電動化特許の無償提供に踏み切ったトヨタ、「攻め」と「守り」の潮目
ハイブリッド車(HV)を中心とした電動化技術の特許を同日から無償提供することを決めたトヨタ自動車。モーターやパワーコントロールユニット(PCU)といった中核技術の特許を含め、約2万3740件が対象となる。電動車を開発するのに必要な中核システムを他の自動車メーカーが採用する際、トヨタは技術支援も担う。寺師茂樹副社長は「世界的に燃費規制が強化される中、グローバルに電動化技術を共有できる取り組みが必要だ」と話す。
電池を除く車両の電動化技術全般の特許を2030年末まで無償提供するほか、15年1月に公表し20年末までとしていた燃料電池関連の特許約5680件(当時)の無償化も、30年末まで延長することを決めた。世界的に燃費規制が強化される中、競合他社に技術を無償提供し、HVの市場拡大につなげる。
トヨタは得意のHV技術を軸に、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を組み合わせて、各地域の環境規制に対応する戦略を他メーカーにも促す。寺師副社長は「現状の電動化技術(の普及)は、この10年が大きなヤマ場だ」とし、自社技術の提供で市場形成を加速する考えを示した。
FCVでは取り込んだ空気をより浄化して排出する「マイナスエミッション」の概念で環境改善への貢献を訴求し、技術の普及拡大を図る。
トヨタは今回、自社だけで醸成してきたHV技術を外部に提供することになる。寺師副社長は「(HV技術の)囲い込みを反省した」と振り返る。「(トヨタは)次世代の技術開発をしている。当社の技術進歩がある限り競争力はなくならない」と指摘。無償提供でHVのデファクトスタンダード(事実上の標準)を形成しながら、次世代HVで主導権をさらに盤石にする思惑が透ける。
トヨタは17年末に、電動車の販売を30年に550万台以上に増やす目標を掲げた。18年は欧州でのHVが好調なことなどを受け、電動車販売台数は約166万台と過去最高を更新。累計販売台数は1300万台を突破した。
トヨタ自動車とスズキは20日、トヨタのハイブリッドシステムのスズキへの供給やOEM(相手先ブランド)供給の対象車種・地域の拡大など、新たな協業について検討を始めると発表した。協業範囲の拡大により、トヨタはハイブリッド車(HV)を中心とする電動化技術の普及加速を、スズキはグローバル市場での事業拡大を狙う。
トヨタによるハイブリッドシステムの供給はグローバル市場が対象で、時期や搭載車種などは今後詰める。このほか、2020年後半にトヨタが欧州でスズキにHVのOEM供給を開始。20年末にはスズキがインドで生産する小型車を、トヨタのアフリカ市場向けにOEM供給する見通しだ。
両社は17年2月に業務提携に向けた検討を始めた。これまでにインドでの20年の電気自動車(EV)投入や、スズキが開発する「小型超高効率パワートレーン」へのトヨタとデンソーによる技術支援などの協業内容を発表。今回、スズキが開発する同パワートレーンをトヨタのポーランド工場で生産し、同社の小型モデルに搭載することや、インドでのトヨタの車台「Cセグメント」を活用したミニバンの共同開発とスズキへのOEM供給、さらには22年からトヨタのインド工場でスズキのスポーツ多目的車(SUV)「ビターラブレッツァ」を生産することも明らかにした。
トヨタの豊田章男社長は「今回の合意により、インドや欧州をはじめ、グローバルにおいてさらにハイブリッド技術が普及することを期待している」とコメント。スズキの鈴木修会長は「ハイブリッド技術も使わせていただけることになったのは誠にありがたい」と、提携の進捗(しんちょく)を喜んだ。
トヨタ自動車とパナソニックが、車載電池の提携関係を深化する。両社は22日、2020年末までに電気自動車(EV)向けなどの車載電池の新会社を設立すると発表。17年末に表明した車載用角形電池事業での協業検討開始から約1年。各社が本格的に展開を始めた電動車の基幹部品である電池分野で、自動車と電機の大手同士が手を組み、国際的な競争を勝ち抜く。
「これが最後のピースだ」。トヨタの寺師茂樹副社長はEV向けなどの車載電池について、こう断言する。新会社を活用し、電動車で今後大量に使う電池の確保を盤石にする。
トヨタは新会社設立で、20年を予定する自社ブランドのEV参入に向けた布石を打った。豊田章男社長は17年末に協業を発表した際、「両社でクローズすることなく、幅広く電動車両の普及に貢献していく」と陣営拡大を示唆していた。他の車メーカーも含めた標準技術の確立について、トヨタの好田博昭主査は22日の会見で、「新会社の大きな目的の一つ」と明かす。
トヨタが17年12月に公表した30年の全世界の電動車販売目標は、550万台以上。これは18年実績の約3・4倍にもなる。現在のトヨタの電動車は大半がハイブリッド車(HV)だが、20年にEVを販売するほか、30年にはEVと燃料電池車(FCV)だけで合計100万台以上を販売する計画だ。
実現に向けた準備も急ぐ。16年12月発足のEV企画・開発の社内ベンチャー組織「EV事業企画室」を拡充し、18年10月にEVの量産やFCV関連の人員も集約した新組織「トヨタZEVファクトリー」を設置した。
マツダ、デンソーと立ち上げたEVの基盤技術開発会社「EV C・A・スピリット」にはダイハツ工業やスズキ、SUBARU(スバル)、日野自動車、いすゞ自動車、ヤマハ発動機も合流し、ノウハウを共有する。
ただ、EVは中国や欧州を中心に動きが活発な一方、国際的な普及度合いは不透明な部分が多く、「30年の段階では主流ではない」との見方も強い。
また、トヨタはより安全性や急速充電性能が高い、全固体型電池の開発も進めており、車載向けで20年代前半の実用化を目指す。豊田社長はトヨタは「電動化のフルラインアップメーカー」と強調する。今回の新会社設立は、どの技術が台頭しても手を打てるよう、全方位で技術基盤を押さえるのも狙いだ。
世界大手では独フォルクスワーゲン(VW)が25年にはEVを20車種そろえ、生産台数100万台以上を見込む。米ゼネラル・モーターズ(GM)も23年までに20車種のEVを販売する。19年には中国が新エネルギー車(NEV)規制を導入するほか、仏・英両政府が40年以降のガソリン・ディーゼル車の販売禁止を表明するなど、各国・地域で規制が強まり、EV対応に迫られている。
一方、トヨタとパナソニックはHV向け電池を手がけるプライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)を共同運営しており、好田主査は新会社設立後も「HV用ニッケル電池を中心にしっかり生産を担ってもらう」とする。
しかしPEVEもHV向けのリチウムイオン電池の増産投資を積極化し、EV向けも強化する方針を掲げる。好田主査は「両社で組んでしっかり対応する」と強調するが、「将来は競合関係になる可能性もある」(関係者)。経営効率を考えれば、トヨタ主導での事業集約や統合も視野に入りそうだ。
電池を除く車両の電動化技術全般の特許を2030年末まで無償提供するほか、15年1月に公表し20年末までとしていた燃料電池関連の特許約5680件(当時)の無償化も、30年末まで延長することを決めた。世界的に燃費規制が強化される中、競合他社に技術を無償提供し、HVの市場拡大につなげる。
トヨタは得意のHV技術を軸に、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)を組み合わせて、各地域の環境規制に対応する戦略を他メーカーにも促す。寺師副社長は「現状の電動化技術(の普及)は、この10年が大きなヤマ場だ」とし、自社技術の提供で市場形成を加速する考えを示した。
FCVでは取り込んだ空気をより浄化して排出する「マイナスエミッション」の概念で環境改善への貢献を訴求し、技術の普及拡大を図る。
トヨタは今回、自社だけで醸成してきたHV技術を外部に提供することになる。寺師副社長は「(HV技術の)囲い込みを反省した」と振り返る。「(トヨタは)次世代の技術開発をしている。当社の技術進歩がある限り競争力はなくならない」と指摘。無償提供でHVのデファクトスタンダード(事実上の標準)を形成しながら、次世代HVで主導権をさらに盤石にする思惑が透ける。
トヨタは17年末に、電動車の販売を30年に550万台以上に増やす目標を掲げた。18年は欧州でのHVが好調なことなどを受け、電動車販売台数は約166万台と過去最高を更新。累計販売台数は1300万台を突破した。
日刊工業新聞2019年4月4日
スズキとの協業拡大
トヨタ自動車とスズキは20日、トヨタのハイブリッドシステムのスズキへの供給やOEM(相手先ブランド)供給の対象車種・地域の拡大など、新たな協業について検討を始めると発表した。協業範囲の拡大により、トヨタはハイブリッド車(HV)を中心とする電動化技術の普及加速を、スズキはグローバル市場での事業拡大を狙う。
トヨタによるハイブリッドシステムの供給はグローバル市場が対象で、時期や搭載車種などは今後詰める。このほか、2020年後半にトヨタが欧州でスズキにHVのOEM供給を開始。20年末にはスズキがインドで生産する小型車を、トヨタのアフリカ市場向けにOEM供給する見通しだ。
両社は17年2月に業務提携に向けた検討を始めた。これまでにインドでの20年の電気自動車(EV)投入や、スズキが開発する「小型超高効率パワートレーン」へのトヨタとデンソーによる技術支援などの協業内容を発表。今回、スズキが開発する同パワートレーンをトヨタのポーランド工場で生産し、同社の小型モデルに搭載することや、インドでのトヨタの車台「Cセグメント」を活用したミニバンの共同開発とスズキへのOEM供給、さらには22年からトヨタのインド工場でスズキのスポーツ多目的車(SUV)「ビターラブレッツァ」を生産することも明らかにした。
トヨタの豊田章男社長は「今回の合意により、インドや欧州をはじめ、グローバルにおいてさらにハイブリッド技術が普及することを期待している」とコメント。スズキの鈴木修会長は「ハイブリッド技術も使わせていただけることになったのは誠にありがたい」と、提携の進捗(しんちょく)を喜んだ。
日刊工業新聞2019年3月21日
「電池」は国際標準に狙い
トヨタ自動車とパナソニックが、車載電池の提携関係を深化する。両社は22日、2020年末までに電気自動車(EV)向けなどの車載電池の新会社を設立すると発表。17年末に表明した車載用角形電池事業での協業検討開始から約1年。各社が本格的に展開を始めた電動車の基幹部品である電池分野で、自動車と電機の大手同士が手を組み、国際的な競争を勝ち抜く。
「これが最後のピースだ」。トヨタの寺師茂樹副社長はEV向けなどの車載電池について、こう断言する。新会社を活用し、電動車で今後大量に使う電池の確保を盤石にする。
トヨタは新会社設立で、20年を予定する自社ブランドのEV参入に向けた布石を打った。豊田章男社長は17年末に協業を発表した際、「両社でクローズすることなく、幅広く電動車両の普及に貢献していく」と陣営拡大を示唆していた。他の車メーカーも含めた標準技術の確立について、トヨタの好田博昭主査は22日の会見で、「新会社の大きな目的の一つ」と明かす。
トヨタが17年12月に公表した30年の全世界の電動車販売目標は、550万台以上。これは18年実績の約3・4倍にもなる。現在のトヨタの電動車は大半がハイブリッド車(HV)だが、20年にEVを販売するほか、30年にはEVと燃料電池車(FCV)だけで合計100万台以上を販売する計画だ。
実現に向けた準備も急ぐ。16年12月発足のEV企画・開発の社内ベンチャー組織「EV事業企画室」を拡充し、18年10月にEVの量産やFCV関連の人員も集約した新組織「トヨタZEVファクトリー」を設置した。
マツダ、デンソーと立ち上げたEVの基盤技術開発会社「EV C・A・スピリット」にはダイハツ工業やスズキ、SUBARU(スバル)、日野自動車、いすゞ自動車、ヤマハ発動機も合流し、ノウハウを共有する。
ただ、EVは中国や欧州を中心に動きが活発な一方、国際的な普及度合いは不透明な部分が多く、「30年の段階では主流ではない」との見方も強い。
また、トヨタはより安全性や急速充電性能が高い、全固体型電池の開発も進めており、車載向けで20年代前半の実用化を目指す。豊田社長はトヨタは「電動化のフルラインアップメーカー」と強調する。今回の新会社設立は、どの技術が台頭しても手を打てるよう、全方位で技術基盤を押さえるのも狙いだ。
世界大手では独フォルクスワーゲン(VW)が25年にはEVを20車種そろえ、生産台数100万台以上を見込む。米ゼネラル・モーターズ(GM)も23年までに20車種のEVを販売する。19年には中国が新エネルギー車(NEV)規制を導入するほか、仏・英両政府が40年以降のガソリン・ディーゼル車の販売禁止を表明するなど、各国・地域で規制が強まり、EV対応に迫られている。
一方、トヨタとパナソニックはHV向け電池を手がけるプライムアースEVエナジー(PEVE、静岡県湖西市)を共同運営しており、好田主査は新会社設立後も「HV用ニッケル電池を中心にしっかり生産を担ってもらう」とする。
しかしPEVEもHV向けのリチウムイオン電池の増産投資を積極化し、EV向けも強化する方針を掲げる。好田主査は「両社で組んでしっかり対応する」と強調するが、「将来は競合関係になる可能性もある」(関係者)。経営効率を考えれば、トヨタ主導での事業集約や統合も視野に入りそうだ。
日刊工業新聞2019年1月23日の記事から抜粋