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原発廃炉の現場で成果を上げる“カイゼン”

多業種連携のモデルに
原発廃炉の現場で成果を上げる“カイゼン”

作業者が身につけて被ばく放射線量を測る電子式線量計も整然と管理されている

 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けてカイゼン活動が成果を挙げている。汚染水を保管するタンクの置換作業では活動開始前に比べて72%、保安資材の管理業務では78%の工数削減と大きく効率化が進んでいる。福島第一原発は原発メーカーやゼネコンなど、多様な事業者が一緒に働く現場だ。東電単独ではカイゼンは実現できず、協力会社と一体となった活動が求められる。多業種が連携しながら現場を創るモデルケースになりえる。

手応え実感


 「協力会社と議論しながら、一緒になってカイゼンを進められている」と東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は手応えを説明する。福島第一原発では267件のカイゼン活動が進む。この内50件が東電と協力会社との連携改善だ。廃炉作業には重工業やゼネコン、その下請け会社など多様な事業者が携わり、福島第一原発では1日4300人が働く。1社で意識や価値観をそろえて推進するカイゼンとは違った難しさがある。これが一つにまとまろうとしている。

 効果が大きいのは汚染水タンクの設置工事や解体工事、廃材減容などの、量の多い仕事だ。フランジタンクから溶接タンクへ置き換える工事では、基礎を流用するなどして工数を約72%削減した。構内で身に着ける靴下や帽子などの保安資材の管理業務では資材を混載して運ぶようにしたり、仕分け作業に治具を利用して効率を高めた。結果、78%の工数削減につながった。

 きめ細かなカイゼンもある。入退管理ゲートの手荷物検査では、外観で確認できる透明なビニール袋と、ひと手間かかるリュックサックなど、手荷物の種類と有無によってレーンを分けた。この条件でレーン数を減らしても入退者が滞留しないか検証している。待ち時間の目標は15秒だ。

 他にも迷子などを防ぐために構内の作業者の位置は記録されている。この記録を担う専用スマートフォンはワイヤレス充電方式が採用された。端末を雑に充電ラックに戻しても給電端子の接触不良が起きない。充電のし損ねを本質的に防げる。

取捨も必要


 一方でカイゼンの価値観が相容れない場面もある。東電はトヨタ式のカイゼンを採用した。トヨタ式は大量生産の効率化から多品種変量の適量生産へ進化したため在庫を悪と考える。ただ電力会社はプラントを安定操業するためには一定の在庫は必要だと考える。

 例えば視察者用装備の準備では毎日その日の視察数に合わせて資材をそろえることが求められた。東電の阿部賢治グループマネージャーは「1週間ごとにまとめて準備してもいいはず。うのみにせずに現場がトヨタ式の優れた点を選びとる必要がある」と指摘する。

 在庫への罰則や対処はアセンブリー系とプラント系で生産管理ソフトの仕様が変わるほど価値観が別れる点だ。議論と実践を通して新しい視点が見つかる。福島第一原発は今後40年近く、流動的な仕事に多彩な業種が連携しながらカイゼンを進めることが宿命付けられている。この知見を体系化すれば日本の現場マネジメントが一歩進む可能性を秘めている。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2019年2月25日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 福島第一でカイゼン活動を始めて、約1年で成果が出ています。小さなものを含めても267件は大きな数字です。タンクの置換工事は1件で複数の改善案件を重ねて7割以上工数を削減しました。トヨタ式をやっていなかっただけで、もともとポテンシャルのある現場だったといえると思います。一方で、転倒・つまずき災害の撲滅を掲げているのに、階段を降りる方向に目をひく啓発ポスターが貼ってあったりと、始めたばかりなんだと思うところもありました。階段に掲げるなら上る方向で見える角度にするなど、注意をひいて、つまずかせない工夫が必要だと思います。このように大規模で流動性の高い現場で異業種連携で改善する例を、初期から成熟まで記録できるケースはそう多くはありません。現場マネジメントの研究者にとっては面白い研究テーマになると思います。作業員の安全管理や労働環境改善を重視しているので、ちゃんと現場からデータをとってくる仕組みがあります。現場の状態とカイゼンの成果の双方を抑えて活動を評価できるので、投資効果を比較するかなり優良な研究材料になるはずです。

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