危機感の自動車業界、「所有から利用」対応待ったなし
MaaS到来“移動革命”
「所有から利用」という消費の変化が自動車業界に波及している。自家用車の保有から定額サービスやカーリース、カーシェアリングなど時間ごとに細切れに利用する動きが広がる。それに伴い、自動車関連メーカーやIT企業などが対応したサービスの提供に乗り出した。将来は自動運転技術を組み合わせた統合型移動サービス(MaaS)の到来も予測される。“移動革命”に備え、ビジネスモデルの多様化が進む。(文=渡辺光太)
PwCコンサルティング(東京都千代田区)は、2030年にMaaSなどのサービスによるビジネスが、自動車や部品を単品で販売するビジネスを利益面で上回ると試算する。従来の部品事業やアフターサービスなどの市場で得られる利益の割合は現在の71%から、30年には41%とほぼ半減する計算だ。
こうした中、危機感を高めているのが新車販売をメーンのビジネスにしてきた自動車業界だ。トヨタ自動車は19年2月から東京都内で高級車ブランド「レクサス」を対象に3年間で6車種を使用できる月別の定額サービス(サブスクリプション)「キントセレクト」を試験的に始めた。3月にはトヨタブランドの車が対象の「キントワン」も試験に追加した。
キントセレクトの月額料金は19万4400円(消費税込み)から。車両代金や登録時の諸費用・税金、任意保険、自動車税を含んだ。ガソリン代と駐車場、突然の出費以外は不要とすることで、利用に重点を置いたサービスだ。同サービスを手がけるKINTO(キント、名古屋市西区)の小寺信也社長は「東京での結果を踏まえ、今夏以降に全国展開する」考え。
一方でじわりと拡大しているのがカーリースだ。最大手のオリックス自動車(東京都港区)は18年度の契約台数が5年前と比べて約2倍に増加。同社がカーリースの普及を目的に関連業種を集めて組成した「ミリオンクラブ」は、販売店や整備工場などの加盟数が1105社にのぼる。ここ数年で個人向けリースに対応したいという理由から加盟が増えている。
高城智執行役員は「黎明(れいめい)期は脱した」と見る。30―50代の幅広い世代でリースの利点が伝わっているという。
むしろ、急増する需要に人員が対応しきれない可能性がある。そのため、オリックス自はウェブ申し込みをできる体制を整えるほか、わかりやすい個人向けリースの商品も拡充していく。
日産自動車は電動車を貸し出すカーシェア「e―シェアモビ」の拠点を拡大している。17年度時点で30カ所だったが、18年度末に500カ所を超えた。消費者が電動車を体験できる場を増やすだけでなく、自動運転技術「プロパイロット」も訴求する。4月には大学生協事業連合(東京都杉並区)と提携。大学生には1回に限り、無料で利用できるクーポンを用意するなど若者の利用を促す。
車メーカー以外のカーシェアではディー・エヌ・エー(DeNA)とSOMPOホールディングス(HD)が注目される。両社で個人間のカーシェアを手がける共同事業会社「DeNA SOMPO Mobility(モビリティー)」を設立した。
個人間のカーシェアをめぐっては事故を起こした際に専門の保険がないことも課題だった。これまで適用されていたのは、学生などが親の車を借りる際に利用するような1日のみの保険だ。しかも、走行のみに限られ、駐車中などには対象外になる場合がある。そのため、専用の保険を設計し、サービスの安全性や利便性を高める狙いだ。
また、車を持っていない人に同社が車を貸し出し、その人が車を使っていない時間はカーシェアのオーナーとして他の人に車を又貸しすれば、料金を実質0円にできる「0円マイカー」も提案する。初期費用が大きくかかる従来型のマイカー購入とは一線を画す新たなビジネスモデルとなる。中島宏DeNA SOMPO モビリティー社長は「移動に関する多様なニーズに対して、お金の取り方を変えたサービスを作ることで、利用者の選択肢を増やしている」と説明する。
00年以降に社会人となった「ミレニアル世代」にとってMaaSへの期待は大きい。これまでの世代と比べて、車の所有や利用に対する執着が弱いとされるが「統合された移動体験を好む」(PwC)傾向にあるという。
高度なMaaSを実現する上で、自動運転や情報端末との連携した高効率なマッチング、長時間稼働に耐えうる耐久性などクリアすべき課題は多い。だが、足元ではMaaSの品質を高める戦いは始まっている。移動手段や移動体験に対する価値を訴求できるかが、新時代のサービスではカギを握りそうだ。
中島宏DeNA SOMPO モビリティー社長にMaaSの展望を聞いた。
―近年、所有から利用に車の使い方が変化しています。
「世の中の変化が速く、人々のライフスタイルや人生設計なども、速く変化していくことになる。そのため、そうした変動に合わせて車の持ち方やその時間、利用の仕方を多様化させる必要がある」
―MaaSを実現できるようになってきた理由は何ですか。
「シェアリングエコノミー(共有型経済)の概念が一般化してきたことが挙げられる。例えば、若年層はすでにモノを買うときから、フリマアプリ『メルカリ』で何円で売れるかを考える。一時的にモノを所有することを前提に購買が進んでいるということだ。加えて、モノを持つことだけでなく、体験に価値を置いているのもポイントだろう」
―今後の課題は。
「多様なモデルのサービスを構築し、その中で、個別具体的で最適なものを選んでもらう環境を作ることだ。加えて、そうしたサービスは注文即応型(オンデマンド)でかつ、スマートでなければならない」
ビジネスモデルが多様化
PwCコンサルティング(東京都千代田区)は、2030年にMaaSなどのサービスによるビジネスが、自動車や部品を単品で販売するビジネスを利益面で上回ると試算する。従来の部品事業やアフターサービスなどの市場で得られる利益の割合は現在の71%から、30年には41%とほぼ半減する計算だ。
こうした中、危機感を高めているのが新車販売をメーンのビジネスにしてきた自動車業界だ。トヨタ自動車は19年2月から東京都内で高級車ブランド「レクサス」を対象に3年間で6車種を使用できる月別の定額サービス(サブスクリプション)「キントセレクト」を試験的に始めた。3月にはトヨタブランドの車が対象の「キントワン」も試験に追加した。
キントセレクトの月額料金は19万4400円(消費税込み)から。車両代金や登録時の諸費用・税金、任意保険、自動車税を含んだ。ガソリン代と駐車場、突然の出費以外は不要とすることで、利用に重点を置いたサービスだ。同サービスを手がけるKINTO(キント、名古屋市西区)の小寺信也社長は「東京での結果を踏まえ、今夏以降に全国展開する」考え。
一方でじわりと拡大しているのがカーリースだ。最大手のオリックス自動車(東京都港区)は18年度の契約台数が5年前と比べて約2倍に増加。同社がカーリースの普及を目的に関連業種を集めて組成した「ミリオンクラブ」は、販売店や整備工場などの加盟数が1105社にのぼる。ここ数年で個人向けリースに対応したいという理由から加盟が増えている。
高城智執行役員は「黎明(れいめい)期は脱した」と見る。30―50代の幅広い世代でリースの利点が伝わっているという。
むしろ、急増する需要に人員が対応しきれない可能性がある。そのため、オリックス自はウェブ申し込みをできる体制を整えるほか、わかりやすい個人向けリースの商品も拡充していく。
日産自動車は電動車を貸し出すカーシェア「e―シェアモビ」の拠点を拡大している。17年度時点で30カ所だったが、18年度末に500カ所を超えた。消費者が電動車を体験できる場を増やすだけでなく、自動運転技術「プロパイロット」も訴求する。4月には大学生協事業連合(東京都杉並区)と提携。大学生には1回に限り、無料で利用できるクーポンを用意するなど若者の利用を促す。
車メーカー以外のカーシェアではディー・エヌ・エー(DeNA)とSOMPOホールディングス(HD)が注目される。両社で個人間のカーシェアを手がける共同事業会社「DeNA SOMPO Mobility(モビリティー)」を設立した。
個人間のカーシェアをめぐっては事故を起こした際に専門の保険がないことも課題だった。これまで適用されていたのは、学生などが親の車を借りる際に利用するような1日のみの保険だ。しかも、走行のみに限られ、駐車中などには対象外になる場合がある。そのため、専用の保険を設計し、サービスの安全性や利便性を高める狙いだ。
また、車を持っていない人に同社が車を貸し出し、その人が車を使っていない時間はカーシェアのオーナーとして他の人に車を又貸しすれば、料金を実質0円にできる「0円マイカー」も提案する。初期費用が大きくかかる従来型のマイカー購入とは一線を画す新たなビジネスモデルとなる。中島宏DeNA SOMPO モビリティー社長は「移動に関する多様なニーズに対して、お金の取り方を変えたサービスを作ることで、利用者の選択肢を増やしている」と説明する。
00年以降に社会人となった「ミレニアル世代」にとってMaaSへの期待は大きい。これまでの世代と比べて、車の所有や利用に対する執着が弱いとされるが「統合された移動体験を好む」(PwC)傾向にあるという。
高度なMaaSを実現する上で、自動運転や情報端末との連携した高効率なマッチング、長時間稼働に耐えうる耐久性などクリアすべき課題は多い。だが、足元ではMaaSの品質を高める戦いは始まっている。移動手段や移動体験に対する価値を訴求できるかが、新時代のサービスではカギを握りそうだ。
中島宏DeNA SOMPO モビリティー社長に聞く
中島宏DeNA SOMPO モビリティー社長にMaaSの展望を聞いた。
―近年、所有から利用に車の使い方が変化しています。
「世の中の変化が速く、人々のライフスタイルや人生設計なども、速く変化していくことになる。そのため、そうした変動に合わせて車の持ち方やその時間、利用の仕方を多様化させる必要がある」
―MaaSを実現できるようになってきた理由は何ですか。
「シェアリングエコノミー(共有型経済)の概念が一般化してきたことが挙げられる。例えば、若年層はすでにモノを買うときから、フリマアプリ『メルカリ』で何円で売れるかを考える。一時的にモノを所有することを前提に購買が進んでいるということだ。加えて、モノを持つことだけでなく、体験に価値を置いているのもポイントだろう」
―今後の課題は。
「多様なモデルのサービスを構築し、その中で、個別具体的で最適なものを選んでもらう環境を作ることだ。加えて、そうしたサービスは注文即応型(オンデマンド)でかつ、スマートでなければならない」
日刊工業新聞2019年5月3日