NTTが狙う新たなスポーツ観戦ビジネス、「デジタルスタジアム」の威力

先進技術で「臨場感」再現

 JリーグとNTTはデジタル技術を駆使し、サッカースタジアムの高精細な映像や音声を屋内施設に再現するイベント「デジタルスタジアム」を初開催した。スタジアムの収容人数には限りがあり、あふれる需要を抱える人気チームは新たな収益源として期待できる。障がい者や家族連れなどに負担を軽減した観戦機会を提供し、顧客満足度の向上にもつながる。2020年に商用化する第5世代通信(5G)を追い風にスポーツ観戦に改革を起こせるか。(文=編集委員・水嶋真人)

高層ビルで熱戦!? 


 ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)で12日に行われたサッカーJ1リーグのヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ。東京・大手町の高層ビルのホールで、鹿島サポーターを中心とした来場客約400人が幅17メートル×高さ4メートルの大型スクリーンに見入っていた。

 映っていたのはスタジアムのピッチ全体を一望できる映像だ。高精細映像をリアルタイムに圧縮・伝送するNTTの技術「キラリ!」を用いて4Kカメラ5台で撮影した映像を切れ目がない「超ワイド映像」に合成し、大手町の会場に伝送した。天井や床に設置したドルビースピーカー26台による立体音響でチャントの太鼓の重低音が体に響く。来場客からは「正面スタンド上段からピッチを見下ろしているような気分を味わえた」との声が聞かれた。

 大型スクリーン両脇のサブスクリーンでベンチ映像やリプレー、両チームのフォーメーション、シュート・パス成功率などを表示。石井正忠元鹿島監督らの生解説や永木亮太選手への試合後特別インタビューも行った。Jリーグの村井満チェアマンは「テレビ観戦、スタジアム観戦双方の“おいしいところ取り”ができた」と自信を示す。

「どこでも」「誰でも」気軽に


 デジタルスタジアムの前売り料金はS席が6000円、自由席のA席が3000円。実証実験の段階だけに村井チェアマンは「具体的な収益モデルは今後検討する」と述べるにとどめたが、「スタジアムの収容人数以上の観客は入れないという固定概念を崩す可能性が見えた」と話す。

 その一つがチケットが完売した人気カードでのデジタルスタジアムの開催だ。「集客努力でスタジアムを満員にしたチームの収益をさらに増やす手段となる」と村井チェアマンは考える。

 二つ目は、空調の効いた室内で落ち着いた雰囲気の中で試合と食事を楽しむ「Jリーグスペシャルディナー」としての活用。天候やトイレに悩まされる心配もないので、障がい者や乳幼児がいる家族連れなど向けイベントとしても活用できる。

 三つ目が2019年のラグビーW杯、20年東京五輪・パラリンピックの影響でホームスタジアムが使えなくなるチームの救済だ。例えば横浜F・マリノスが使う収容人数約7万人の日産スタジアムが利用できなくなった場合、収容人数約1万5000人のニッパツ三ツ沢球技場での開催が濃厚。チケットは売り切れ必至のため、デジタルスタジアムで試合を見てもらう機会を作り出す。

 商用化後は音響施設の整った映画館やコンサート会場での開催を見込む。5Gが普及すれば地方の公民館などでも低価格でデジタルスタジアムを開催できそうだ。

「5G」―革新の波起こす


 5Gを活用したスタジアム観戦の改革も始まった。デジタルスタジアムでは、人工知能(AI)がチャットや音声で試合状況を自動解説するNTTコミュニケーションズのスマートフォン用観戦支援アプリケーション(応用ソフト)「スポライブ」の実証も行った。同アプリの拡張現実(AR)機能を使ってスタジアム内に設置した宝箱を見つけて商品がもらえるサービスも提供できる。

 NTTドコモの自社ポイント「dポイント」500ポイントが当たるスマホ参加型勝敗予想キャンペーンも実施。スタジアムグルメをスマホで予約し、席まで運んでもらうサービスも検討している。

 ソフトバンクや楽天は運営するプロ野球チームの球場などでそれぞれ19年シーズンからスマホ決済を採用。ソフトバンクはヘッドセットを用いた野球の仮想現実(VR)観戦の実証も行っている。こうした新サービスが東京五輪の会場でも体験できれば、日本発の観戦サービスを世界に広める格好の機会となる。

ソフトバンクは利用者がアバター(分身)としてVR空間に出現するサービスを実証した

日刊工業新聞2019年5月15日

  

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