トヨタと車載用電池供給契約したBYD「ほかにも供給契約を結んだメーカーも」

BYD 日本商務部統括部長の陳浩氏インタビュー

 急速に発展する中国の電気自動車(EV)社会。進境著しい自動車業界の中でも、ひと際目立つのが中国EV 最大手で車載用電池の製造でも世界第3位のBYD(比亜迪)の活躍ぶりだ。特に注目されるのは、2020年春に日本市場向けにEV バスの投入を予定し、車載用電池でも日本の自動車メーカーと供給契約を結ぶなど、ここにきて日本へのアプローチを強めていることだ。
 日本向けBtoBビジネスの責任者であるBYD 日本商務部統括部長の陳浩氏は「日本の自動車産業は歴史が長く、品質や技術に優れる。EV など新エネルギー車の世界で、ぜひともWIN-WINの関係を築きたい」と語る。日本および中国での展開について、陳氏に聞いた。(取材・森野進)

車載用電池の供給能力とコスト競争力に強み


―中国の自動車産業の現状は。
 世界的な半導体需要の落ち込みや経済摩擦などの影響により、2019年の中国の乗用車販売台数は前年並みの2370万台程度になる見通しだ。ただし、EVなど新エネルギー車は約27%増の160万台の販売が見込まれる。BYDの乗用車販売台数は、18年は約50万台であり、EVの割合が50%にまで高まった。19年はさらにEVの販売台数が増すため、総販売台数は18年を上回るだろう。

―BYDの歩みと特徴は。
 BYDは1994年にパソコンや携帯電話用のニカド電池のメーカーとして創業した。99年にはリチウムイオン電池を製造。03年に自動車事業に参入し、05年からEVをつくり始めた。現在、EVでは中国市場で約20%のシェアを持つ。また、中国の自動車メーカーや電池などの部品メーカーは、自動車もしくは部品の専業だが、BYDは中国メーカーとして唯一、自動車と部品の両方を製造している。車載用電池は、以前は自社製の自動車向けに製造していたが、17年から本格的に外販するようになった。部品事業の最大の強みは、車載用電池の供給能力とコスト競争力にある。

―世界的メーカーに躍進した原動力は。
 設計重視の品質強化と徹底したコストダウン。トップのリーダーシップなどいろいろあるが、一番の要因は、BYDが本社を置く深市の発展時期とうまくマッチしたことや、新エネルギー車に対する国のバックアップなど、事業を行う環境に恵まれたことだと思う。今や深セン市内の路線バスやタクシーの90%以上がBYD製のEVに替わった。

日本メーカーのEVシフトが拍車


―トヨタとの車載用電池の供給契約やEVバスの投入など日本関連の事業が目立ちます。
 実は、BYDではトヨタだけでなく、日本の全自動車メーカーとコンタクトをとっており、ほかにも供給契約を結んだメーカーもある。われわれにとって日本の自動車メーカーは顧客なので契約締結を勝手に公開することはできないが、トヨタに関しては今年の6月初めにトヨタサイドが公開した。
 もう一方のEV バス事業は、私の管轄外なので多くを語ることはできないが、日本市場向けに開発した「J6(ジェイシックス)」という車名の小型バスを2020年の春から販売する予定だ。

BYD 日本商務部統括部長の陳浩氏

―日本の自動車メーカーがBYDとの取引に動く背景は。
 トヨタは、2030年には世界販売台数の約半数にあたる550万台以上を電動化する目標を掲げている。この計画は前倒しされる見込みなので、大量の車載用電池の調達先を確保しなければならない。トヨタは日本国内ではパナソニックと提携し一定量の車載用電池を確保する考えだが、それだけでは全く足りない。そこでBYDと電池の専業メーカーであるCATL(寧徳時代新能源科技)の2社と調達契約を結んだわけである。
 日本の自動車メーカーは長年、日本と米国市場をメインとしてきた。ドイツメーカーが早くから中国を最大の市場と位置付けてきたのとは対照的である。フォルクスワーゲン社に至っては世界の販売台数の半分以上、利益の70~80%を中国市場で稼いでいる。それだけにドイツメーカーにとって、中国の国策でもある電動化の取り組みは必要不可欠のものだった。ただし近年、日本の自動車メーカーも中国市場を重視し始めた。しかし、自動車メーカーがいきなりEVに舵を切ろうとしても、日本の部品メーカーは追随できない。そこでEV用の部品製造で成熟した技術を持つBYDに注目するようになったのだと思う。
 中国の国内法として、自動車メーカーに対して新エネルギー車の販売台数を同時に義務づけるNEV規制やCAFÉ規制が施行されたことも、日本の自動車メーカーのEVシフトに拍車をかけているようだ。

エネルギーを売る会社


―中国はなぜEVなど新エネルギー車の普及を国策とするのでしょうか。
 これについては、少し踏み込んだ話をしよう。中国の電動化戦略は、単に環境改善や省エネではなく、エネルギー問題を根本から解決したいという目的がある。中国は国内で消費される石油の60%を輸入に依存している。その量は、ちょうど自動車など交通手段による消費量に匹敵する量だ。つまり、輸入した石油を丸ごと自動車に使っていると言って過言ではない。ところが、石油というものはしばしば国際紛争のタネになる。最悪の場合、海上封鎖などに遭って石油が入ってこなければ、国として立ち行かなくなってしまうのだ。そこで着目したのが、自動車をすべて電動化することだ。電気エネルギーを得るにはソーラー、風力、地熱、原子力、火力発電など手段はたくさんあり、石油を輸入しなくても中国国内で自給自足できる。それがEVを国策とする一番の狙いだ。こうした国策に呼応して、BYDではソーラー発電に取り組んだのをはじめ、さまざまな発電方法を研究している。個人的には、いまやBYDは、自動車メーカーというよりもエネルギーを売る会社になったような気さえする。

―国策として水素自動車を普及させることも視野に入れているようですが。
 それも事実だ。水素自動車に対しても補助金を出している。ただし実用化は大分先になると思う。EVなら自宅でも充電できるし、バッテリースタンドも簡単につくることができるが、水素自動車はインフラが整備されないとどうにもならない。ただし、水素は究極のグリーンエネルギーであることは確かであり、もちろんBYDでも研究はしている。とはいえ、今は目の前にあるEV をいかに安くつくるかを考えるほうが重要だと思っている。

単体部品の供給を超えたハイレベルな協業も視野に


―日本市場での当面の戦略は。
 「日本でEV 乗用車を販売しないのか」という質問をよく受けるが、それよりもわれわれは日本の自動車メーカーと協業することを一番のターゲットとしている。まずはサプライヤーとして、EV全体のコストの約3分の1を占める車載用電池を販売していくが、われわれとしては部品単体のレベルだけでなく、もう少し高いレベルの協業までを視野に入れている。BYDはEVのコアに
なる電池のほか、モータやパワー半導体デバイスのIGBTを搭載したモータコントローラをはじめシステムユニットを提供できる能力を持つためである。場合によってはOEMという選択肢も可能だ。

―プレス加工メーカーをはじめ日本の部品メーカーと協業する可能性は。
 それも十分にある。すでに材料系やコアパーツなどでBYDのサプライヤーとして名を連ねる日本企業もある。日本の部品メーカーは歴史が長く、技術、品質、信用力も申し分ない。問題はコストで勝負できるかどうかだ。中国の部品メーカーも急速に力をつけており、日本製品との差は縮まっている。おそらくBYDをはじめ中国メーカーが現状で日本製部品を使うのは、ほかに代替品がないからであり、中国国内に代替品があれば現地調達する。それくらい日本の部品は高いものが多い。ぜひとも安価につくる方法を見出してほしい。
 われわれは自動車メーカー、部品メーカーを問わず、日本企業に対して日本国内でのビジネスはもちろん、中国市場や欧米の市場開拓を手伝うこともできる。日本企業とWIN-WINの関係を構築することを切に望んでいる。
(「プレス技術」8月号掲載)

「プレス技術」2019年8月号
【特集1】電気自動車の未来と、プレス加工の将来展望
電気自動車(EV)の最新技術と、それに伴う塑性加工の進化を取上げる。EV化に伴い、主に従来の「エンジンまわり」の自動車部品は減少し、またさらなる軽量化が求められるといわれ、プレス加工各社が軽量化のための形状検討や、新素材加工の研究に乗り出している。そこで特集1では最新の電気自動車動向とともに、基本的な構造・部品の特徴などを解説。電気自動車への適用を目指し進められているプレス加工メーカー各社の取組みを紹介する。
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「プレス技術」8月号

  

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