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キャッシュレス社会は屋台から!?“後進国・日本”の巻き返し
利便性だけじゃない、生産性向上やイノベーションの源泉
現金を使わないキャッシュレス決済の推進機運が高まっている。2020年の東京五輪などを控え、訪日客の決済需要への対応だけが狙いではない。ビッグデータ分析による消費の活性化効果や少子高齢化で労働力不足に直面する日本にとって社会全体でキャッシュレス化を進め、生産性を高めていく意義が大きいことも背景にある。日常生活の利便性はもとより、社会を大きく変える可能性を秘めたキャッシュレス化-。その最前線に迫る。
福岡市名物の屋台でいま、QRコードを利用したキャッシュレス決済の一大実証事業が繰り広げられている。楽天やLINEが提供するスマートフォン(スマホ)決済サービスだけでなく、中国で5億人以上が日常的に利用する「アリペイ」に対応する店舗もある。高島宗一郎市長は「地方都市から新しいおカネの流れを作る」と宣言。公共施設や商業施設や屋台、タクシーなど、さまざまな場面でスマホ決済が行える場所を増やしていく計画だ。
キャッシュレス決済とは、現金以外の支払い手段の総称だ。クレジットカードや電子マネーのほか「おサイフケータイ」といったモバイルウォレットに加え、最近は、QRコードやバーコードを用いたスマホ決済が急速に普及しつつある。
アプリに現金でチャージしたり、銀行口座やクレジットカードを紐付けしたり、お金の出どころはさまざまだが、コード決済の特徴は、「おサイフケータイ」で使われるFelica(フェリカ)などの近距離無線通信規格に依存せず、アプリさえ取得すれば端末の仕様にかかわらず利用できる手軽さにある。
店舗側の負担が少なく、決済だけでなく、送金や割り勘機能など、クレジットカードにはなかった機能もある。客が自分のスマホにコードを表示し、店舗側の端末で読み取る方式と、店頭に掲示されているコードを客側が読み取るタイプの大きく二つに分かれるが、すでにネット関連企業はこうした決済手段を通じて顧客を囲い込み、自社の「経済圏」を確立しようと、機能やサービスで競い合う。
こうした動きに呼応して、利用割引やポイント還元、決済にかかる時間の短縮など、すでにキャッシュレス決済のメリットを享受する層が広がり始めている一方で、世界的に見ると日本のキャッシュレス化はまだまだ進展していないのが実情だ。
最も普及が進む韓国のキャッシュレス決済比率はすでに9割に達するほか、その他の先進国でも4割から8割に上るのに対し、日本は2割にとどまっており、世界的にも珍しい現金主義の国といえる。
治安が良く、紙幣も比較的清潔で偽札も少ないことから現金に対する信認が高く、ATMなどの金融インフラも十分整備されているといった、日本の「良さ」ゆえに消費者が必要性を感じてこなかったことが背景のひとつと見られている。
個人情報の流出に対する不安や節約のためあえてカードを使わない人もいる。規模の小さな小売店ではクレジットカード決済に伴う初期費用や手数料負担から二の足を踏むといった実情もある。
他方、世界の潮流はキャッシュレス化だ。中でも中国は、アリババグループの「アリペイ」やメッセンジャーアプリのウィーチャットを運営するテンセントの「ウィーチャットペイ」をはじめスマホ決済の店舗導入が爆発的に進み、露天飲食から高級品まであらゆる決済がスマートフォンが主流。決済インフラの域を超え、もはや生活アプリとなっている。
そんな環境に慣れ親しんだ中国人消費者を取り込むうえでいまや不可欠なアリペイをめぐっては、日本でも2015年以降、中国人向けサービスとして導入され、コンビニエンスストアや百貨店、ドラッグストアなど約5万店規模が導入している。
普及を後押しするのは中国人観光客需要を何とか取り込みたいという店舗側の切実な思いだ。現時点で、アリペイを利用するには中国で銀行口座を開設する必要があるが、訪日中国人観光客用ではなく日本人が日本国内で利用できるサービスになれば、海外の巨大資本に消費者情報を奪われかねないと戦々恐々とする向きもある。
こうした世界の潮流に取り残されればキャッシュレス後進国となりかねない日本。国も現状に強い危機感を抱いている。キャッシュレス決済の本格的な普及へ向け口火を切ったのが経済産業省がこの4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」である。
この報告書では、2025年に向けてキャッシュレス決済比率4割という野心的な目標を掲げ、利便性や安心感向上へむけた環境整備が必要と指摘した。この7月には、産官学、オールジャパンの推進協議会も発足。QRコードの標準化やキャッシュレス支払時におけるペーパレス化をはじめ、さまざまな利用者や事業者がそのメリットを享受できる仕組みづくりを急ぐ考えだ。
こうして日本でもいよいよ本格化するキャッシュレス化の動きだが前述のキャッシュレス先進国においても、その時の経済情勢や社会な背景といったさまざまな事情が絡み合いながら、国を挙げてキャッシュレス化に取り組んできた歴史がある。各国の実情をひもとくことで、日本が目指すべきキャッシュレス社会が浮き彫りになるかもしれない。
スマホ決済、サービス競い合う
福岡市名物の屋台でいま、QRコードを利用したキャッシュレス決済の一大実証事業が繰り広げられている。楽天やLINEが提供するスマートフォン(スマホ)決済サービスだけでなく、中国で5億人以上が日常的に利用する「アリペイ」に対応する店舗もある。高島宗一郎市長は「地方都市から新しいおカネの流れを作る」と宣言。公共施設や商業施設や屋台、タクシーなど、さまざまな場面でスマホ決済が行える場所を増やしていく計画だ。
キャッシュレス決済とは、現金以外の支払い手段の総称だ。クレジットカードや電子マネーのほか「おサイフケータイ」といったモバイルウォレットに加え、最近は、QRコードやバーコードを用いたスマホ決済が急速に普及しつつある。
アプリに現金でチャージしたり、銀行口座やクレジットカードを紐付けしたり、お金の出どころはさまざまだが、コード決済の特徴は、「おサイフケータイ」で使われるFelica(フェリカ)などの近距離無線通信規格に依存せず、アプリさえ取得すれば端末の仕様にかかわらず利用できる手軽さにある。
店舗側の負担が少なく、決済だけでなく、送金や割り勘機能など、クレジットカードにはなかった機能もある。客が自分のスマホにコードを表示し、店舗側の端末で読み取る方式と、店頭に掲示されているコードを客側が読み取るタイプの大きく二つに分かれるが、すでにネット関連企業はこうした決済手段を通じて顧客を囲い込み、自社の「経済圏」を確立しようと、機能やサービスで競い合う。
こうした動きに呼応して、利用割引やポイント還元、決済にかかる時間の短縮など、すでにキャッシュレス決済のメリットを享受する層が広がり始めている一方で、世界的に見ると日本のキャッシュレス化はまだまだ進展していないのが実情だ。
韓国9割、日本は2割
最も普及が進む韓国のキャッシュレス決済比率はすでに9割に達するほか、その他の先進国でも4割から8割に上るのに対し、日本は2割にとどまっており、世界的にも珍しい現金主義の国といえる。
治安が良く、紙幣も比較的清潔で偽札も少ないことから現金に対する信認が高く、ATMなどの金融インフラも十分整備されているといった、日本の「良さ」ゆえに消費者が必要性を感じてこなかったことが背景のひとつと見られている。
個人情報の流出に対する不安や節約のためあえてカードを使わない人もいる。規模の小さな小売店ではクレジットカード決済に伴う初期費用や手数料負担から二の足を踏むといった実情もある。
他方、世界の潮流はキャッシュレス化だ。中でも中国は、アリババグループの「アリペイ」やメッセンジャーアプリのウィーチャットを運営するテンセントの「ウィーチャットペイ」をはじめスマホ決済の店舗導入が爆発的に進み、露天飲食から高級品まであらゆる決済がスマートフォンが主流。決済インフラの域を超え、もはや生活アプリとなっている。
そんな環境に慣れ親しんだ中国人消費者を取り込むうえでいまや不可欠なアリペイをめぐっては、日本でも2015年以降、中国人向けサービスとして導入され、コンビニエンスストアや百貨店、ドラッグストアなど約5万店規模が導入している。
普及を後押しするのは中国人観光客需要を何とか取り込みたいという店舗側の切実な思いだ。現時点で、アリペイを利用するには中国で銀行口座を開設する必要があるが、訪日中国人観光客用ではなく日本人が日本国内で利用できるサービスになれば、海外の巨大資本に消費者情報を奪われかねないと戦々恐々とする向きもある。
現状への危機感
こうした世界の潮流に取り残されればキャッシュレス後進国となりかねない日本。国も現状に強い危機感を抱いている。キャッシュレス決済の本格的な普及へ向け口火を切ったのが経済産業省がこの4月にまとめた「キャッシュレス・ビジョン」である。
この報告書では、2025年に向けてキャッシュレス決済比率4割という野心的な目標を掲げ、利便性や安心感向上へむけた環境整備が必要と指摘した。この7月には、産官学、オールジャパンの推進協議会も発足。QRコードの標準化やキャッシュレス支払時におけるペーパレス化をはじめ、さまざまな利用者や事業者がそのメリットを享受できる仕組みづくりを急ぐ考えだ。
こうして日本でもいよいよ本格化するキャッシュレス化の動きだが前述のキャッシュレス先進国においても、その時の経済情勢や社会な背景といったさまざまな事情が絡み合いながら、国を挙げてキャッシュレス化に取り組んできた歴史がある。各国の実情をひもとくことで、日本が目指すべきキャッシュレス社会が浮き彫りになるかもしれない。