EUは個人情報保護で“GAFA”狙い撃ち、日本はどう向き合うか
政府肝いりで議論が始まった
「21世紀の石油」と言われる個人情報をめぐる規制強化が進む中、米グーグルなどGAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーに対する市場の風当たりが厳しい。欧州連合(EU)による一般データ保護規則(GDPR)は人権保護の考え方に基づくが、事実上、GAFAを狙い撃ちする。日本でも政府肝いりで「デジタル・プラットフォーマー」をめぐる規制についての議論が始まった。巨大プラットフォーマーに日本はどう向き合えばよいのか。
GAFAはグーグルのほか、アップル、フェイスブック、アマゾンの米大手IT企業4社の頭文字から作られた造語だ。
GAFAに代表される巨大プラットフォーマーは、個人データの収集と引き換えに高品質なサービスを無料で提供するビジネスモデルで成功を収め、その先の人工知能(AI)活用でも先陣を走る。デジタル化で出遅れた既存産業を丸ごと飲み込みかねない勢いだ。
これに対して、EUはプラットフォーマーに対する監視強化の姿勢を強める。5月施行のGDPRではEU市民の個人データを勝手にEU域外に持ち出せないようにするなどの厳しいルールと巨額な課徴金を導入した。
その対応もままならないうちに、EUは新たな規制案を公表し、早ければ2019年に承認予定という。対象は従業員50人以上、売上高1000万ユーロ(約13億円)超のプラットフォーマー。具体的にはネット検索ランキングの透明化や苦情処理・団体訴訟制度の導入などだ。プラットフォームの利用者がEU域内にいれば本社の所在地を問わずに適用する意向だ。
プライバシー保護規制の強化は世界各国も相次ぐ。直近ではブラジルでもGDPRが承認され、20年ごろに施行される。インドでは個人データ保護法案がまとまり、19年中に成立する見通しだ。
GAFAをめぐる是非論は尽きない。例えば米フェイスブック。同社が管理するユーザーデータ約5000万人分がデータ分析会社の英ケンブリッジ・アナリティカを通じて政治的に利用され、社会問題となったのは記憶に新しい。この件では、個人が同意する権利のない友人のデータまでも利用されていた実態も浮き彫りになった。
ただ、実態としては「グーグルなどは利用者が個人情報の扱いを制御できるような仕組みを提供している。何をどう使っているか分からないサービスはGAFA以外にたくさんある」(業界関係者)といった指摘も少なくない。“GAFAたたき”に興じていては本質を見えなくする。
プラットフォーマーが台頭する背景について、野村総合研究所の此本臣吾社長は、「人やモノが生み出す“活動情報”が新たな価値を創造する『デジタル資本主義』への構造変化が始まっている」と説明する。
カギとなるのは労働生産性から知的生産性へのシフトだ。米ウーバ―に代表される「ライドシェア」は、利用者の位置情報と移動ニーズを自動車の位置情報とリアルタイムにマッチングすることで対価を得る。収益の源泉はデータのマッチングに他ならない。
「データに基づいて『知識生産性』を高め、新しい経済のパイを作り出さないと、日本のように人口が減っていく国ではじり貧になる」(此本社長)。
何もしないと、プラットフォーマーの独り勝ちとなり、経済格差も広がる。GDPRなどの規制の議論の背景には産業のパラダイムシフトがある。日本もいち早く産業構造を転換し、新しい経済のパイを広げることが急がれる。
日本政府は18日に、巨大プラットフォーマー規制強化に向けた基本原則を発表。グーグル、アマゾンといったIT大手を念頭に、専門の監督組織を設ける構えだ。基本原則に基づき、19年から制度化に着手する。ただ、過度な規制は生活の利便性向上やイノベーションを阻む恐れもあり、賛否両論がある。制度設計は難航が必至だ。
「強制的な課金など、事業者に対する優越的地位の乱用を止めてほしい」「プラットフォーマーのイノベーションを阻害することのないよう、適切で明確な定義を行うことが必要」―。政府が11月5日から1カ月かけて実施した規制に関するパブリックコメント(意見公募)には、多様な意見が寄せられた。
中でも目立つのが、プラットフォーマーと取引する事業者の不満だ。「プラットフォーマーの裁量によって(サイトへの)出品などが制限される可能性があることを(規約に)明記しているが、規約の自由裁量にも限度が必要ではないか」と、ある法人は訴える。
こうした摩擦が生じるのはプラットフォーマー、特に海外大手の力があまりに強大だからだ。GAFA4社の時価総額は2兆5000億ドルを超え、世界5位の経済大国である英国の国内総生産(GDP)に匹敵。各社は競合企業のM&A(合併・買収)などにより巨大化し、急速に支配力を高めた。
既に規制強化ではEUが先行し、着々と“プラットフォーマー包囲網”を構築しつつある。他方、プラットフォーマーの事業が生活やビジネスと密接に結びつき、利便性向上などに寄与していることも無視できない。
「事実上、外国事業者のみを狙い撃ちするような規制は設けるべきではない」「これから起きようとするイノベーションを挫(くじ)き、国内企業の成長を阻害する深刻なおそれがある」(パブリックコメントより)といった規制への慎重論も存在する。
規制が実行されれば多くの国民や企業が影響を受けるのは間違いない。政府には、丁寧な議論と分かりやすい説明が求められる。
(文=斎藤実、藤崎竜介)
EUの保護規制―GAFA狙い撃ち
GAFAはグーグルのほか、アップル、フェイスブック、アマゾンの米大手IT企業4社の頭文字から作られた造語だ。
GAFAに代表される巨大プラットフォーマーは、個人データの収集と引き換えに高品質なサービスを無料で提供するビジネスモデルで成功を収め、その先の人工知能(AI)活用でも先陣を走る。デジタル化で出遅れた既存産業を丸ごと飲み込みかねない勢いだ。
これに対して、EUはプラットフォーマーに対する監視強化の姿勢を強める。5月施行のGDPRではEU市民の個人データを勝手にEU域外に持ち出せないようにするなどの厳しいルールと巨額な課徴金を導入した。
その対応もままならないうちに、EUは新たな規制案を公表し、早ければ2019年に承認予定という。対象は従業員50人以上、売上高1000万ユーロ(約13億円)超のプラットフォーマー。具体的にはネット検索ランキングの透明化や苦情処理・団体訴訟制度の導入などだ。プラットフォームの利用者がEU域内にいれば本社の所在地を問わずに適用する意向だ。
プライバシー保護規制の強化は世界各国も相次ぐ。直近ではブラジルでもGDPRが承認され、20年ごろに施行される。インドでは個人データ保護法案がまとまり、19年中に成立する見通しだ。
GAFAをめぐる是非論は尽きない。例えば米フェイスブック。同社が管理するユーザーデータ約5000万人分がデータ分析会社の英ケンブリッジ・アナリティカを通じて政治的に利用され、社会問題となったのは記憶に新しい。この件では、個人が同意する権利のない友人のデータまでも利用されていた実態も浮き彫りになった。
ただ、実態としては「グーグルなどは利用者が個人情報の扱いを制御できるような仕組みを提供している。何をどう使っているか分からないサービスはGAFA以外にたくさんある」(業界関係者)といった指摘も少なくない。“GAFAたたき”に興じていては本質を見えなくする。
デジタル資本主義―知的生産性カギ
プラットフォーマーが台頭する背景について、野村総合研究所の此本臣吾社長は、「人やモノが生み出す“活動情報”が新たな価値を創造する『デジタル資本主義』への構造変化が始まっている」と説明する。
カギとなるのは労働生産性から知的生産性へのシフトだ。米ウーバ―に代表される「ライドシェア」は、利用者の位置情報と移動ニーズを自動車の位置情報とリアルタイムにマッチングすることで対価を得る。収益の源泉はデータのマッチングに他ならない。
「データに基づいて『知識生産性』を高め、新しい経済のパイを作り出さないと、日本のように人口が減っていく国ではじり貧になる」(此本社長)。
何もしないと、プラットフォーマーの独り勝ちとなり、経済格差も広がる。GDPRなどの規制の議論の背景には産業のパラダイムシフトがある。日本もいち早く産業構造を転換し、新しい経済のパイを広げることが急がれる。
日本どう動く―制度設計は難航必至
日本政府は18日に、巨大プラットフォーマー規制強化に向けた基本原則を発表。グーグル、アマゾンといったIT大手を念頭に、専門の監督組織を設ける構えだ。基本原則に基づき、19年から制度化に着手する。ただ、過度な規制は生活の利便性向上やイノベーションを阻む恐れもあり、賛否両論がある。制度設計は難航が必至だ。
「強制的な課金など、事業者に対する優越的地位の乱用を止めてほしい」「プラットフォーマーのイノベーションを阻害することのないよう、適切で明確な定義を行うことが必要」―。政府が11月5日から1カ月かけて実施した規制に関するパブリックコメント(意見公募)には、多様な意見が寄せられた。
中でも目立つのが、プラットフォーマーと取引する事業者の不満だ。「プラットフォーマーの裁量によって(サイトへの)出品などが制限される可能性があることを(規約に)明記しているが、規約の自由裁量にも限度が必要ではないか」と、ある法人は訴える。
こうした摩擦が生じるのはプラットフォーマー、特に海外大手の力があまりに強大だからだ。GAFA4社の時価総額は2兆5000億ドルを超え、世界5位の経済大国である英国の国内総生産(GDP)に匹敵。各社は競合企業のM&A(合併・買収)などにより巨大化し、急速に支配力を高めた。
既に規制強化ではEUが先行し、着々と“プラットフォーマー包囲網”を構築しつつある。他方、プラットフォーマーの事業が生活やビジネスと密接に結びつき、利便性向上などに寄与していることも無視できない。
「事実上、外国事業者のみを狙い撃ちするような規制は設けるべきではない」「これから起きようとするイノベーションを挫(くじ)き、国内企業の成長を阻害する深刻なおそれがある」(パブリックコメントより)といった規制への慎重論も存在する。
規制が実行されれば多くの国民や企業が影響を受けるのは間違いない。政府には、丁寧な議論と分かりやすい説明が求められる。
(文=斎藤実、藤崎竜介)
日刊工業新聞2018年12月20日