METI
「現金お断り」の店、管理から解き放たれた新しい価値
ロイホやフランフラン、顧客と向き合う
経済産業省が策定したキャッシュレス・ビジョンでは、2025年に向けて日本のキャッシュレス決済比率を40%まで引き上げる目標を掲げている。国を挙げてキャッシュレス化を推進する方針が示されたことに呼応して、あるいはこれを先取りする形で企業の取り組みも活発化している。
「CASHLESS(現金お断り)」―。スウェーデンなどのキャッシュレス先進国では珍しくないこんな看板を、日本でも掲げる店が登場した。「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングス(HD)が東京・日本橋の馬喰町に2017年11月にオープンした「ギャザリング テーブル パントリー」は完全キャッシュレスの実験店舗だ。
実は同社にとってキャッシュレス化は、IT活用による店長業務の効率化のひとつにすぎない。むしろ、その先に描くのは、調理工程の短縮や低投資型店舗展開と組み合わせた次世代型ビジネスモデルの創出だ。
ローソンは商品バーコードを客がスマホのカメラで読み取ることで、店内どこでもセルフ決済できるシステム「ローソンスマホペイ」を2018年度中に100店舗に導入する計画だ。
今年4月から都内3店舗で行った実証実験では、混雑時の店内滞在時間はわずか、約1分。レジで決済する場合に比べ約4分の1に短縮されたという。同社ではこのサービスで混雑時のレジ待ちにおける利用客のストレス軽減と店舗のレジ対応の省人化による生産性向上を狙う。
家具や雑貨店を展開するFrancfranc(フランフラン)が期間限定で今年9月に東京・代官山にオープンした「ROOM COSME POP UP SHOP代官山」は同社初の完全キャッシュレスの店舗。
同店舗では実際に販売している商品を使ったDIYを体験できるなど、「体験型」が特徴であるだけに、現金管理に伴うスタッフの業務負荷を軽減し、顧客と向き合う時間を増やす狙いでキャッシュレス決済を導入した。
これら企業に共通するのは、単に訪日外国人観光客需要を取り込むだけにとどまらず、少子高齢化による人手不足や国内市場の縮小といった日本が直面する構造的な課題への解決策の一助としてキャッシュレス化を捉えている点だ。
キャッシュレス決済を導入すれば、現金を維持、管理する労力が削減できる。顧客との接点が増えることや購買データに基づいたマーケティングは新たな価値創造や収益向上をもたらす可能性を秘めている。
また、野村総合研究所の試算によると、現金決済インフラの維持には年間約1兆6000億円を超える直接的な社会コストがかかっている。
この数字には、紙幣や硬貨の製造コストやATM機器の設置および維持コストのほか、レジ締めなど現金関連業務に伴う人件費などが含まれる。
これらは一義的には金融機関や企業が負担する形だが、最終的には現金の利用者におおむね転嫁される。このように現金利用は大きな負担を伴うことも政府や企業がキャッシュレス化を推進する理由となっている。
今年7月―。キャッシュレス社会の実現を目指す新たな取り組みが始動した。産官学による「キャッシュレス推進協議会」の発足である。
同協議会には3メガバンクや地方銀行、携帯大手3社、イオンなどの流通業界のほか、ヤフーや楽天といったネット関連企業など約250社が参加。多彩な顔ぶれからもうかがえるように、キャッシュレス決済の世界にはいま金融や流通以外の異業種からの参入が相次いでいる。
QRコード決済の草分け的存在として知られるのはOrigami(オリガミ)だが、ここへきてLINEや楽天なども相次ぎ参入。ソフトバンクとヤフーが共同出資で立ち上げたペイペイは今秋にもサービス開始予定だ。
すでに手数料競争が始まっているとささやかれる決済サービスだが、それでも新規参入が相次ぐには理由がある。各社がすでに抱える会員向けサービスに決済機能を追加すれば、さらなる顧客囲い込みにつながり、自社の「経済圏」を拡大できるからだ。
一方で参入企業が広がった結果、異なる決済方式が乱立すれば、消費者の利便性はもとより、導入店舗側に新たな負担を強いることになる。そこでキャッシュレス推進協議会が活動の柱のひとつと位置づけるのがQRコードを使った決済の規格統一作業。同協議会の福田好郎事務局長はこう語る。
「日本の決済全体に占めるキャッシュレス比率は2割ほどですが、これを各社で奪い合うのではなく、パイそのものをいかに大きくするかという視点が必要なんです」。
「CASHLESS(現金お断り)」―。スウェーデンなどのキャッシュレス先進国では珍しくないこんな看板を、日本でも掲げる店が登場した。「ロイヤルホスト」などを展開するロイヤルホールディングス(HD)が東京・日本橋の馬喰町に2017年11月にオープンした「ギャザリング テーブル パントリー」は完全キャッシュレスの実験店舗だ。
実は同社にとってキャッシュレス化は、IT活用による店長業務の効率化のひとつにすぎない。むしろ、その先に描くのは、調理工程の短縮や低投資型店舗展開と組み合わせた次世代型ビジネスモデルの創出だ。
ローソンは商品バーコードを客がスマホのカメラで読み取ることで、店内どこでもセルフ決済できるシステム「ローソンスマホペイ」を2018年度中に100店舗に導入する計画だ。
今年4月から都内3店舗で行った実証実験では、混雑時の店内滞在時間はわずか、約1分。レジで決済する場合に比べ約4分の1に短縮されたという。同社ではこのサービスで混雑時のレジ待ちにおける利用客のストレス軽減と店舗のレジ対応の省人化による生産性向上を狙う。
家具や雑貨店を展開するFrancfranc(フランフラン)が期間限定で今年9月に東京・代官山にオープンした「ROOM COSME POP UP SHOP代官山」は同社初の完全キャッシュレスの店舗。
同店舗では実際に販売している商品を使ったDIYを体験できるなど、「体験型」が特徴であるだけに、現金管理に伴うスタッフの業務負荷を軽減し、顧客と向き合う時間を増やす狙いでキャッシュレス決済を導入した。
これら企業に共通するのは、単に訪日外国人観光客需要を取り込むだけにとどまらず、少子高齢化による人手不足や国内市場の縮小といった日本が直面する構造的な課題への解決策の一助としてキャッシュレス化を捉えている点だ。
キャッシュレス決済を導入すれば、現金を維持、管理する労力が削減できる。顧客との接点が増えることや購買データに基づいたマーケティングは新たな価値創造や収益向上をもたらす可能性を秘めている。
1.6兆円もの社会的コスト
また、野村総合研究所の試算によると、現金決済インフラの維持には年間約1兆6000億円を超える直接的な社会コストがかかっている。
この数字には、紙幣や硬貨の製造コストやATM機器の設置および維持コストのほか、レジ締めなど現金関連業務に伴う人件費などが含まれる。
これらは一義的には金融機関や企業が負担する形だが、最終的には現金の利用者におおむね転嫁される。このように現金利用は大きな負担を伴うことも政府や企業がキャッシュレス化を推進する理由となっている。
今年7月―。キャッシュレス社会の実現を目指す新たな取り組みが始動した。産官学による「キャッシュレス推進協議会」の発足である。
同協議会には3メガバンクや地方銀行、携帯大手3社、イオンなどの流通業界のほか、ヤフーや楽天といったネット関連企業など約250社が参加。多彩な顔ぶれからもうかがえるように、キャッシュレス決済の世界にはいま金融や流通以外の異業種からの参入が相次いでいる。
QRコード決済の草分け的存在として知られるのはOrigami(オリガミ)だが、ここへきてLINEや楽天なども相次ぎ参入。ソフトバンクとヤフーが共同出資で立ち上げたペイペイは今秋にもサービス開始予定だ。
すでに手数料競争が始まっているとささやかれる決済サービスだが、それでも新規参入が相次ぐには理由がある。各社がすでに抱える会員向けサービスに決済機能を追加すれば、さらなる顧客囲い込みにつながり、自社の「経済圏」を拡大できるからだ。
一方で参入企業が広がった結果、異なる決済方式が乱立すれば、消費者の利便性はもとより、導入店舗側に新たな負担を強いることになる。そこでキャッシュレス推進協議会が活動の柱のひとつと位置づけるのがQRコードを使った決済の規格統一作業。同協議会の福田好郎事務局長はこう語る。
「日本の決済全体に占めるキャッシュレス比率は2割ほどですが、これを各社で奪い合うのではなく、パイそのものをいかに大きくするかという視点が必要なんです」。