「スマホ決済」コンビニでつまずく、日本はまたキャッシュレス化に乗り遅れる?
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は11日、ヤフーやLINE、グーグルなど五つの外部IDから、セブン―イレブンやイトーヨーカ堂などのアプリへのログインを停止した。安全性を確保できない恐れがあると判断したためで、再開時期は未定。外部IDによる利用者数は非公表。
セブン―イレブンアプリと紐付いているスマートフォン決済のセブンペイは、「オムニ7」のサイトでメールアドレスやパスワードを入力して7iDを取得すれば残金を利用できる。セブングループの各アプリも同様の手続きで利用可能。
セブン―イレブンアプリは累計で約1200万件のダウンロードがある。セブンペイの登録者数は約150万人だが、新規登録は現在停止している。
ファミリーマートは1日から提供をはじめた独自のスマートフォン決済アプリ「ファミペイ」で、アクセス集中によりアプリが正常に起動しなかったことを受け、アプリをダウンロードしたすべての人(5日時点、約200万人超)に180円(消費税込み)を付与する。今週中に還元を始める予定。
ファミペイはサービス開始後、アプリが起動できなかったり、スマホ向けのファミペイの通知が誤送信されるなどのトラブルが起きていた。
業界ではセブン―イレブンも1日からセブンペイの提供を開始したが、不正アクセスが発覚。なりすましを防ぐ「2段階認証」の導入や1回当たりのチャージ(入金)金額の上限引き下げるなどセキュリティーの強化を進める方針だ。
福岡市名物の屋台でいま、QRコードを利用したキャッシュレス決済の一大実証事業が繰り広げられている。楽天やLINEが提供するスマートフォン(スマホ)決済サービスだけでなく、中国で5億人以上が日常的に利用する「アリペイ」に対応する店舗もある。高島宗一郎市長は「地方都市から新しいおカネの流れを作る」と宣言。公共施設や商業施設や屋台、タクシーなど、さまざまな場面でスマホ決済が行える場所を増やしていく計画だ。
キャッシュレス決済とは、現金以外の支払い手段の総称だ。クレジットカードや電子マネーのほか「おサイフケータイ」といったモバイルウォレットに加え、最近は、QRコードやバーコードを用いたスマホ決済が急速に普及しつつある。
アプリに現金でチャージしたり、銀行口座やクレジットカードを紐付けしたり、お金の出どころはさまざまだが、コード決済の特徴は、「おサイフケータイ」で使われるFelica(フェリカ)などの近距離無線通信規格に依存せず、アプリさえ取得すれば端末の仕様にかかわらず利用できる手軽さにある。
店舗側の負担が少なく、決済だけでなく、送金や割り勘機能など、クレジットカードにはなかった機能もある。客が自分のスマホにコードを表示し、店舗側の端末で読み取る方式と、店頭に掲示されているコードを客側が読み取るタイプの大きく二つに分かれるが、すでにネット関連企業はこうした決済手段を通じて顧客を囲い込み、自社の「経済圏」を確立しようと、機能やサービスで競い合う。
こうした動きに呼応して、利用割引やポイント還元、決済にかかる時間の短縮など、すでにキャッシュレス決済のメリットを享受する層が広がり始めている一方で、世界的に見ると日本のキャッシュレス化はまだまだ進展していないのが実情だ。
最も普及が進む韓国のキャッシュレス決済比率はすでに9割に達するほか、その他の先進国でも4割から8割に上るのに対し、日本は2割にとどまっており、世界的にも珍しい現金主義の国といえる。
治安が良く、紙幣も比較的清潔で偽札も少ないことから現金に対する信認が高く、ATMなどの金融インフラも十分整備されているといった、日本の「良さ」ゆえに消費者が必要性を感じてこなかったことが背景のひとつと見られている。
個人情報の流出に対する不安や節約のためあえてカードを使わない人もいる。規模の小さな小売店ではクレジットカード決済に伴う初期費用や手数料負担から二の足を踏むといった実情もある。
他方、世界の潮流はキャッシュレス化だ。中でも中国は、アリババグループの「アリペイ」やメッセンジャーアプリのウィーチャットを運営するテンセントの「ウィーチャットペイ」をはじめスマホ決済の店舗導入が爆発的に進み、露天飲食から高級品まであらゆる決済がスマートフォンが主流。決済インフラの域を超え、もはや生活アプリとなっている。
そんな環境に慣れ親しんだ中国人消費者を取り込むうえでいまや不可欠なアリペイをめぐっては、日本でも2015年以降、中国人向けサービスとして導入され、コンビニエンスストアや百貨店、ドラッグストアなど約5万店規模が導入している。
普及を後押しするのは中国人観光客需要を何とか取り込みたいという店舗側の切実な思いだ。現時点で、アリペイを利用するには中国で銀行口座を開設する必要があるが、訪日中国人観光客用ではなく日本人が日本国内で利用できるサービスになれば、海外の巨大資本に消費者情報を奪われかねないと戦々恐々とする向きもある。
こうした世界の潮流に取り残されればキャッシュレス後進国となりかねない日本。国も現状に強い危機感を抱いている。キャッシュレス決済の本格的な普及へ向け口火を切ったのが経済産業省がこの4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」である。
この報告書では、2025年に向けてキャッシュレス決済比率4割という野心的な目標を掲げ、利便性や安心感向上へむけた環境整備が必要と指摘した。この7月には、産官学、オールジャパンの推進協議会も発足。QRコードの標準化やキャッシュレス支払時におけるペーパレス化をはじめ、さまざまな利用者や事業者がそのメリットを享受できる仕組みづくりを急ぐ考えだ。
こうして日本でもいよいよ本格化するキャッシュレス化の動きだが前述のキャッシュレス先進国においても、その時の経済情勢や社会な背景といったさまざまな事情が絡み合いながら、国を挙げてキャッシュレス化に取り組んできた歴史がある。各国の実情をひもとくことで、日本が目指すべきキャッシュレス社会が浮き彫りになるかもしれない。
現金支払いが根強く、クレジットカードや電子マネーといった「キャッシュレス決済」が浸透していない日本。これに対し、海外では、それぞれの経済事情や歴史的、地理的背景を理由に、キャッシュレス前提の社会を目指す動きが広がる。多様化する決済手段はテクノロジーの進展やサービスの多様化と相まって、いまなお発展途上にある。
「現金が消えた国」と称されるスウェーデン。現金流通量は対GDP比でわずか1・4%(2016年)。19・9%の日本と比べるとその差は歴然だ。冬季の現金輸送が困難といった北欧ゆえの事情もあるが、90年代初めの金融危機を発端に、国を挙げて生産性向上に取り組んできたことや現金強奪など犯罪対策としてもキャッシュレス化を進めてきた経緯がある。
すでに公共交通機関では現金は利用できないほか、現金を扱わない金融機関も増えており、2010年から12年にかけて約900台のATMが撤去された。「ノーキャッシュ(現金お断り)」の看板を掲げる店も珍しくないほど、キャッシュレスが社会に浸透している。
同国のキャッシュレス化にさらに拍車をかけたのが「スウィッシュ」と呼ばれるスマートフォンを使った決済サービスだ。国内の複数の銀行が共同開発したこのサービスは、家族や友人といった個人間のお金のやりとりにも使えるのが特徴だ。実際、スウィッシュの年間利用額140億クローナ(約1800億円)のうち、個人間送金が9割を占める。
そんなスウェーデンでは、スマホさえ不要になるサービスさえ登場している。同国のベンチャー企業「バイオハックス」が開発したのは、手に埋め込んだマイクロチップで支払いをするシステム。専用の端末に手をかざすだけで個人を識別、決済が可能になるもので、すでに鉄道運賃の支払いなどに利用されている。
お隣、韓国は、カード先進国だ。97年の東南アジア通貨危機後の経済の低迷を脱するため、消費喚起や脱税防止対策として政府がクレジットカードの利用促進策を打ち出してきた。クレジットカード利用額の20%を課税所得から控除したり、カード利用控えに記載された番号を対象にした宝くじ制度を導入するといった大胆な施策が奏功し、1999年から2002年にかけてクレジットカード利用金額は6・9倍に拡大。今や決済に占めるキャッシュレス比率は先進国トップの約9割に達する。
とりわけ中国やインドといった多くの人口を抱える国では、キャッシュレス決済が爆発的に広がっている。2008年の北京五輪を契機に国を挙げてキャッシュレス化を推進してきた中国で、これまで主流だった「銀聯カード」に変わり、キャッシュレス決済の主役に躍り出たのがスマホ決済だ。
アリババ(アントフィナンシャル)の「Alipay(アリペイ)」やテンセントの「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」がQRコードを使った決済システムを展開。急速にそのユーザー数を伸ばしている。これらはもともと自社のネットショッピングや個人間送金のために普及したアプリサービスだが、QRコードによるリアルな店舗における決済機能が加わったことで、爆発的に広がった。
その仕組みは極めてシンプルだ。店側が提示したQRコードを顧客がスマホで読み取る、あるいは顧客のスマホに表示されたQRコードを店側が読み取るだけで、銀行口座からダイレクトに代金が引き落とされる。
店舗側は決済インフラの導入コストが生じないことから、屋台や露店でもQRコード決済が主流になりつつある。消費者にとっても、もはやスマホ決済がなければ日常生活に支障を来すほど浸透。同時にこうした新たな決済手段は、乗り捨て自由なレンタサイクルや無人コンビニエンスストアなどこれまでなかったサービスを生み出し社会を変えつつある。
「世界的には金融包摂の観点でもキャッシュレス化が注目されている」。新興国を中心にスマホ決済が普及する理由について、こう指摘するのはニッセイ基礎研究所の福本勇樹主任研究員。金融包摂とは、すべての人々が必要とされる金融サービスにアクセスでき、それを利用できる状況を示す。
新興国では固定電話網が未整備の状態で携帯電話の普及が先行。ATMなど金融インフラも未整備であったことから、「キャッシュレス化との親和性の高いモバイル端末を金融インフラとして活用することで金融包摂の促進を目指す政府の意図がうかがえる」(福本氏)と語る。
翻って日本-。金融インフラが十分整備されている状況にあることを鑑みれば、日本が目指すキャッシュレス社会は、スマホ決済のみならず、用途やニーズによって、クレジットカードや電子マネーなど多様な決済手段を消費者が使い分けることで利便性や効率性を追求する姿が現実的といえるだろう。
そして企業にとっても、こうした決済ニーズに応えることは新たなサービスやイノベーションを生み出す原動力となる。
※内容・肩書は当時のもの
セブン―イレブンアプリと紐付いているスマートフォン決済のセブンペイは、「オムニ7」のサイトでメールアドレスやパスワードを入力して7iDを取得すれば残金を利用できる。セブングループの各アプリも同様の手続きで利用可能。
セブン―イレブンアプリは累計で約1200万件のダウンロードがある。セブンペイの登録者数は約150万人だが、新規登録は現在停止している。
日刊工業新聞2019年7月12日
「ファミペイ」不具合、お詫びで180円付与
ファミリーマートは1日から提供をはじめた独自のスマートフォン決済アプリ「ファミペイ」で、アクセス集中によりアプリが正常に起動しなかったことを受け、アプリをダウンロードしたすべての人(5日時点、約200万人超)に180円(消費税込み)を付与する。今週中に還元を始める予定。
ファミペイはサービス開始後、アプリが起動できなかったり、スマホ向けのファミペイの通知が誤送信されるなどのトラブルが起きていた。
業界ではセブン―イレブンも1日からセブンペイの提供を開始したが、不正アクセスが発覚。なりすましを防ぐ「2段階認証」の導入や1回当たりのチャージ(入金)金額の上限引き下げるなどセキュリティーの強化を進める方針だ。
日刊工業新聞2019年7月9日
日本の現実と未来
福岡市名物の屋台でいま、QRコードを利用したキャッシュレス決済の一大実証事業が繰り広げられている。楽天やLINEが提供するスマートフォン(スマホ)決済サービスだけでなく、中国で5億人以上が日常的に利用する「アリペイ」に対応する店舗もある。高島宗一郎市長は「地方都市から新しいおカネの流れを作る」と宣言。公共施設や商業施設や屋台、タクシーなど、さまざまな場面でスマホ決済が行える場所を増やしていく計画だ。
キャッシュレス決済とは、現金以外の支払い手段の総称だ。クレジットカードや電子マネーのほか「おサイフケータイ」といったモバイルウォレットに加え、最近は、QRコードやバーコードを用いたスマホ決済が急速に普及しつつある。
アプリに現金でチャージしたり、銀行口座やクレジットカードを紐付けしたり、お金の出どころはさまざまだが、コード決済の特徴は、「おサイフケータイ」で使われるFelica(フェリカ)などの近距離無線通信規格に依存せず、アプリさえ取得すれば端末の仕様にかかわらず利用できる手軽さにある。
店舗側の負担が少なく、決済だけでなく、送金や割り勘機能など、クレジットカードにはなかった機能もある。客が自分のスマホにコードを表示し、店舗側の端末で読み取る方式と、店頭に掲示されているコードを客側が読み取るタイプの大きく二つに分かれるが、すでにネット関連企業はこうした決済手段を通じて顧客を囲い込み、自社の「経済圏」を確立しようと、機能やサービスで競い合う。
こうした動きに呼応して、利用割引やポイント還元、決済にかかる時間の短縮など、すでにキャッシュレス決済のメリットを享受する層が広がり始めている一方で、世界的に見ると日本のキャッシュレス化はまだまだ進展していないのが実情だ。
韓国9割、日本は2割
最も普及が進む韓国のキャッシュレス決済比率はすでに9割に達するほか、その他の先進国でも4割から8割に上るのに対し、日本は2割にとどまっており、世界的にも珍しい現金主義の国といえる。
治安が良く、紙幣も比較的清潔で偽札も少ないことから現金に対する信認が高く、ATMなどの金融インフラも十分整備されているといった、日本の「良さ」ゆえに消費者が必要性を感じてこなかったことが背景のひとつと見られている。
個人情報の流出に対する不安や節約のためあえてカードを使わない人もいる。規模の小さな小売店ではクレジットカード決済に伴う初期費用や手数料負担から二の足を踏むといった実情もある。
他方、世界の潮流はキャッシュレス化だ。中でも中国は、アリババグループの「アリペイ」やメッセンジャーアプリのウィーチャットを運営するテンセントの「ウィーチャットペイ」をはじめスマホ決済の店舗導入が爆発的に進み、露天飲食から高級品まであらゆる決済がスマートフォンが主流。決済インフラの域を超え、もはや生活アプリとなっている。
そんな環境に慣れ親しんだ中国人消費者を取り込むうえでいまや不可欠なアリペイをめぐっては、日本でも2015年以降、中国人向けサービスとして導入され、コンビニエンスストアや百貨店、ドラッグストアなど約5万店規模が導入している。
普及を後押しするのは中国人観光客需要を何とか取り込みたいという店舗側の切実な思いだ。現時点で、アリペイを利用するには中国で銀行口座を開設する必要があるが、訪日中国人観光客用ではなく日本人が日本国内で利用できるサービスになれば、海外の巨大資本に消費者情報を奪われかねないと戦々恐々とする向きもある。
現状への危機感
こうした世界の潮流に取り残されればキャッシュレス後進国となりかねない日本。国も現状に強い危機感を抱いている。キャッシュレス決済の本格的な普及へ向け口火を切ったのが経済産業省がこの4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」である。
この報告書では、2025年に向けてキャッシュレス決済比率4割という野心的な目標を掲げ、利便性や安心感向上へむけた環境整備が必要と指摘した。この7月には、産官学、オールジャパンの推進協議会も発足。QRコードの標準化やキャッシュレス支払時におけるペーパレス化をはじめ、さまざまな利用者や事業者がそのメリットを享受できる仕組みづくりを急ぐ考えだ。
こうして日本でもいよいよ本格化するキャッシュレス化の動きだが前述のキャッシュレス先進国においても、その時の経済情勢や社会な背景といったさまざまな事情が絡み合いながら、国を挙げてキャッシュレス化に取り組んできた歴史がある。各国の実情をひもとくことで、日本が目指すべきキャッシュレス社会が浮き彫りになるかもしれない。
現金が消えた国、スウェーデン
現金支払いが根強く、クレジットカードや電子マネーといった「キャッシュレス決済」が浸透していない日本。これに対し、海外では、それぞれの経済事情や歴史的、地理的背景を理由に、キャッシュレス前提の社会を目指す動きが広がる。多様化する決済手段はテクノロジーの進展やサービスの多様化と相まって、いまなお発展途上にある。
「現金が消えた国」と称されるスウェーデン。現金流通量は対GDP比でわずか1・4%(2016年)。19・9%の日本と比べるとその差は歴然だ。冬季の現金輸送が困難といった北欧ゆえの事情もあるが、90年代初めの金融危機を発端に、国を挙げて生産性向上に取り組んできたことや現金強奪など犯罪対策としてもキャッシュレス化を進めてきた経緯がある。
すでに公共交通機関では現金は利用できないほか、現金を扱わない金融機関も増えており、2010年から12年にかけて約900台のATMが撤去された。「ノーキャッシュ(現金お断り)」の看板を掲げる店も珍しくないほど、キャッシュレスが社会に浸透している。
同国のキャッシュレス化にさらに拍車をかけたのが「スウィッシュ」と呼ばれるスマートフォンを使った決済サービスだ。国内の複数の銀行が共同開発したこのサービスは、家族や友人といった個人間のお金のやりとりにも使えるのが特徴だ。実際、スウィッシュの年間利用額140億クローナ(約1800億円)のうち、個人間送金が9割を占める。
そんなスウェーデンでは、スマホさえ不要になるサービスさえ登場している。同国のベンチャー企業「バイオハックス」が開発したのは、手に埋め込んだマイクロチップで支払いをするシステム。専用の端末に手をかざすだけで個人を識別、決済が可能になるもので、すでに鉄道運賃の支払いなどに利用されている。
スマホ決済、主役に躍り出る
お隣、韓国は、カード先進国だ。97年の東南アジア通貨危機後の経済の低迷を脱するため、消費喚起や脱税防止対策として政府がクレジットカードの利用促進策を打ち出してきた。クレジットカード利用額の20%を課税所得から控除したり、カード利用控えに記載された番号を対象にした宝くじ制度を導入するといった大胆な施策が奏功し、1999年から2002年にかけてクレジットカード利用金額は6・9倍に拡大。今や決済に占めるキャッシュレス比率は先進国トップの約9割に達する。
とりわけ中国やインドといった多くの人口を抱える国では、キャッシュレス決済が爆発的に広がっている。2008年の北京五輪を契機に国を挙げてキャッシュレス化を推進してきた中国で、これまで主流だった「銀聯カード」に変わり、キャッシュレス決済の主役に躍り出たのがスマホ決済だ。
アリババ(アントフィナンシャル)の「Alipay(アリペイ)」やテンセントの「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」がQRコードを使った決済システムを展開。急速にそのユーザー数を伸ばしている。これらはもともと自社のネットショッピングや個人間送金のために普及したアプリサービスだが、QRコードによるリアルな店舗における決済機能が加わったことで、爆発的に広がった。
イノベーションの原動力
その仕組みは極めてシンプルだ。店側が提示したQRコードを顧客がスマホで読み取る、あるいは顧客のスマホに表示されたQRコードを店側が読み取るだけで、銀行口座からダイレクトに代金が引き落とされる。
店舗側は決済インフラの導入コストが生じないことから、屋台や露店でもQRコード決済が主流になりつつある。消費者にとっても、もはやスマホ決済がなければ日常生活に支障を来すほど浸透。同時にこうした新たな決済手段は、乗り捨て自由なレンタサイクルや無人コンビニエンスストアなどこれまでなかったサービスを生み出し社会を変えつつある。
「世界的には金融包摂の観点でもキャッシュレス化が注目されている」。新興国を中心にスマホ決済が普及する理由について、こう指摘するのはニッセイ基礎研究所の福本勇樹主任研究員。金融包摂とは、すべての人々が必要とされる金融サービスにアクセスでき、それを利用できる状況を示す。
新興国では固定電話網が未整備の状態で携帯電話の普及が先行。ATMなど金融インフラも未整備であったことから、「キャッシュレス化との親和性の高いモバイル端末を金融インフラとして活用することで金融包摂の促進を目指す政府の意図がうかがえる」(福本氏)と語る。
翻って日本-。金融インフラが十分整備されている状況にあることを鑑みれば、日本が目指すキャッシュレス社会は、スマホ決済のみならず、用途やニーズによって、クレジットカードや電子マネーなど多様な決済手段を消費者が使い分けることで利便性や効率性を追求する姿が現実的といえるだろう。
そして企業にとっても、こうした決済ニーズに応えることは新たなサービスやイノベーションを生み出す原動力となる。
METIジャーナル2018年10月16日/11日
※内容・肩書は当時のもの