一般道でも安全な「自動運転」に立ちはだかる大きな壁

連載・自動運転、乗り越えるべき壁(上)

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自動運転の実用に向けて、技術面と運用面の準備が進む(多摩ニュータウンにおける自動運転バスのサービス実証)
 2020年の実用化に向け、自動運転の安全性評価の確立が喫緊の課題になっている。メーカーは起こり得る交通シーンに対して安全性を示す必要があるが、あらゆる条件を再現して確かめることは難しい。そこで日本自動車工業会は自動車専用道における安全検証のシナリオを網羅的に用意し、評価の枠組みを提案する。ただ、この検証法が専用道より多様な一般道で使えるかは未知数だ。社会と協力して現実世界からレアケースを集める必要がある。

日本が共同議長/国際基準の議論リード


 「自動車に完璧な安全は存在しない。だが、死傷者ゼロという安全性の追求を緩めることはありえない」と、官民連携組織の自動運転基準化研究所の河合英直所長は強調する。

 安全をつかさどる官庁にとって人間が運転していようと、自動運転であろうと求める安全水準が変わることはない。国土交通省は自動運転システムが引き起こす人身事故がゼロとなる社会の実現を目標に掲げる。

 世界の監督省庁にとって自動運転の安全性評価は共通の課題だ。「何をもって安全と評価するのか」が未だ確立されておらず、各国でも議論が始まったばかりだ。

 日本は欧州と連携し、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で自動運転関連の専門家会議で共同議長の座を確保した。国交省自動運転戦略室の平沢崇裕室長は、「議長には各国の思惑が集まる。国際基準の議論をリードできる」と説明する。
                 

 開発側の研究も進む。自工会は安全検証シナリオを網羅的に用意し、一つひとつ安全性を検証するアプローチを提案する。自動車専用道の直進部や合流部などの道路構造と、レーン変更の有無、加速や減速、割り込みなどの条件を整理し、30のシナリオ原案をまとめた。

 シナリオごとに車速や路面の摩擦などの変数を設定し、さらに前後左右などの周辺車両との関係を掛け合わせて、網羅的な安全検証体系を作る。この網羅性を確認するため、実際に高速道路をカメラで撮り、例外がないか観測する。車速などの変数の検証範囲は当局と設定する。

 例えば車速は、日本は渋滞時での自動運転使用を想定するため、時速30キロメートル以下。一方のドイツは速度無制限の高速道路(アウトバーン)での利用を想定し、時速60キロメートル以下といった具合だ。国や認証制度の違いを検証プロセスは変えず、検証範囲を調整することで対応できる。

 自工会自動運転検討会の横山利夫主査は、「ドイツなどと連携して提案した。世界的にも我々の提案以外によいアイデアがない状況だ」と自信をみせる。

 検証するプロセスについてはコンセンサスができつつある。次のステップは、「自動運転がどのくらい安全なら社会に受け入れられるか」の議論だ。

 重要なのはどれだけ自動運転で安全性が増しても、事故がゼロになることは決してない点だ。ブレーキをかけてから停車するまでの制動距離は自動運転だろうと大きくは変わらない。人と機械のどちらが運転しても、防げない事故は残る。自動運転への要求水準は物理的な限界と、人間が気付いて回避できる限界との間に設定されることになる。
                 

 横山主査は、「自動運転技術で少しでも人間より改善されればよしとするか、それとも物理限界に限りなく近づけることを求められるのか。物理限界を求められれば、開発ハードルは当然高くなる」と指摘する。

 自動運転基準化研の河合所長は、「安全性の要求基準は社会受容性による。まずは機能を限定して提供しつつ、社会受容性をみながら徐々に拡大していくことになるだろう」と説明する。

まず専用道から/一般道への展開手探り


 課題は技術への過信だ。過信するドライバーであっても事故が起きないように、設計は保守的になる見込みだ。システムとしては自動化レベルにかかわらず、高度なセンシング機能と認識機能、判断機能が求められる。そのため車両の機能はポテンシャルがありコストもかかるが、利用シーンは制限される。

 また自工会の安全検証法を果たして一般道にまで拡大できるかは未知数だ。専用道では車両のみのシーンを検証するが、一般道は歩行者や自転車など、より多様なシーンの検証が不可欠だからだ。

 河合所長は、「専用道は検証シナリオを絞り込むことができた。ただ一般道に展開すると条件が多岐にわたり、カバーしきれないかもしれない」と危惧する。まずは専用道で運用を始め、一般道への拡大は手探りで進める。

 ここで現実世界からレアケースを集める仕組みが注目されている。検証シナリオがあらゆる交通シーンを網羅できているのか、実際に交通環境を観測してシナリオと照合し、希少でも例外があれば追加し、更新する。

 自動運転は専用道での実用化が先行し、一般道はより高機能な自動運転車を人間が運転して走り回ることになる。この車両は高度なセンサーの塊だ。車両から交通環境を観測してケースを収集することが可能だ。データが集まれば検証シナリオは充実する。安全性を担保した範囲でしか利用シーンは広げられないものの、ユーザーとシステムの安全性、利用範囲がともに拡大する仕組みを作れる。

 こうした走行データは人間の運転手の安全性向上にも応用できる。データベースを人工知能技術の開発基盤としてベンチャーに提供したり、自動車保険や物流のリスク推定に利用したりと、幅広く2次利用が可能だ。

 だが横山主査は、「放っておいてデータが集まる世界ではない。採算がとれなければ事業を維持できない」と振り返り、民間主体でデータ基盤を維持するのは負担が重くなることを懸念する。

 一方で監督官庁には民間が提示する安全性を評価するための技術基盤が必要だが、現状では予算や体制が定まっていない。安全性と産業振興が、この評価基盤の上にある。2次利用を含めて自動運転の基盤を支える議論が求められる。

自動運転の実現には基盤を支える議論が必要(イメージ=九州自動車道)

(文=小寺貴之)

日刊工業新聞2019年2月27日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

私は高速道路でも条件が多すぎてシナリオベースでは書き切れないと思っていました。自工会はそれを整理し、調整幅を設けて、網羅的な検証体系を作りました。内閣府のSIPで検証するためのシミュレーターを開発していて、すべてのシナリオ、調節幅で、自動運転システムは事故を起こさないか検証できるようになります。力業で安全重視の評価系を作っています。これはIT系やベンチャーの立場からは保守的に見えると思います。試験走行距離やデータの量を安全を裏付けるものとして説明してきた企業は、安全や責任を先送りしているだけだと思います。日本にもミスをする人間より技術の進化を信じろと言っているベンチャー経営者がいたほどです。自社で評価できしきれない技術を信じるか、信じないかと言っていました。完成車メーカーは保守派、IT系・ベンチャーは革新派とはいえないと思います。一方で、シナリオベースで一般道の交通シーンを書き切れるのかというと難しいと思います。エリアを限定して少しずつシナリオを増やしていくしかないとは思いますが、網羅できる保証がありません。先進車両で現実世界を観測しながらレアケースを集め続けて、自動運転システムがより賢くなり続ける仕組みが必要だと思います。でなければ事故ゼロは、利用制限でしか実現しないと思います。

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