キャッシュレス社会へかえる飛び、中国「決済革命」のスピード感

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アリペイ公式ページより
 私はよく地方都市で講演会を行う機会をいただくが、企業経営者から頻繁に聞かれる質問に「中国では本当にもう現金は使わないのですか」というものがある。中国ではスマホを使ったモバイル決済が主流となっているという話が日本でしばしば報道されるからだが、実際のところは、そんなことはない。

 約14億人の人口を抱える中国で、モバイル決済をしているのは約8億人といわれる。代表的な決済機能はアリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(微信支付)という二つで、両方ともスマホのアプリに入れて使っている人が多いが、沿海部、内陸部にかかわらず、高齢者の使用は比較的低く、中国全体が完全にキャッシュレス社会に移行した、というのはいい過ぎだ。

 現に、頻繁に中国に取材に行く私自身、現金も使うと説明すると、多くの日本人はほっとしたような表情を浮かべる。だが、同時に次の質問として「なぜ、中国では急激にキャッシュレス化が実現できたのか」ということもよく聞かれる。

 中国がキャッシュレス化へと大きく舵(かじ)を切ったのは14年後半ごろだ。13年から14年にかけてスマホ利用者が急速に増え、14年にテンセントという中国を代表するIT企業がウィーチャットペイを開始した。

 アリペイはそれ以前からあったが、ウィーチャットペイは、ウィーチャットという中国のSNSから派生して生まれた決済機能で、これにより、中国のモバイル決済はあっという間に広がった。

 むろん、中国政府の後押しもある。政府はインターネットプラスという政策を掲げ、ITを使ったビジネスを積極的に支援している。テンセントやアリババなどは、政府と手を組むことによって、短期間にこの機能を社会に浸透させることができた。

 しかし、それだけではない。急速にキャッシュレス化できた背景には、中国特有の社会事情がある。第一にリープフロッグ(かえる飛び)現象が起きたことだ。後発者利益ともいうが、既存の社会インフラがほとんど整っていなかった(不便すぎた)ことが関係している。

 次に現金が信用できない社会だったこと。中国ではニセ札が多く、現金の信用度はもともと低かった。高額紙幣が存在せず(最高紙幣は100元=約1600円)、大金を持ち歩くのも不便だったが、クレジットカードは与信管理の問題で、中国社会には浸透しなかった(中国でよく使われる銀聯カードのほとんどはデビットカードとして発行)。これら複数の理由があったからこそ、中国は短期間にキャッシュレス化に成功できたといえる。
(文=中島恵<ジャーナリスト>)

日刊工業新聞2019年5月10日

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