新たな燃費基準“油田から車輪まで”。未熟なEV、HVに再脚光

「プリウス」のプラットフォーム(トヨタ公式ページより)
 自動車業界で勢いを増す「電動化」の潮流に変化が起きている。電気自動車(EV)の陰に隠れがちだったハイブリッド車(HV)が再び注目されてきた。トヨタ自動車は関連特許の開放を決め、中国政府は環境規制でHVを優遇する方針を示した。パワートレーン(駆動装置)の組み合わせを最適化し、二酸化炭素(CO2)排出量低減を狙う考え方が広まってきたことが背景にある。HVが勢いを保つには、コスト低減を継続できるかがカギを握る。

 経済産業省と国土交通省は6月、2030年度までに新車の燃費を16年度の実績値比で32%改善することを自動車メーカーに義務付ける新たな燃費基準を公表した。新基準の特徴の一つは、原則除外してきたEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を対象に加え、燃費評価に「ウェル・ツー・ホイール(W2W、油田から車輪まで)」と呼ぶ考え方を導入した点だ。

 W2Wは自動車の走行時だけでなく、ガソリンや電気がつくられる工程も含めて燃費を評価する。EVは走行時のCO2排出量はゼロだが、石炭火力で発電した電気で走ればトータルでCO2排出量はゼロとはいえない。

 W2Wの考え方では、EVがエコかどうかは1次エネルギーの構成に左右される。火力発電への依存度が高い中国やインドでは、HVの方がCO2排出量が少ない。やみくもにEVを増やせば、発電所のCO2排出量の増大化につながりかねない。

 16年に発効した温暖化対策の国際ルール「パリ協定」では、産業革命前からの地球の気温上昇を2度C未満に抑えるという目標を定めた。世界のCO2排出量のうち輸送分野は2割を占めており責任は大きく、EVへの期待が高まった。
                 

EV、有力解も…「未熟」


 ただEVは「自動車としてまだ未熟」と愛知工業大学教授でPwCあらた顧問の藤村俊夫氏は指摘する。電池のエネルギー密度がまだ不十分であり、現時点では航続距離を伸ばすために大量の電池を積む必要がある。それでもガソリン車に比べ航続距離で劣る上に車両価格は高い。

 7月初旬、日本自動車部品工業会の岡野教忠会長はインドを訪れた。インド自動車部品工業会の元会長と懇談し、日本の新燃費基準について説明したところ、「賛同いただいた」と明かす。インド政府は30年までに新車販売をすべてEVにする方針を示したが、その後、事実上撤回した。政策の揺れを経験しただけに「インドの自動車産業界は、現実路線で問題解決を目指す日本の方針に共感したのではないか」(岡野会長)と話す。

 EVが環境負荷低減の有力解の一つであることに変化はないが、現状では過度な依存は問題解決につながらない。過熱したEVブームは去り、今後はガソリン車やHV、PHVを含むパワートレーンミックスをどう最適化するかが電動化のテーマになる。

「低燃費車」中国が優遇案で現実解


 そこで再び注目されるのがHVだ。現時点でガソリン車に対する追加コストと燃費改善効果のバランスが最も良く、エコカーの現実解として存在感を高める。7月には中国政府がガソリン車・ディーゼル車のエンジン車に比べHVを優遇する方針を示した。

 中国はEVやPHVを指す新エネルギー車を一定の比率で生産することを義務付ける「NEV」規制を19年に導入した。自動車メーカーはエンジン車生産で科されるマイナスポイントの一定比率を、新エネ車の生産で得るポイントによって相殺するよう義務付けられる。

 今回のHV優遇案では、エンジン車と同様に分類されているHVを新たに「低燃費車」と区分けし、HV生産で科されるマイナスポイントをエンジン車より少なくする。

 自動車販売で世界トップ市場の中国の方向転換は、他の新興国の規制に変化を及ぼす可能性はある。トヨタやホンダが展開する「日本のHV技術に追い風だ」と中西孝樹ナカニシ自動車産業リサーチ代表は指摘する。

 ただ優位を保てるか楽観視できない。日本メーカーの代表的なHV技術は「ストロング型」と呼ばれる。エンジンとモーターの両方を使って高効率な走行と加速性能を実現する一方、電池とモーターが大型でコスト増は避けられない。現状では消費者に価値が認められ、追加コストを車両価格に反映できている。

 しかし今後、高い技術開発コストをかけ燃費性能を倍々ゲームで向上させても、利用者が感じる絶対額のメリットは目減りしていく。月1万円だったガソリン代が5000円に節約できても、次は2500円の節約にしかならないからだ。HVが選ばれ続けるためには、性能向上を上回る形で低価格化を進める必要がある。

 また欧州メーカーは、燃費改善効果は大きくないが、コストが低い「マイルドハイブリッド」技術を積極展開する意向。日本メーカーにとって、消費者メリットの維持、ライバルに対する競争優位という両面でHVのコスト低減がより重要なテーマになる。
                 

トヨタとホンダが動く


 トヨタは特許開放という手を打った。HVで培ってきたモーターやパワーコントロールユニット(PCU)などに関する電動車技術2万3740件の特許権を無償提供する。

 トヨタ陣営を拡大するとともに、HVの生産量拡大によるコスト低減を狙う。また外部の知見やデータを取り込み技術開発を効率化する。寺師茂樹副社長は「これから10年で電動車両の普及が加速し、普通のクルマになる」と期待を膨らませる。

 ホンダも現状で三つあるHV駆動システムを2モーター型の「i―MMD」に一本化し、開発や生産の効率化につなげる方針。電動化のコア技術はモーター、電池、PCUの三つ。

 これらにエンジンを加えたものがHVだ。3コア技術に充電器を付ければEV、燃料電池スタックと水素タンクを加えれば燃料電池車(FCV)になる。本田技術研究所の松尾歩常務執行役員は「HV技術を進化させ、効率的にEVやPHVを開発する」と話す。

 次世代の全固体電池が実用化され、EV最大の課題である電池問題が解決すれば、EVが爆発的に普及する可能性はある。将来のFCVへの期待も衰えていない。EVとFCVが主役となる電動化時代の第2幕が開いた時、優位性を発揮するためにも、日本メーカーは性能とコストの両面でHVを進化させることが必要だ。
ホンダの2モーターHVシステム「i―MMD」

(文・後藤信之)

日刊工業新聞2019年8月7日

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