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来年投入のFCV「ミライ」、トヨタは何を向上させるのか

航続距離は3割向上

日刊工業新聞2019年10月11日


 トヨタ自動車は量産型燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」の次期モデルを2020年末に日本、欧米などで発売する。FCシステムを一新し、航続距離を従来比30%延ばすことを目指し開発を進めている。24日に開幕する「第46回東京モーターショー」で試作車を初公開する。

 出展する「ミライコンセプト=写真」は基幹部品であるFCスタックなどFCシステムを一新し、水素搭載量を拡大。高級車ブランド「レクサス」の旗艦セダン「LS」や新型「クラウン」と共通の新プラットフォーム(車台)を採用した。全長4975ミリ×全幅1885ミリ×全高1470ミリメートルの後輪駆動車で、乗車定員は5人。現行ミライの航続距離650キロメートルから、30%向上させる目標だ。

 ミライは初の量産型FCVとして14年に発売され、累計約1万台を販売した。トヨタは20年以降にFCVの年間販売台数を3万台以上に増やす目標を掲げる。ミライコンセプトの開発責任者である田中義和チーフエンジニアは「『ミライだから選んだ』と言ってもらえるようなクルマにし、水素エネルギー社会をけん引したい」としている。デザインを大きく変更し、走行性能を改良した次期ミライを普及拡大のきっかけとし、FCVのステージを一段高めたい考えだ。

 また、レクサスの電気自動車(EV)の試作車も第46回東京モーターショーで世界初公開すると発表した。

サプライヤーとの“つながり力”


日刊工業新聞2015年1月5日


                

 トヨタ自動車が世界で初めて市販した燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」。発電を担う燃料電池スタックや、燃料となる水素を蓄える高圧水素タンクなどFCVならではの搭載部品に多くの部品メーカーの先端技術が採用されている。トヨタの加藤光久副社長は「(FCV普及は)トヨタだけでは実現できない。皆さんとともに歩む長い道のり」と表現する。“究極のエコカー”と言われるFCVには部品メーカーの下支えも欠かせない。

(ミライには新技術が多く採用されている)

燃料電池スタック


 FCVが従来のクルマと大きく違うのが、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、走行する点。その発電を担うのが燃料電池スタックだ。基幹部品のため一段と高度な技術や品質が求められている。

(ミライのFCスタックアセンブリー)

 トヨタ紡織は燃料電池スタック向けに、チタン製セパレーターを供給している。自動車用シートのリクライニング機構に用いる高精度・高速プレス加工技術を応用し、燃料電池内の水素の微細流路形状の加工を実現。発電効率の向上につなげた。FCVへの採用で事業領域を広げ、パワートレーン(駆動系)基幹部品の事業拡大を進める。

 トヨタ車体は燃料電池スタックを構成するセルの空気流路となるチタン製板状部品「3Dファインメッシュ流路」が採用された。従来の溝状から3次元のメッシュ(微細格子)状に構造を変更し、酸素の拡散性とともに排水性も高めた。メッシュ構造はトヨタ車体がトヨタに提案したもので、セルの発電効率が向上した。

 住友理工(旧東海ゴム工業)は燃料電池スタック向けのゴム製シール部材「セル用ガスケット」を開発した。燃料電池内で水素と酸素の流路を保ち、排水性も高まる。高機能ゴムや自動車用防振ゴムで培った独自の配合技術、精密加工技術を融合して長期信頼性を確保した。住友理工は高圧水素タンクに充填(じゅうてん)している水素を燃料電池スタックに供給する水素ホースなども手がける。

(ミライのボンネット内)

高圧水素タンク・周辺部品


 燃料電池スタックとともに基幹部品に位置づけられる高圧水素タンク。高強度や密封性能などに細心の注意が払われるFCV特有の部品だ。タンク本体のほか、周辺部品も果たす役割が大きい。


 ジェイテクトは水素タンクに装着して高圧水素を供給・封止する「高圧水素供給バルブ」と、高圧水素を使用可能な圧力まで減圧する「減圧弁」が採用された。ジェイテクトはFCVの試作段階から開発を進めており、油圧パワーステアリングで長年培った高圧オイルの制御技術を応用した。

 愛三工業は高圧水素を減圧して燃料電池スタックに供給する水素インジェクターやバルブを開発した。液化石油ガス(LPG)や圧縮天然ガス(CNG)向けインジェクターで磨いた技術を応用して成果を上げた。豊田工場(愛知県豊田市)で生産する。FCVへの採用部品の拡大を目指し、新製品開発を推進する。

 愛知製鋼は高圧水素用ステンレス鋼「AUS316L―H2」の供給を始めた。高圧水素に接触する継ぎ手など複数の高圧水素系部品に使用される。水素ステーション関連の機器で採用されている高延性ステンレス鋼に冷間引き抜き加工を追加して、強度を1・5倍に高めている。

 高圧水素タンクでは豊田合成がタンク内側に位置するライナー部を担当。タンク用の素材では東レが高強度炭素繊維材料、宇部興産がナイロン樹脂を供給する。

 水素ディテクター(検知器)が採用されたのは、ガスセンサーメーカーのエフアイエス(兵庫県伊丹市)。水素と酸素の化学反応で発電するFCVにとって、爆発につながる可能性がある水素の漏れを検知するセンサーは「超重要部品のうちの10項目に入っている」(小野靖典執行役員)。エフアイエスは試験用やリース販売用のFCV向けで実績を持つが、市販車向けに新しい検知素子を開発した。

 市販車向けでは15年、30万キロメートルという寿命を考慮した高い耐久性や、迅速な起動が求められていた。一定の検知温度に達する起動時間を早くするためには、検知素子を小さくして体積を減らす必要があった。ただ耐久性を持たせるには表面積を大きくしなければならず、同社はこの相反する課題に時間をかけて取り組んだ。

 新しい検知素子は白金コイルの表面にパラジウム系の貴金属触媒を電着させ、樹枝状の構造にした。これにより検知素子を小型化し、起動時間は従来の3―10秒から1秒以下に短縮。一方で表面積を従来の約600倍に広げ、耐久性も両立させた。

 豊田自動織機は酸素供給エアコンプレッサーを供給する。6葉ヘリカル(らせん形状)ルーツ式ローターを世界で初めて採用し、小流量から大流量までの空気を効率よく圧縮できるようにした。FCVは始動後に水素と酸素を常に燃料電池スタック内で反応させる。このためアイドリング時の小流量から加速時の大流量までの空気を圧縮して、酸素を燃料電池スタックに供給しなければならない。

 6葉ヘリカルルーツ式ローターの搭載で、空気流量の変化に対応しながら効率よく空気の圧縮ができるようになり、FCVの加速性能や航続距離の向上につながった。加速時に大量の空気を吸引することで発生する不快音も課題だったが、空気流路を消音構造にすることでノイズや振動を低減した。

 豊田自動織機は水素循環ポンプも開発した。発電時に発生する水と未反応の水素を効率よく循環させて、再び燃料電池スタックに供給する部品。水素を無駄なく使用するほか、燃料電池スタック内部を加湿して極低温時の凍結を防ぐ役割などを担う。燃料電池スタックと一体化し、小型・軽量や高効率化につなげた。

(「ミライ」の水素タンク搭載工程)
※内容、肩書きは当時のもの

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