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米中貿易戦争の読み違え、「工場呼び戻し」の本丸は自動車

コンティンジェンシー体制の準備を
米中貿易戦争の読み違え、「工場呼び戻し」の本丸は自動車

トランプ公式フェイスブックページ/首相官邸公式ページより

 「トランプ大統領は米中貿易戦争について、大きな読み違いをしている…」。筆者はかねてからそう疑っていた。「輸出入額に大きな差があるので、制裁規模を引き上げていけば、中国は直ぐ降参する」式の声が政権内で聞かれたからだ。2000億ドルの追加制裁を実行すれば、米国企業にも大きな被害が及ぶが、「短期で片付けるから大丈夫」―。トランプ政権はそう考えているのではないか。

 今月初めワシントンDCに行く機会があったので、米国側識者に「中国は降参しない」と伝えた。中国にとって、これは経済的な損得では済まない問題だ。

 古くは北方の遊牧民族による征服・支配、近くは西欧列強や日本の侵略を受けてきた中国には「外敵の圧力に屈し要求をのむ」ことに強い忌避感がある。

 「徹底抗戦が正しい道であり、妥協を唱える輩は売国奴だ」。これが中国の「ポリティカル・コレクトネス」だ。習近平も米国の圧力におめおめ屈したと見られれば、政治的な自殺行為になる。しかし、ワシントンで識者と意見交換して、読み違いに慌てたのは筆者の側だった。

 「中国は降参しないらしいが、それならそれで構わない」「米中間で伸びすぎたサプライチェーンを制裁措置で断ち切って、製造業を米国に呼び戻す」―。トランプ政権の強硬派(ナバロ、ライトハイザー氏ら)は本気でそう考えているというのだ。

 暗然たる気持ちになった。正気ではない。グローバリゼーション時代のビジネスに対する理解も欠落している。衣服雑貨でも海外から調達するには、環境保護・労働人権面の厳重なチェックが欠かせないご時世だ。

 まして発注は大量。ウォルマートなどは調達ルートを簡単に変えられないだろう。その結果、かなりの小売品が1割近く値上がりすれば、米国経済・社会は大騒ぎになるのではないか。

 重ねてそう問うた筆者に対して、識者たちはさらに「トランプが『ジョブを米国に取り返すための陣痛だ。皆さんもしばらく耐えてほしい』と言えば、支持者たちは納得するだろう」と、暗い顔で話した。

 この調子では、米中両国は全面貿易戦争に突入する。中国の対米輸出の半分以上に制裁が科されれば、部品・素材を中国に供給する北東アジア全域が間接制裁下に置かれるのに等しい。「中国だけではない、連中の『工場呼び戻し』の本丸は自動車だぞ」という忠告も受けた。関係の深い企業の皆さんもコンティンジェンシー体制の準備をされるようお勧めする。
(文=津上俊哉)
【略歴】つがみ・としや 80年(昭55)東大法卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。96年在中国日本大使館経済部参事官、00年通商政策局北東アジア課長、02年経済産業研究所上席研究員、04年東亜キャピタル社長、12年津上工作室代表、18年日本国際問題研究所客員研究員。愛媛県出身、61歳。
日刊工業新聞2018年9月24日

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