トヨタの「CASE」対応はこの1年でどこまで進んだか

「未来に向けてフルモデルチェンジ」(トヨタ社長)

 トヨタ自動車がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)という自動車産業の新時代に、技術やサービスの基盤を抑える「プラットフォーマー」になる姿勢を明確に打ち出した。「仲間づくり」「社会課題の解決」をキーワードに、ビジネスモデルの変革に挑む。今後は巨大IT企業など、異業種も含めた競争の激化が見込まれる。豊田章男社長が掲げる「モビリティーカンパニーへのフルモデルチェンジ」を着実に進めて先手を打ちたい考えだ。

 「新たな仲間との連携を強化し『モビリティサービスプラットフォーマー』の道を開く」―。8日に開いた決算説明会で、豊田社長はモビリティーカンパニーとしてのビジネスモデルをこう表現した。

 競合関係を超えた連携を加速し、技術からハードウエア、サービスまでCASEのあらゆる要素でプラットフォームを提供する方針を改めて示した。CASE時代のビジネスモデル構築に向けて新たな一歩を踏み出すための“意思表明”だ。

 豊田社長は2019年3月期の1年間を「未来に向けてトヨタのフルモデルチェンジに取り組んだ1年」と振り返る。他社との協業や投資など先行投資を積極的に行い、研究開発費におけるCASE関連費用は4割にまで高まった。

 一方、収益源については、従来は新車を販売した後も保険や整備、さらには中古車でも稼ぐ「とてもよくできたビジネスモデルの中で成長してきた」(豊田社長)。しかし現在はライドシェア(相乗り)など「MaaS(乗り物のサービス化)」と呼ばれる新たなサービスが広がりを見せており、ビジネスモデルが壊れる可能性がある。

 豊田社長はビジネスモデル転換の方向性として「よりよい社会の追求がビジネスモデルにつながる」と強調。社会課題に入り込み、仲間作りを広げることで自社の車両や技術の採用を増やして標準化し、プラットフォーマーになるのが一つの解だ。

 その姿勢が鮮明になったのは、4月に発表した電動車の特許開放だ。ハイブリッド車(HV)で培ったモーターやパワーコントロールユニット(PCU)など、電動車の中核技術に関わる特許を無償提供するほか、システムも外販する。

 決算説明会で寺師茂樹副社長は「従来はどんな車を売るかの考えだったが、これからは(大気汚染など)社会問題の解決にモビリティーがどうサポートできるかの視点が大切だ」と説明する。
                             

EV覇権争い、電池調達で先手


 「協調がなければ企業は単独では生き残れない」と、豊田社長は共存共栄の重要さを説く。トヨタがここ数年で、提携戦略を加速しているのもこのためだ。

 4月には自動運転の技術開発を拡充するため、デンソー、ソフトバンクグループ(SBG)とともに、ウーバーの自動運転開発部門へ10億ドル(約1100億円)の出資を発表。出資先の新会社はウーバーが展開するライドシェアサービスに対し、自動運転車を導入する。

 自動運転をめぐってはライバルの独フォルクスワーゲン(VW)などの既存自動車メーカーが力を入れるほか、IT大手も触手を伸ばす。グーグル系のウェイモは、公道走行実験で他を圧倒。19年半ばには限定領域での運転操作が原則不要な「レベル4」の自動運転車を量産する計画。覇権争いは激化の一途をたどる。

 全ての技術に対応する「全方位戦略」を掲げる電動車でも提携を加速する。中国の新エネルギー車(NEV)規制など環境規制が年々強まっている上、すべてを電動制御できる電気自動車(EV)は、MaaS用自動運転車の主力になり得る。トヨタの外部連携から見えてくるのは、車両から部材までを一挙に押さえて覇権を握る戦略だ。

 まずトヨタが手を打ったのは、電動車の性能を大きく左右する電池。1月にパナソニックと20年末までに車載電池の共同出資会社を設立することで合意した。パナソニックを通じて他社にも供給する方針で、陣営拡大による将来の電池技術の標準化も視野に入れる。

 EVを産業振興策の軸とする中国では小型スポーツ多目的車(SUV)「C―HR/イゾア」をトヨタのEV第1弾として20年に投入予定だが、提携戦略も拡大する。4月、電動車両開発で奇点汽車と、燃料電池バスでは北京汽車との協業を決めた。

 国内勢とは車両開発での協業を強化する。16年に提携に向け検討を始めたスズキとは、トヨタのHV技術供与やインドでのEVの協力など、協業範囲を広げている。

 マツダ、デンソーと立ち上げたEVの基盤技術開発会社「EV C・Aスピリット」にはスズキに加え、SUBARU(スバル)やヤマハ発動機なども合流した。

 豊田社長は「1社では何もできないと認識し、未来をつくるためにいろんな業種や会社とさらに協力する」と力を込める。トヨタの提携戦略の行方が、激変する車業界での生き残りを左右する。
                      

(文=名古屋支社・長塚崇寛、政年佐貴恵)

日刊工業新聞2019年5月9日

  

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