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シェアサービス、不正レビューに入った科学者たちのメス

連載・シェアリングサービス ユーザーレビュー神話はどこへ(3)
シェアサービス、不正レビューに入った科学者たちのメス

写真はイメージ

 シェアリングサービスは個々の取引の信頼が前提にある。だが「いいね!」やユーザーレビューはお金で買える。信頼をレビューに依存するとプラットフォーム自体の信頼も揺らぎかねない。この問題に科学は迫れるだろうか。歪むプロセスやメカニズムが明らかになれば、早期検出と対策ができるはずだ。(文=小寺貴之)

経営リスクも


 「レビューの信頼性は、シェアリングビジネスの存続や社会受容にかかわる極めて重要な問題」と筑波大学の馬場雪乃准教授は指摘する。シェアリングを仲介するプラットフォーマーはレビューの歪みを科学的に示されると信頼が破綻しかねない。公平性や公正性などプラットフォーマーに社会的責任を求める声が高まり、不適切利用やフェイクの対策に大きなリソースを割かなければならなくなった。介入可能な指標で信頼を支えることは経営リスクになり得る。

星を買う偽装


 シェアリングのレビューの星を買う介入はSNSでフォロワーを買う偽装と似ている。この偽装はフォローのネットワーク構造から検出できる。

 米カーネギーメロン大学のクリストス・ファロウトス教授らはフォロワー購入検出器「フラウダー」を開発。ツイッターの4170万人の中から、4000人規模の怪しい集団を特定した。フォローする人は4013人、フォローされる人は4313人、それぞれ57%と40%が偽装や停止アカウントだった。フラウダーは普通のアカウントをフォローし正常を装うカムフラージュにも効果がある。

 ECサイトのユーザーレビューには高い評価や低い評価を付けて金をせしめるユーザーがいる。

 米メリーランド大学のスブラマニアン教授らは不正ユーザーを特定するアルゴリズム「フェアジャッジ」を開発した。ユーザーの評価の公平性と評価の信頼性、評価される商品の質を推計して、不正ユーザーをあぶり出す。インドの大手EC「フリップカート」に実装され80%の正確性を確認した。

実世界と照合


 筑波大の馬場准教授はデザインや翻訳などの、点数化しにくい仕事への評価の信頼性を研究する。制作者のスキルと作品の質、評価の質などを統計的に推定する。正しい品質がわかれば不正な評価者をあぶり出せる。スキルをシェアするクラウドソーシングには欠かせない研究になる。

 不正なレビューを絞り込む技術はできつつある。次の課題はファクトチェックだ。絞り込みだけでは必ずグレーな領域が残り、人の手による確認が要る。この確認作業が膨大になる。自然言語処理を研究する東北大学の乾健太郎教授は「レビューと実世界の照合がネックだ」と説明する。これは記号接地という人工知能分野の未解決問題だ。成果を数字で説明できるものでさえレビューと実物の照合が難しい。言語化の難しいスキルは打開策がない。乾教授は「この研究は学術的にも社会的にも大きな価値がある」と話す。この問題を限定的にでも解いた者はプラットフォームビジネスの根底を再構築することになる。

連載・シェアリングサービス ユーザーレビュー神話はどこへ(全5回)


【01】歪むユーザーレビュー、信頼性どう作る?(2019年7月29日配信)
【02】クラウドソーシングが値崩れ起こす二つの要因(7月30日配信)
【03】不正ユーザーレビューに入った科学者たちのメス(7月31日配信)
【04】単発バイトマッチングアプリが実現したい社会(8月1日配信)
【05】理系学生のスキルシェアが示す新たな仲介モデル(8月2日配信)
日刊工業新聞2019年7月24日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
シェアリングサービスの多くは、従来のリアルな仲介業に比べて取引を監督する人の数がとても少ないです。監督者一人あたりの取引数がとても多いため、健全なコミュニティーを保つには監督者の能力を何倍にも増幅しないといけませんでした。悪質なユーザーや不正レビューの絞り込みは有効な技術です。ですが、それでも足りないほどの確認すべき取引があり、プラットフォーマーにとっても無視できないコストになっています。今後フェイクレビューやフェイクニュースのファクトチェックにちゃんと投資がなされれば、技術開発と人海戦術を組み合わせた記号接地メカニズムができないこともないのではないかと思います。記号接地問題は部分的にでも解けるとインパクトが大きいため、プラットフォームの運営者同士で人材やデータを集めて協力して開発すべきテーマだと思います。

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