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“今いる社員で成果を上げる”人事制度運用のポイント

中央人事総研・大竹英紀社長インタビュー
**『今いる社員で成果を上げる中小企業の社員成長支援制度』著者インタビュー
 ―本書の狙いは社員を成長させるために人事制度を運用してもらうことです。
 「人事制度を作ったらすぐうまくいくと勘違いし、成果が出ないと途中でやめてしまう会社もある。運用からが制度の始まり。7割程度の完成度で始め、データを集めたり、年数回の面談でコミュニケーションを取ったりして運用に時間とお金をかけるべきだ。私がコンサルタントを始めた時も運用をやらずに失敗が多かった」

 ―本書を書くきっかけは。
 「人事制度は賃金を決めるだけとか、評価して社員にハッパをかけるだけとか、人を管理するツールとして誤って伝わっている部分がある。公平に評価して賃金を決めることも大事だが、中小企業の多くは評価しっ放しでフィードバックをしていないようだ。評価に納得がいかずに不満がたまり、人事制度をやめることになってしまう。フィードバックをかけて運用することで社員の成長につながることを伝えたかった」

 ―題名の最初の部分の『今いる社員だけで成果を上げる』が大事ですね。
 「業界や業種によっては人手不足が叫ばれる中、採用しても数カ月ですぐに辞める人が増えている。また今は売り手市場で転職しやすい環境でもある。社員がやりがいを感じずに元気がない会社は、人をどれだけ採用しても出ていく人も多く、栓をしていない浴槽にお湯をためている状態だ。この悪循環を断ち切るには人事制度を上手に運用して社員を元気にすれば、後から入ってくる社員も長期間勤務することになるはずだ」

 ―制度運用のポイントは。
 「個人ごとにチャレンジする目標を定め、定期的な面談を継続してフォローすること。目標の立て方やコーチング、進捗状況の確認などを時間をかけてでもやれば能力やスキルの向上になり、社員自らが考えて行動する人にもなれる。社員や会社の成長に合わせて制度を進化させる必要もあり、社員がすべての目標を自ら設定しているところもある」

 ―面談時の接し方も左右するのですね。
 「部下が成長してほしいと思って上司がフォロー、教育すれば思いは伝わる。逆に成長しないと思って接するとどんな言葉を並べても本音が伝わる。制度の推進役や経営者の思いも表れるもので、こうなりたいと具現化すれば目標や制度、研修などができ、社員もやる気が出る。普段のコミュニケーションも取りやすくなり、品質向上や業務効率化につながる」

 ―約120社のコンサル実績で印象深い事例は。
 「30人規模の製造業で1年目は変化がなかったが、2年目から具体的な目標を設定する人が現れ、資格取得を目指すなど前向きな姿勢が出てきた。パート社員とのコミュニケーションが取れ、不良低減などにつながった。情報システムやクラウドに対応し、電子シート化することが求められている。また東海地区だけだった当書関連のセミナーを関東や関西にも広げ、社員を幸せにしたい思いを持つ中小企業経営者に読んでほしい」(名古屋・市川哲寛)

中央人事総研社長・大竹英紀氏

◇大竹英紀(おおたけ・ひでき)氏 中央人事総研社長
88年(昭63)南山大経営卒、同年セントラルファイナンス(現セディナ)入社、91年アタックス・今井会計グループ(現アタックスグループ)に入社し、経営・人事コンサルタントを8年務める。04年中央人事総合研究所を個人創業、10年に法人化して中央人事総研を設立し、社長。愛知県出身。

『今いる社員で成果を上げる中小企業の社員成長支援制度』(合同フォレスト 03・3291・5200)
日刊工業新聞2019年7月1日

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