「選挙産業がデータ科学者の優良就職先になった」
米中間選挙でAI解析が存在感
近年、世界を動かしている技術として、人工知能(AI)を含めたプロファイリングと広告配信技術が挙げられる。11月の米中間選挙では不法移民などの情動に訴える広告が配信され、トランプ大統領が「今夜は極めて大きな成功」とツイートする結果になった。これらの技術や選挙手法の確立はオバマ大統領が再選した2012年選挙にさかのぼる。
米国は選挙人登録時の支持政党や投票履歴、職業、年収、住所などの個人に関わる情報が流通している。この名簿をもとに各政党のボランティアが戸別訪問して説得する。なかなか投票には行かないが自党を支持する、潜在的な支持者を掘り起こしている。
上智大学の前嶋和弘教授は「12年の選挙で民主党が会員制交流サイト(SNS)に大きく投資し、選挙産業の手法の一つとして確立した」と説明する。名簿に加えてツイートの転載履歴などから個人の志向を取り入れた。AI技術の一つである自然言語処理や応用数学が大量のデータ解析を支えた。健康保険や移民、銃規制など個別政策の賛否を含め、精密に情報を配信する基盤ができ、日々精度は向上している。前嶋教授は「選挙産業がデータ科学者の優良就職先になった」という。
同時に「共和党も民主党もお互いの支持者の意見を覆すことは考えていない」と指摘する。SNSでは、個人が自らの意見を補強するように情報を選び、反対意見を排除するように動くためだ。議論は深まらず、不真面目な自党支持者を投票所に連れて行き、相手の支持者の投票意欲をそぐ勝負になっている。
日本では香港城市大学の小林哲郎准教授らがツイッターのデータをAIに学習させ、右寄りや左寄りを表す党派性を4割の精度で推定し、社会の分断化を観測している。小林准教授は「選挙では精度が上がらない中道の人の取り込みが重要になる」と説明する。現状でSNSがどの程度選挙を左右するか計りきれない。だが成功モデルと産業はできた。そして世界に拡散している。
(文=小寺貴之)
米国は選挙人登録時の支持政党や投票履歴、職業、年収、住所などの個人に関わる情報が流通している。この名簿をもとに各政党のボランティアが戸別訪問して説得する。なかなか投票には行かないが自党を支持する、潜在的な支持者を掘り起こしている。
上智大学の前嶋和弘教授は「12年の選挙で民主党が会員制交流サイト(SNS)に大きく投資し、選挙産業の手法の一つとして確立した」と説明する。名簿に加えてツイートの転載履歴などから個人の志向を取り入れた。AI技術の一つである自然言語処理や応用数学が大量のデータ解析を支えた。健康保険や移民、銃規制など個別政策の賛否を含め、精密に情報を配信する基盤ができ、日々精度は向上している。前嶋教授は「選挙産業がデータ科学者の優良就職先になった」という。
同時に「共和党も民主党もお互いの支持者の意見を覆すことは考えていない」と指摘する。SNSでは、個人が自らの意見を補強するように情報を選び、反対意見を排除するように動くためだ。議論は深まらず、不真面目な自党支持者を投票所に連れて行き、相手の支持者の投票意欲をそぐ勝負になっている。
日本では香港城市大学の小林哲郎准教授らがツイッターのデータをAIに学習させ、右寄りや左寄りを表す党派性を4割の精度で推定し、社会の分断化を観測している。小林准教授は「選挙では精度が上がらない中道の人の取り込みが重要になる」と説明する。現状でSNSがどの程度選挙を左右するか計りきれない。だが成功モデルと産業はできた。そして世界に拡散している。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞社2018年12月14日