東京五輪、問われる感染症対策

髄膜炎菌など、重篤な症状をもたらす感染症が懸念されているが・・・

 2020年夏の東京五輪・パラリンピック開催が迫るにつれ、感染症対策に詳しい専門家が危機感を募らせている。訪日外国人の大幅な増加に伴い、重篤な感染症の広がりが懸念されるためだ。地方都市で外国選手団がキャンプを行うような事例も勘案すると、対策は都心のみならず全国で進める必要がある。多様な関係者が連携し、円滑に情報を共有する仕組みづくりが問われる。

普段来ない人達


 「(平時は)訪日外国人は、日本に対して興味のある人や、それなりに個人所得のある人が来る。これが五輪となると、日ごろは日本へ旅行に来ない国からもいらっしゃる。東京だけでなく、地方都市でも(外国選手による大会前の)準備の練習があるため、普段は来ない人が入ってくる」。国立保健医療科学院健康危機管理研究部の金谷泰宏部長は、五輪開催に伴う感染症対策の難しさの背景をこう分析する。

 厚生労働省も同様の問題意識を持っている。同省の科学研究班は2017年10月、東京五輪で訪日客からの持ち込み増加の可能性が高い感染症やその対応方法を整理。地域ごとに感染症のリスクが異なる点も踏まえ、各自治体が行うべきリスク評価の手法・手順について取りまとめた。

診断難しく


 この研究では「大規模事例の懸念、かつ高い重症度等を考慮すると、まず、麻しん、侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)、中東呼吸器症候群(MERS)、腸管出血性大腸菌感染症は注意すべき感染症といえる」とされた。これらのうちIMDについて、岡田賢司福岡看護大学教授は「髄膜炎菌は耳慣れない菌だが、(感染後の症状が)ひどい場合には亡くなる」と警鐘を鳴らす。

 IMDの発症初期は風邪に似た症状のため、診断が難しく、早期に適切な治療を受けにくいとされる。日本の最近のデータによると、発症後に死亡する割合は19%。海外でも「大学寮や難民キャンプ、ラグビー大会や軍の兵舎など」(岡田教授)で発生・死亡例があり、集団生活が行われる場所ではリスクが高いと言えそうだ。

 IMD予防のためのワクチンはあるものの日本では費用が自己負担となる任意接種の扱いであり、広く国民が接種するのは現実的でないかもしれない。ただ岡田教授は、18年の韓国・平昌冬季五輪ではボランティアを含む8万人に髄膜炎ワクチン接種がされたと指摘。「日本でも五輪・パラリンピック関係者への対策をとらないといけない」と訴える。

動向調査を強化


 厚労省は11月29日に開いた厚生科学審議会感染症部会で、東京五輪を見据えた感染症の発生動向調査(サーベイランス)機能の強化について議論。自治体間で即時に感染症の発生情報を共有する仕組みの整備などが了承された。情報共有の対象としては麻しん、IMD、MERS、腸管出血性大腸菌感染症以外に、風しんも挙がった。女性が妊娠初期に風しんにかかると、出生児に先天性風しん症候群と呼ばれる障害が起こりうる。

 一方、6月の同部会では、各自治体から受けたリスク評価の報告内容が過小または過大になっている例が指摘された。厚労省はこのとき各自治体のリスク評価の改善に向けた検討を行う方針を示し、現在も「(検討が)進行中」(健康局結核感染症課)。こうした対策の実効性をどれだけ早く向上できるか、多様な関係者の努力が問われ続ける。
(文=斎藤弘和)

日刊工業新聞2018年12月6日

  

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