経産省DX室、ITの専門家とともに行政サービス革新

 利便性の高い行政サービスの提供と、効率的な業務の実現を目指し発足した経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションオフィス(DX室)」。ITの専門家やコンサルティング経験者など、多彩な背景を持つ人材を積極登用し、省内のさまざまな部署の職員と連携しながら改革を担う推進体制が特徴だ。民間出身の彼ら、彼女らの目に映る経産省の、ひいては日本のデジタルトランスフォーメーションの可能性とは―。

豊富な経験生かして


 〈DX室では、CIO補佐官をヘッドにデジタル化推進マネージャーや官民交流人材など異なるバッググラウンドを持つ職員が一丸となった改革を担う〉

 経済産業省CIO補佐官 平本健二氏(以下、平本)「ITシステム会社でのコンサルティングを経て2008年から現職に就いています。省全体の情報システムに対するアドバイスや支援が大きな役割です」

 デジタル化推進マネージャー 酒井一樹氏(以下、酒井)「経産省に転職して2年あまり。これまで旅費精算システムの運用や開発、保守などに携わってきました。ネットワークやサーバー構築を専門とするインフラエンジニア出身です」

 デジタル化推進マネージャー 宮部麻里子氏(以下、宮部)「DX室の発足にあたり、経産省が転職支援サイトで応募したプロダクトマネージャー職に応募、採用されました。18年務めた電力会社のシステム子会社ではではサーバーやネットワーク構築に従事し、中小企業のITの現場も数多く見てきました。国の仕事には携わった経験はありませんが、これまでの経験を国という大きな世界で生かしたいと考え、転職を決断しました」

 中小企業庁 デジタル・トランスフォーメーション企画調整官 西谷香織氏(以下、西谷)「8月から官民交流採用として中小企業庁のDX企画・調整全体を担当しています。中企庁では現在、システム開発や調査事業として11プロジェクトが進行中です。これらのプロジェクトマネジメントや、庁内および関係外部機関などの調整を担っています」

 〈多様な人材力に加え、これらプロジェクトの中にはこれまでの霞が関の常識を覆すような開発思想を採用しているケースもある〉

 西谷 「例えば、現在開発中の中小企業支援プラットフォームは、全体的に『アジャイル開発』で進めています。これまでの開発手法は、初めに要件定義をし、長い時間をかけて設計、開発を進めていくのが一般的でした。しかし今回は、小さくスタートし、機能を追加するなかでユーザーにとって真に使いやすいものを追求する考え方に基づいています」

 宮部 「こうした柔軟な開発思想はもっと広く採用されればいいですね」

 平本 「海外のトップエンジニアにデザインを競わせるといった取り組みも始めています。こうした手法は斬新じゃないかな」

 西谷 「このデザインコンテストを担当するのは若手のアプリチームなのですが、しがらみや過去の慣行にとらわれず挑戦する姿は印象的です」
宮部さん(左)と平本さん

「意思決定のスピードには驚いた」


 〈こうした新たな試みを受け入れるのは経産省の気風なのか〉

 平本 「そうですね。どんどん新しいものを取り込んでいく組織風土は根付いていると感じます。経産省は攻めの省庁だから、目標を定め合意形成さえされれば、従来手法への抵抗感や軋轢(あつれき)は比較的少なく、物事がスムーズに運ぶ面はありますね。だが、すべての省庁が同じというわけではない。だからこそ、我々DX室が、取り組みの成果を示すことが重要なんです」

 宮部 「意思決定のスピードは転職して驚いた一つです。役所は物事を決めるのに時間がかかるとの固定概念がありましたが、かなりアグレッシブで、必要なことはものすごい早さで決められていく。同時に、書類の多さや勤怠管理に押印が必要なことにも驚きました」

 酒井 「現時点で、アナログとデジタルを線引きすること自体には大きな意味はないと思います。ただ、日常生活では当たり前のようにデジタル技術の恩恵に浴して、便利さを享受しているのに、それを業務に活用できないところに制度や意識の壁を感じます。それらを僕らDX室が打ち破りたいと思っています。既存の仕組みをデジタル化するには時間もかかるし、じっくり取り組んでいくべき課題だと思います。一方で新たに始めることは、デジタルを前提にどんどん進めればいい。それらがいつしか融合して真のデジタル社会が到来するのではないでしょうか」

 平本 「アナログと超ハイスピードが混在しているのが経産省なんですよ。確かにいまだに書類の山で、はんこを付いているけれど、やっていることは超最先端。実に面白いアナザーワールドです」

あえて「高めの球」を投げる


〈DX室の特徴は、ITなどの専門知識を持つ民間出身者と生粋の行政官とのハイブリッド体制である〉

 平本 「僕は比較的長い間、こうした枠組みの中で仕事をしてきたので分かるのですが、おそらく僕らの役割は、役所の外での調整や折衝の場において、あえて高い球を投げることで、目指す世界に近づけることなんです。従来の行政内の議論だと、『落としどころ』を探りがちで、斬新なアイデアや突飛な発想は議論の俎上に上がりにくい。しかし、我々は、自由な発想でものを言いやすい」

 酒井 「僕もあえてその場の空気を読まず、『言いたいことを言わせてもらう』役どころを演じている部分はあります。高い球を打ち返してくれれば最高なんですけどね」

〈一方で、新しい仕組みの構築や業務改革はエネルギーを伴う〉

 酒井 「新たな取り組みは、担当する部局の皆さんが省内調整をしてくれるからこそ実現可能なんです。僕らは資料を用意したり技術的な説明はできても、こうした調整能力は持ち合わせていない。IT専門家と行政のプロのハイブリット体制の意味はこうしたところにあると思います」

 西谷 「いま、中小企業庁のDX室で取り組んでいるのは、まずは各種申請の電子化により中小企業・小規模事業者にとっての利便性を向上させること、その上で電子化をトリガーとして蓄積されるデータベースを活用し、政策立案や政策評価につなげていくことです。中小企業支援は国だけでなく、自治体や経済団体、金融機関などさまざまな関係機関が携わるだけに、いかにそれら団体と円滑にデータ連携ができるかが重要になります。それぞれの団体が保有するデータに対して、どのような共有ルールを設ければ具体的に連携できるのか、検討している最中です。各団体の業務や既存システムに影響のある話なので、新たな仕組みがなぜ必要なのか、各団体における電子化のメリットは何か―。説得力ある説明や動機付けの必要性を痛感しています」

 平本 「施策を打ち出したらそれで終わりではなく、これをどのように届け、いかに効果を最大化させていくかが重要になります。我々の開発しているプラットフォームによって省全体のパワーアップにつなげたいですね」

 宮部 「国民や企業にいかに施策を届けるか―。平本さんをはじめ、深く長く考えてこられた方ばかりですので、私自身は、こうしたマインドに追いつくことに必死なのが正直なところです。ですが、自分の得意分野でチームに貢献したいと考えています」
西谷さん(左)と酒井さん

日刊工業新聞 記者

日刊工業新聞 記者
11月17日
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次回はデジタル・ガバメント先進国の取り組みを紹介します。

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