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核心の「燃料デブリ」に迫る、福島第一原発廃炉の今

炉心溶融時の反応、今年上期めど調査
核心の「燃料デブリ」に迫る、福島第一原発廃炉の今

福島第一原発2号機の原子炉格納容器内部の調査(東電HD提供)

 2011年の東日本大震災から8年。東京電力福島第一原子力発電所では燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)の採取が始まる。1号機と2号機は格納容器の中からロボットで堆積物を持ち帰り、実物を分析する。炉心溶融(メルトダウン)が起きた当時、原子炉ではどんな反応が起きていたのか推定する材料になる。

 「19年は“変化”の年になる」と東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は説明する。これまで汚染水管理など事故後の安定化を最優先で対応する必要があった。汚染水関連設備が安定稼働し、現場の環境改善も進み、落ち着いて次の一手を考える余裕が生まれつつある。3号機で発生した品質管理問題など、スピードを優先する中で緩んでしまった箇所がないか検証し修正する。

 そして19年は1号機と2号機で燃料デブリと目される堆積物のサンプリング調査が始まる。デブリの実物が手に入れば情報が飛躍的に増える。社内体制の再点検とデブリ取り出しに向けたサンプル採取。19年は廃炉の現在と未来が大きく変わりうる年になる。

 まずサンプリングに挑むのは1号機だ。1号機は圧力容器を支える円筒形の構造物(ペデスタル)の外に分厚い堆積物が広がっている。圧力容器から核燃料が溶け落ち、ペデスタルの開口部から外へ流れ広がったと考えられる。この堆積物を調べるために6種類7台のボート型調査ロボを19年上期に投入する。

 17年の調査では堆積物は砂や小石のようなもので覆われていた。堆積物の厚さは約90センチメートルで水没している。そこでボート型ロボが水面から外観を撮影したり、超音波で堆積物の厚さや立体分布を計る。中性子束を測定して線量の高い場所を特定。表面の堆積物を採取する予定だ。

 19年下期には2号機に長尺の折り畳み式ロボットアームを投入する。線量分布の測定など、ペデスタル内の詳細地図を作ることを主目的としサンプリングも視野に入れている。

 19年2月の釣りざお型ロボによる接触調査では、小石状の堆積物を摘んで回収できることを確認した。少なくとも堆積物の表面に転がっている物質は回収する見込みがある。

 2号機は圧力容器の真下のペデスタル内部、1号機はそこから広がったペデスタル外の堆積物を採取する。どちらも外観は小石状のものがあり、「サンプリングを狙っていく」(小野代表)。いずれもデブリ全体からみれば極わずかなサンプルだ。ただ二つの成分比較からペデスタルの内と外での違いを推定できるかもしれない。

 成分や組織から熱量や冷却速度を推定できれば、メルトダウンの規模やデブリの量を推し量るための重要なデータになる。震災から8年。ようやく核心の片りんをつかみ取ろうとしている。
日刊工業新聞2019年3月8日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
2019年度はサンプリング調査に期待がかかります。採れた試料を分析して形成過程がわかれば、メルトダウンのシミュレーションのどれが当たっていたのかわかるかもしれません。成分や結晶の大きさ、構造から冷却速度、冷却速度から圧力容器から溶け落ちたデブリの熱量、コンクリート床への侵食具合などを推し量れるはずです。これまでは年に1回程度の調査がやっとでしたが、安定したサンプリングシステムを構築して、分析結果に応じていろんな場所を採取できるようにならないといけません。

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