネやモーターの力を身体に伝える。サポートウエアはゴムベルトや伸縮生地を着るため、より軽く安い。サポートウエアもこれまでは数千円の腰痛防止ベルトと比較されてきた。
モリタホールディングスの腰部サポートウエア「ラクニエ」はもともと消防士の腰負担軽減のために開発された。開発当初はモーターを積んだアクティブ型を設計したが、弾性生地の張力を利用するサポートウエアに落ち着いた。
重さは250グラムで、脊柱起立筋と大腿二頭筋の負担を17%軽減した。価格は2万3000円。バックルを外せば補助が解除され、そのままトイレに行ける。作業着の中に着ることができ、トラクターやフォークリフトの操縦などイスに座る作業を邪魔しない。
開発担当の松島至俊課長代理は「腰補助はできて当然。むしろ他の作業を邪魔しないデザインに開発資源をさいてきた」と振り返る。消防よりも介護現場に受け入れられ、12年の発売から累計3万着が売れた。
現在は農作業向けが売れている。農家は後継者問題が深刻なこともあり、「自分の身体を自分で守る意識が高い」(松島課長代理)。介護施設では従業員の腰痛離職を減らすために事業者が購入するが、農家は利用者自身が購入していく。
最適な使い方を現場で指導
日本の腰痛生涯有病率は83%と高く、サポートウエアは作業服と同じくらいの数が売れてもいいはずだ。作業服メーカーの旭蝶繊維(広島県府中市)は早稲田大学と開発したサポートウエアを販売する。
腰に加え上腕もサポートし、3割程度の筋負荷軽減効果を確認した。価格は3万9000円。早大の田中英一郎教授は「上腕二頭筋の負荷を三頭筋へ、背筋の負荷を腹筋へと回す」と補助原理を説明する。「女性は二の腕が締まり、男性はおなかが引っ込む」という。
旭蝶繊維は同ウエアを1月に発売し、現場に出向いて使い方を指導してきた。児玉賢士社長は「使っているうちに、だんだんキツく締めたくなってしまう。本来は15―20%の負荷軽減で、長時間身につける使い方をしてほしい」という。ユーザーが締めすぎる前提で縫製法や生地を選ぶ。
介護・農業でノウハウ蓄積
パワーアシストスーツは低廉化し、サポートウエアもメーカーが増えている。これまでは開発者がユーザーの現場作業を分析し、補助力や作業性などを考えてきた。だが現場は多様で、持ち上げ動作以外の作業が導入を阻んできた。一つのアシストスーツで全ての動作を支援できることはなく、人体に出せない力が要る仕事はスーツで補うよりも機械に任せた方が安全だといえる。
これからはユーザー側から現場や作業内容に応じて製品の補助力や重量、価格を選べるようになる。そして初期に導入した介護や農業などのユーザーは補助の限界を知り、スーツに合わせた身体の使い方などのノウハウを蓄積しつつある。各メーカーの販売代理店施策はバラバラだが、売り方次第ではマーケットが急速に立ち上がる可能性がある。
日刊工業新聞2019年10月18日