大阪府初の世界遺産を観光振興に生かせ、あの手この手の関係者たち
3市の古墳群が登録、国内で23件目
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は、日本最大の前方後円墳「大山(だいせん)古墳」(仁徳天皇陵古墳)を含む「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」(堺市、大阪府藤井寺市、同羽曳野〈はびきの〉市)の世界文化遺産への登録を決めた。国内で23件目、大阪府で初の世界遺産登録となる。またとない好機を観光振興に最大限生かそうと、地元や周辺地域では新たな取り組みが相次ぎ動き始めている。(文=南大阪支局長・村田光矢)
「大阪初、令和初、皇族ゆかり……話題性に事欠かない。世界遺産の名がつくことで『行ってみよう』というきっかけになる。各旅行会社は商品をつくり、放っておいても露出度が上がる」。泉州地域の9市4町と企業で観光振興を進めるKIX泉州ツーリズムビューローの中村浩次専務理事は“世界遺産効果”をこうみる。
堺市の永藤英機市長も「(世界遺産登録は)本市の成長、発展にとっても大きなターニングポイントになる」と6月の記者会見で話した。
悲願だった世界遺産への期待は大きい。ただこれまで登録された世界遺産には、観光客が一時的に増えただけで、観光振興に十分生かせなかった例もある。今後の取り組みが成否を分けることになりそうだ。
百舌鳥・古市古墳群は観光客からみて、いくつかの課題がある。特に大山古墳の全景を見たいという要望が難しい。大山古墳は歴史の教科書などを通じ、上空からの全景写真が広く知られている。だがヘリコプターなどの遊覧飛行に参加しない限り、同じような景色は見られない。しかも宮内庁が管理する天皇陵のため敷地内に立ち入れない。拝所での参拝や周辺の散策はできても「期待していたものと違う」と思われる可能性がある。
堺市は2018年10月、臨海部から百舌鳥古墳群など市内の見どころを民間事業者運航のヘリで巡る約5分の遊覧飛行を試験的に実施。好評だったという。観光企画課の担当者によると、旅行代理店やヘリ運航事業者から遊覧飛行の問い合わせや提案が現在もある。永藤市長はヘリを恒常的に発着できる拠点の設置を市内で検討していることを3日の記者会見で明らかにした。
また大山古墳に近い堺市博物館内では飛行ロボット(ドローン)で撮った上空300メートルからの百舌鳥古墳群の映像や、古墳内部の石室を再現したコンピューターグラフィックス(CG)映像を鑑賞できる「仮想現実(VR)ツアー」を実施。同ツアーを運営する堺観光コンベンション協会は頭部に装着するディスプレーを今週中に20台から45台まで増やす計画だ。
KIX泉州ツーリズムビューローの中村専務理事は「(古墳は)歴史を体感できる場所でもある。誰も立ち入ることができない神秘性をこれからアピールしていかないといけない」と古墳の魅力を観光客にどう伝えるかが大事だと指摘する。
古墳以外の観光スポットを組み合わせ周遊してもらう仕掛けづくりも進む。泉州地域の7商工会議所でつくる泉州地域広域観光連携協議会は19年度、各地域のホテルと連携し、周辺マップを作成する。自転車でチェックポイントを巡り、記念品をプレゼントするスタンプラリーの実施も計画。体験型観光商品の企画の検討も本格的に始める。事務局を務める貝塚商工会議所の西田陽(あきら)専務理事は「泉州地域は関西国際空港の玄関口。何とかしたい」と語る。
堺観光コンベンション協会は7月から、堺の伝統産業や歴史の趣ある町並みなどを半日で見学できるバスツアー「もずバス」を始めた。和菓子づくりや座禅といった体験型観光商品も5月から販売している。隈元英輔副会長は「世界遺産登録はゴールではない。これを契機に堺のすばらしさを知ってもらえれば」と力を込める。
KIX泉州ツーリズムビューローは「(古墳を見に行ったら)ここにも、というモデルコースをつくっているところ」(中村専務理事)。ホームページでの情報発信を通じ「もう1カ所」に選ばれる観光地のPRに力を入れる。中村専務理事は泉州地域の観光資源は豊富だが知られていないと強調した上で「注目されている間に泉州を知ってもらうのが我々の役割。『泉州の〇〇に行きたい』と目的地にしてもらうのが最終的なゴールだ。リピーター化してもらわないと」と話している。
百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産への登録により大阪府全体で約1006億円の経済波及効果があると堺都市政策研究所が試算している。試算した関西大学の宮本勝浩名誉教授に聞いた。
―試算の数字は大きいと感じます。
「世界遺産はものすごくネームバリューがある。国内だけではなく海外からも観光客を呼び込める強烈な観光資源になる」
―効果はどれほど続きますか。
「基本的に最初の2、3年は盛り上がる。その盛り上がりをどう持続するか。地元の自治体や経済界、住民、観光関係の人たちの努力が大事になる」
―何が必要ですか。
「観光振興や街づくり、産業振興などの事業を総合的に展開する団体をつくらないといけない。役所にも入ってもらうが、基本的に民間が動かないとダメ。民のアイデアを(採り)入れた総合的なプランをつくり、実施する。観光振興、街づくり、産業振興、国際交流などそこですべてをやるようにする」
「またガイドやボランティアを育成しないといけない。いろいろな観光地を結びセットにするのも大事だ」
―他には。
「『バーチャルの観光地』として売り出したらどうか。迫力があり(観光地に)行った人が全員、見られるようなものだ。例えば自分が気球に乗り上から見ているのを“体験”できるようなものをつくれば、すごさが分かってもらえるのではないか」
「全景見たい」 ヘリで対応
「大阪初、令和初、皇族ゆかり……話題性に事欠かない。世界遺産の名がつくことで『行ってみよう』というきっかけになる。各旅行会社は商品をつくり、放っておいても露出度が上がる」。泉州地域の9市4町と企業で観光振興を進めるKIX泉州ツーリズムビューローの中村浩次専務理事は“世界遺産効果”をこうみる。
堺市の永藤英機市長も「(世界遺産登録は)本市の成長、発展にとっても大きなターニングポイントになる」と6月の記者会見で話した。
悲願だった世界遺産への期待は大きい。ただこれまで登録された世界遺産には、観光客が一時的に増えただけで、観光振興に十分生かせなかった例もある。今後の取り組みが成否を分けることになりそうだ。
百舌鳥・古市古墳群は観光客からみて、いくつかの課題がある。特に大山古墳の全景を見たいという要望が難しい。大山古墳は歴史の教科書などを通じ、上空からの全景写真が広く知られている。だがヘリコプターなどの遊覧飛行に参加しない限り、同じような景色は見られない。しかも宮内庁が管理する天皇陵のため敷地内に立ち入れない。拝所での参拝や周辺の散策はできても「期待していたものと違う」と思われる可能性がある。
堺市は2018年10月、臨海部から百舌鳥古墳群など市内の見どころを民間事業者運航のヘリで巡る約5分の遊覧飛行を試験的に実施。好評だったという。観光企画課の担当者によると、旅行代理店やヘリ運航事業者から遊覧飛行の問い合わせや提案が現在もある。永藤市長はヘリを恒常的に発着できる拠点の設置を市内で検討していることを3日の記者会見で明らかにした。
また大山古墳に近い堺市博物館内では飛行ロボット(ドローン)で撮った上空300メートルからの百舌鳥古墳群の映像や、古墳内部の石室を再現したコンピューターグラフィックス(CG)映像を鑑賞できる「仮想現実(VR)ツアー」を実施。同ツアーを運営する堺観光コンベンション協会は頭部に装着するディスプレーを今週中に20台から45台まで増やす計画だ。
周遊・体験でリピーター化
KIX泉州ツーリズムビューローの中村専務理事は「(古墳は)歴史を体感できる場所でもある。誰も立ち入ることができない神秘性をこれからアピールしていかないといけない」と古墳の魅力を観光客にどう伝えるかが大事だと指摘する。
古墳以外の観光スポットを組み合わせ周遊してもらう仕掛けづくりも進む。泉州地域の7商工会議所でつくる泉州地域広域観光連携協議会は19年度、各地域のホテルと連携し、周辺マップを作成する。自転車でチェックポイントを巡り、記念品をプレゼントするスタンプラリーの実施も計画。体験型観光商品の企画の検討も本格的に始める。事務局を務める貝塚商工会議所の西田陽(あきら)専務理事は「泉州地域は関西国際空港の玄関口。何とかしたい」と語る。
堺観光コンベンション協会は7月から、堺の伝統産業や歴史の趣ある町並みなどを半日で見学できるバスツアー「もずバス」を始めた。和菓子づくりや座禅といった体験型観光商品も5月から販売している。隈元英輔副会長は「世界遺産登録はゴールではない。これを契機に堺のすばらしさを知ってもらえれば」と力を込める。
KIX泉州ツーリズムビューローは「(古墳を見に行ったら)ここにも、というモデルコースをつくっているところ」(中村専務理事)。ホームページでの情報発信を通じ「もう1カ所」に選ばれる観光地のPRに力を入れる。中村専務理事は泉州地域の観光資源は豊富だが知られていないと強調した上で「注目されている間に泉州を知ってもらうのが我々の役割。『泉州の〇〇に行きたい』と目的地にしてもらうのが最終的なゴールだ。リピーター化してもらわないと」と話している。
インタビュー/関西大学名誉教授・宮本勝浩氏 民中心に総合的振興を
百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産への登録により大阪府全体で約1006億円の経済波及効果があると堺都市政策研究所が試算している。試算した関西大学の宮本勝浩名誉教授に聞いた。
―試算の数字は大きいと感じます。
「世界遺産はものすごくネームバリューがある。国内だけではなく海外からも観光客を呼び込める強烈な観光資源になる」
―効果はどれほど続きますか。
「基本的に最初の2、3年は盛り上がる。その盛り上がりをどう持続するか。地元の自治体や経済界、住民、観光関係の人たちの努力が大事になる」
―何が必要ですか。
「観光振興や街づくり、産業振興などの事業を総合的に展開する団体をつくらないといけない。役所にも入ってもらうが、基本的に民間が動かないとダメ。民のアイデアを(採り)入れた総合的なプランをつくり、実施する。観光振興、街づくり、産業振興、国際交流などそこですべてをやるようにする」
「またガイドやボランティアを育成しないといけない。いろいろな観光地を結びセットにするのも大事だ」
―他には。
「『バーチャルの観光地』として売り出したらどうか。迫力があり(観光地に)行った人が全員、見られるようなものだ。例えば自分が気球に乗り上から見ているのを“体験”できるようなものをつくれば、すごさが分かってもらえるのではないか」
日刊工業新聞2019年7月8日