「出家休暇」がある仏教国タイで、自身も出家した日本人社長の話

 読者の皆さまもご存じの通り、タイは仏教国だ。従って「イスラム教の国やヒンズー教の国と違って日本と同じ考え方で大丈夫」と思いがちであるがそんな事はない。

 実は日本の仏教はインドから中国を経由して伝わった大乗仏教で、タイの仏教はスリランカやカンボジアなどと同じ上座部仏教(小乗仏教)だ。日本ではお葬式やお墓など比較的「死」にまつわる部分で重んじられている仏教であるが、タイでは日常に密接に絡んでいる。例えば、男女のデートはお寺が選択肢に入り、年に一度は会社にお坊さんを呼んでお経を唱えてもらい、社運を高める行事も行う。

 また、オフィスビルでも1階に仏壇があり、通りかかる人は手を合わせる。極めつきとして、成人男性は一生に一度短期の出家をする習慣があり、会社では突然「出家休暇」を申請する社員も日常茶飯事だ。そのような時、経営者として「営業成績が振るわないのに、出家休暇を取るとは何事だ!」などの考えを持ってはいけない。慈悲の心を持ち、全てほほ笑み、受け入れなければ社員はついて来ない。

 慈悲の心が養われていなかった頃の私は、このような事象が発生する度に荒れ狂うアンダマン海のような気持ちになったが、在タイ期間も6年がたち、ついに私自身が出家することになった。

 今夏、タイ人の女性と結婚することになり、結婚前に婚約者の両親に対し「あなたたちの息子ですよ」と仁義を切るためだ。一方で、自社のタイ人の社員に対してもプラス効果があると想定しての判断だ。出家するお寺を探したところ、5月上旬に外国人を短期間で受け入れてくれるお寺が見つかった。出家をするためには正式な儀式があり、パーリー語(インドで釈迦〈しゃか〉が説法に使った言語)で住職と問答をしなければならない。会話の内容はあらかじめ決まっているのだが、何分知らない言語であり、40代半ばの中年の私には暗記に非常に苦労した。努力のかいあって何とか合格し出家をすると、髪と眉をそり、僧房にて寝起きする。なお「午後の食事」や「女性に触れること」「お酒」などは一切ご法度である。私は早朝に起きパーリー語のお経を唱え、私よりはるかに若い小僧と寺の掃除をし、夜は遅くまでお経と瞑想(めいそう)にふける日々を過ごした。お寺の外に出ると日本人の観光客に指さされ「タイのお坊さんは眉毛もないんだね!」などと言われながらも笑顔で過ごした。その結果、見事悟りを開き、無事に還俗(げんぞく)する事ができた。

 丸刈りの私に対するタイ人の社員や知人の反応は思った以上に好感触で大きかった。日本人にとって異文化マネジメントと言うと、相手の文化を理解し上手に調整すれば良いという意識を持っているが、小手先の微調整で済ませず、どっぷりと漬かることのメリットは思っている以上に大きい。経営者であれば、ビジネス面でのメリットも大きく享受できるだろう。

◇JACリクルートメントタイランド法人社長 山下勝弘(やました・かつひろ)氏

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