ロスジェネの苦境の処方箋「“非正規でも安心”が現実策」の根拠

連載・ロスジェネ世代論(3)リクルートワークス研究所・豊田義博主幹研究員

 大規模な就職難が社会問題になった「就職氷河期」は景気が低迷していただけでなく、サービス産業が急速に拡大するなど、社会構造が大きく変わる転換期だった。リクルートワークス研究所の豊田義博主幹研究員に、この社会構造の大転換が就職氷河期世代に与えた影響や、この世代の苦境からの救済策などを聞いた。

サービス産業の急拡大が主要因


 ―就職氷河期世代は多くが非正規社員として働かざるを得ない状況になりました。この要因をどう分析していますか。
 1990年代初頭にバブル経済が崩壊して景況が急速に落ち込んだため、正社員としての新卒採用数が大きく絞られたという現実があり、それは影響した。ただ、それ以上に「質的な変容」が起きたというのが一番の要因だと思う。

 ―質的な変容とは何ですか。
 サービス産業の急速な拡大に起因する非正規需要の拡大だ。これによりジャスト・イン・タイムの雇用が増えた。実際にサービス業の雇用ポートフォリオは7‐8割が非正規。もちろん製造業などのかつての基幹産業が一般職は派遣社員にするといった切り替えは起きたが、それは数的にインパクトがあったわけではないと思う。企業が手のひらを変えたというよりも社会が変わった。その中で就職氷河期世代が社会構造の変化によってマイナスの影響を受けたのは間違いない。

 -就職氷河期から20年ほどが経過しますが、この世代には今なお非正規として働く方々が多くいます。
 そもそも今振り返れば社会の変化によって一定数は非正規の働き方が常態化するという認識が必要だったのだろう。当時は景気の波による一時的な問題なので、非正規もいつか正社員に転換するという幻想があった。政府も正社員になることが正しいという認識の下で支援策を展開していた。そうではなく政策は非正規の働き方でも安心して生活できるセーフティーネットなどの構築に集中する方が大切だったと思う。その観点では産業側の人材マネジメントにも問題はあった。

 ―産業側の問題とは。
 非正規は一時的な仕事であり、いずれ次のステップに行くと認識して賃金を抑制したし、能力開発の機会を与えるということも考えなかった。非正規の雇用に対して一定の社会的責任を持つ意識が低かった。仮に長く勤めてもらうことを想定していれば、(非正規社員に対し)しっかりとした人材マネージメントを実施するということもあっただろう。

 ―今後も一定数は非正規のまま働き続ける人がいると仮定すると、政策のあり方としては非正規の待遇改善が重要になるのでしょうか。
 今では働き方改革の議論の中で非正規の生活水準を上げようという指摘が出ている。そういう指摘がもっと早くに出てくるべきだった。正社員の仕事を見つけて紹介するという選択肢があればよいが、現実的な政策だとは思わない。

採用市場の柔軟性が薄くなった


 ―非正規のまま40歳前後の中年となった働き手が今後ステップアップすることは難しいのでしょうか。
 資格を取って専門性を携えて労働市場に参入する道はあるだろう。そうした自助努力が報われる構造は労働市場には小さいながらある。そこを有意義に使えると良いと思う。

 ―就職氷河期にはエントリーシートが登場するなど、新卒採用の選考方法も大きく変わったと言われています。
 企業が求める人材像を明確にして学生のビジョンや主体性を問うようになった。だから自分自身のことや学生時代に行ったことなどを書き込むエントリーシートが定着した。それまでは本人に学力や聞き分けの良さがあれば、就職後に会社のナレッジを身につけて5-10年かけて戦力になってくれればよいという考え方だった。そうした変化により、大学推薦の入り口が縮小し、公募に大きく比重が移るなど、市場の在り方が画一化の方向に向かった。職業社会に入っていける柔軟性が薄くなった。就職氷河期世代はその急激な変化の影響を受けた。振り回される人間が出てきた。

 ―なぜそのような変化が起きたのでしょうか。
 高度成長期が終わり、企業は新しい商品やサービスを発想する「ゼロイチ」の力を持つ新しい人材を高望みしたからだろう。その中で本人の意欲や意思を直接しっかり問いたいという目的があった。

 ―今後の採用市場はどうあるべきでしょうか。
 年齢を含めて柔軟な採用市場が広がるとよい。大企業は新卒一括主義。採用コストを考えるとそれがなくなるとは考えられない。一方で中堅やベンチャーは新卒にこだわらずに多様性に価値を感じる人はいる。そうした領域で中途採用市場が豊かになり、大企業にも徐々に広がっていけばよいと思う。
(聞き手・葭本隆太)
                     

【略歴】豊田義博(とよだ・よしひろ) 1959年生まれ。東大理学部卒後、リクルートに入社。現在は研究員として20代の就業実態や新卒採用などの調査研究に携わる。著書に「なぜ若手社員は“指示待ち”を選ぶのか?」「若手社員が育たない。」など。



連載・ロスジェネ世代論


♯01 「2040年危機」招くロスジェネの苦境に救済策はあるか(2019年3月15日配信)
♯02 【小林美希】政策と企業の間違いが生んだ「中年フリーター」は“社会問題”(2019年3月16日配信)
♯03 【豊田義博】ロスジェネの苦境の処方箋「“非正規でも安心”が現実策」の根拠(2019年3月17日配信)
♯04 【小杉礼子】ロスジェネの受難に見る「新卒一括採用」の功罪(2019年3月18日配信)
♯05 【秋山輝之】ロスジェネ救済へ「給与資源の再配分」を今すぐ始めるべき理由(2019年3月19日配信)

ニュースイッチオリジナル

葭本 隆太

葭本 隆太
03月17日
この記事のファシリテーター

景気が低迷する中で、企業が人件費を抑えるために新卒採用を絞ったことが「氷河期世代」における非正規雇用者の多さの要因になったと認識していました。このため、豊田主幹研究員の「社会構造の変化こそ主要因」という指摘はとてもインパクトがありました。明日は労働政策研究・研修機構の小杉礼子研究顧問。キャリア研究の第一人者に氷河期世代の苦境を踏まえた「新卒一括採用」の功罪などを聞きました。

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