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覚悟を決めたルノー、「良いとこ取り」を目論む日産は守勢に

株主総会までの約1週間、緊迫状態が続く
覚悟を決めたルノー、「良いとこ取り」を目論む日産は守勢に

ルノー会長のスナール氏(左)と西川廣人日産社長兼CEO

 日産自動車が25日に開く株主総会後の新体制の人事をめぐり、筆頭株主のルノーとの綱引きが激しくなっている。指名委員会等設置会社への移行案にルノーが賛成票を投じない意向を示していることを受け、日産はルノー側のポストを増やす譲歩案を近く提示する。一方、取締役会議長には日産に近いJXTGホールディングス(HD)相談役の木村康氏を充てる方針だ。ルノーは歩み寄りを見せるのか。株主総会までの約1週間、緊迫状態が続きそうだ。

 日産は、指名委等設置会社に移行して設置する三つの委員会のうち、指名委の委員にルノー会長のジャンドミニク・スナール氏、監査委の委員に同最高経営責任者(CEO)のティエリー・ボロレ氏を迎える譲歩案を17日にもルノーに伝える。これまでスナール氏のみを指名委の委員に据える計画だった。

 日産はガバナンス不全が前会長カルロス・ゴーン被告の不正を許した要因の一つとみる。指名委等設置会社への移行はガバナンス改革の最優先事項で、実現できなければ“ポストゴーン”の新生日産をスタートできない。だが約43%の出資を受けるルノーが棄権すれば不成立になる公算が大きい。譲歩案でルノーの賛成を得たい考えだ。

 一方、日産は、経営を監督する取締役会のトップである取締役会議長には、株主総会で社外取締役に選任される予定の木村JXTGHD相談役を充てる方針で最終調整を進める。取締役会副議長にはスナール氏が内定しており、議長には日本人である木村氏が就任し、ルノーとバランスを取る狙いだ。

 日産は取締役会議長に社外取を充てる方針を決め、人選を進めてきた。社外取候補には木村氏のほかに、ルノーが推薦したベルナール・デルマス氏(日本ミシュランタイヤ会長)も名を連ねている。日産にとって取締役会の議長、副議長がルノー色に染められるのは避けたい事態であり、木村氏の議長就任は譲れない一線となる。

 かねてルノーは日産との経営統合を目指す意向を示してきた。拒否反応を示す日産を説き伏せるため、スナール氏は日産に対する影響力の維持・向上を狙う動きを繰り返してきた。5月に取締役候補を決める際も、日産は「ルノーの権力が強くなる」とボロレ氏が入ることを嫌がったが、スナール氏が押し切った。今回、同じことが繰り返された格好だ。

 委員会の委員にスナール氏とボロレ氏に向け二つのポストを用意する譲歩案により、日産の新体制人事をめぐる綱引きは「手打ちだ」と日産幹部は話した。一方、別の日産幹部は「最後までもめるかもしれないが、説得し続けるしかない」と語った。ルノーが次の要求を突き付ける可能性はゼロではない。25日まで油断できない状況が続く。
(文=後藤信之、渡辺光太)
日刊工業新聞2019年6月17日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
退路を断ってFCAとの交渉に臨んだルノーには、日産を失っても生き残りを模索するという覚悟があった。一方、アライアンスは維持しながらも、資本の対等なリバランスを求める日産側の意向とは、やや都合の良いチェリーピッキング(良いとこ取り)。覚悟を定めた ルノーの厳しい交渉姿勢は想像に難くない。

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