東日本大震災8年、鉄道網はどこまで機能回復したか
BRT化の区間も
東日本大震災で甚大な被害を受けた鉄道網は、この8年間で鉄道の復旧や、BRT(バス高速輸送システム)化で機能を回復してきた。震災直後に7線区約400キロメートルあった不通区間も、残りは2線区約76キロメートル。2020年3月にすべて解消される見通しだ。地域外へと路線が延びる鉄道やBRTは、生活の足であるとともに、交流拡大への貢献が期待される。
23日にはJR東日本の山田線・宮古(岩手県宮古市)―釜石(同釜石市)間が、第三セクターの三陸鉄道に移管されて運転を再開する。JR東の深沢祐二社長は「復興に当初から関わっており、非常に感慨深い」と話す。
JR東が原形復旧させて協力金30億円とともに鉄道施設を自治体に無償譲渡。三鉄が施設を無償で借り受けて運行する。当初は「BRTの復旧を念頭に置いていた」(JR東の大口豊執行役員)が、地元が鉄道を活用した復興のまちづくり構想を打ち出したことで、鉄道再開を模索した。
鉄道の維持は地域に多大な負担を強いるため、持続可能な形とすることが課題だった。三鉄は全国の三セク鉄道の中でも収益性が低く経営は非常に厳しいが、山田線で南北に分断されていた既存路線を一体化することで生産性改善を目指す方針だ。JR東も「我々も応援したい」(深沢社長)と運行面ほかで協力を惜しまない。
震災前の10年度に同区間の平均通過人員は1日693人。南北のリアス線は、これよりも少ない。到底、鉄道の採算性は見込めないが、沿線住民らが乗って残す“マイレール運動”を繰り広げており生活の足として期待が大きい。今後、鉄道で復旧した効果を、交流人口の拡大にも最大限発揮したいところだ。
一方で気仙沼線の柳津(宮城県登米市)―気仙沼(同気仙沼市)間と、大船渡線の気仙沼―盛(岩手県大船渡市)間はBRTで復旧した。復興を加速するために早期の交通回復を目指し、軌道敷を舗装してバス専用道とする仮復旧を実施。のちに地元から利便性を評価されて本格復旧(恒久化)へと移行した。
10年度の平均通過人員は気仙沼線区間が839人、大船渡線区間が426人とバスでの代替が妥当な水準だ。JR東は自らが一般乗合旅客運送事業者となって「鉄道に近い形」(大口執行役員)でのBRT実現に努めた。
専用道の延伸による定時性向上やスマートフォンによるバス位置情報の提供、ICカードや観光車両の導入でバスの弱点を補完し、運行頻度も鉄道に比べて大幅に高めた。BRTは今も柔軟に、町の復興に合わせて駅を移転させ、利用状況や列車接続に応じて運行区間を伸ばすなど、利便性を高め続けている。
1年後に開通する常磐線の富岡(福島県富岡町)―浪江(同浪江町)間は、現在も多くの範囲が原発事故による帰還困難区域に指定されている。復旧工事とともに線路周辺の除染を進めており、開通に合わせて線路や駅周辺が、居住可能な特定復興再生拠点区域に指定される見通しだ。
常磐線では避難指示区域の縮小とともに復旧を進め、南北から運転区間を広げてきた。運転を再開した富岡以南の各駅前にはホテルやビルが建ち、活気を取り戻しつつある。
福島県が浜通り地域で推し進める国際研究産業都市「イノベーション・コースト構想」実現にも、交通の充実が不可欠だ。震災前、同地域は仙台方面との往来が盛んだった。1月からは不通区間の通り抜けにカーシェアを乗り捨て利用するサービスの実証も開始。全通で見込まれる流動の回復は、新たな産業集積も後押ししそうだ。
運転を再開する鉄道に並行して、復興・復興支援目的の高規格道路整備も進んでいる。復旧した鉄道を維持していくには、日常の利用とともに、大量輸送や観光客の呼び込みといった鉄道の特性を生かせるかがカギを握る。
(文=小林広幸)
持続可能な形に
23日にはJR東日本の山田線・宮古(岩手県宮古市)―釜石(同釜石市)間が、第三セクターの三陸鉄道に移管されて運転を再開する。JR東の深沢祐二社長は「復興に当初から関わっており、非常に感慨深い」と話す。
JR東が原形復旧させて協力金30億円とともに鉄道施設を自治体に無償譲渡。三鉄が施設を無償で借り受けて運行する。当初は「BRTの復旧を念頭に置いていた」(JR東の大口豊執行役員)が、地元が鉄道を活用した復興のまちづくり構想を打ち出したことで、鉄道再開を模索した。
鉄道の維持は地域に多大な負担を強いるため、持続可能な形とすることが課題だった。三鉄は全国の三セク鉄道の中でも収益性が低く経営は非常に厳しいが、山田線で南北に分断されていた既存路線を一体化することで生産性改善を目指す方針だ。JR東も「我々も応援したい」(深沢社長)と運行面ほかで協力を惜しまない。
震災前の10年度に同区間の平均通過人員は1日693人。南北のリアス線は、これよりも少ない。到底、鉄道の採算性は見込めないが、沿線住民らが乗って残す“マイレール運動”を繰り広げており生活の足として期待が大きい。今後、鉄道で復旧した効果を、交流人口の拡大にも最大限発揮したいところだ。
柔軟に対応
一方で気仙沼線の柳津(宮城県登米市)―気仙沼(同気仙沼市)間と、大船渡線の気仙沼―盛(岩手県大船渡市)間はBRTで復旧した。復興を加速するために早期の交通回復を目指し、軌道敷を舗装してバス専用道とする仮復旧を実施。のちに地元から利便性を評価されて本格復旧(恒久化)へと移行した。
10年度の平均通過人員は気仙沼線区間が839人、大船渡線区間が426人とバスでの代替が妥当な水準だ。JR東は自らが一般乗合旅客運送事業者となって「鉄道に近い形」(大口執行役員)でのBRT実現に努めた。
専用道の延伸による定時性向上やスマートフォンによるバス位置情報の提供、ICカードや観光車両の導入でバスの弱点を補完し、運行頻度も鉄道に比べて大幅に高めた。BRTは今も柔軟に、町の復興に合わせて駅を移転させ、利用状況や列車接続に応じて運行区間を伸ばすなど、利便性を高め続けている。
活気取り戻す
1年後に開通する常磐線の富岡(福島県富岡町)―浪江(同浪江町)間は、現在も多くの範囲が原発事故による帰還困難区域に指定されている。復旧工事とともに線路周辺の除染を進めており、開通に合わせて線路や駅周辺が、居住可能な特定復興再生拠点区域に指定される見通しだ。
常磐線では避難指示区域の縮小とともに復旧を進め、南北から運転区間を広げてきた。運転を再開した富岡以南の各駅前にはホテルやビルが建ち、活気を取り戻しつつある。
福島県が浜通り地域で推し進める国際研究産業都市「イノベーション・コースト構想」実現にも、交通の充実が不可欠だ。震災前、同地域は仙台方面との往来が盛んだった。1月からは不通区間の通り抜けにカーシェアを乗り捨て利用するサービスの実証も開始。全通で見込まれる流動の回復は、新たな産業集積も後押ししそうだ。
運転を再開する鉄道に並行して、復興・復興支援目的の高規格道路整備も進んでいる。復旧した鉄道を維持していくには、日常の利用とともに、大量輸送や観光客の呼び込みといった鉄道の特性を生かせるかがカギを握る。
(文=小林広幸)
日刊工業新聞2019年3月11日