国際ロボット競技会“WRS”、小国デンマークの大学はなぜ優勝できたのか?

チーム率いたクリスチャン・シュレット教授に聞く

 ワールド・ロボット・サミット(WRS)ものづくり部門では小国デンマークの南デンマーク大学(SDU)チームが優勝した。日本はもちろん米国やドイツのライバルを抑えて勝ち上がった。SDUはロボットや製造技術に力を入れ、競技でもさまざまな工夫をこらした。チームを率いたクリスチャン・シュレット教授にSDUの戦略を聞いた。
 ―WRSの戦略は。
 「三つの技術でWRSに臨んだ。一つは3Dプリンターだ。競技会場でロボットの爪や治具を製作して、部品などが変わっても柔軟に対応できるようにした。二つ目がフォースコントロール(力覚制御)だ。これまでロボットは位置ベースで制御されてきた。アームの先をどの位置に動かすか決めると、そこから関節の角度や軌道を決めてアームを動かしている。これを力覚ベースに代えた。ネジをすくい上げる、ベアリングを軸にはめ込むといった作業は位置ベースでは難しい。力センサーで力加減を調整して作業にあたった」

 「三つ目が力センサーやビジョン、ロボットなどを一つのインターフェースで一元管理した点だ。たくさんのセンサーから上がってくるデータを集約して、そこから制御する。従来は個々にシステムを作ってたため、たくさんのサブシステムが走っていた。改良する際にはそれぞれを修正していく必要があった。一元管理でき開発期間がグッと短くなった」

 ―インダストリー4・0ラボのコンセプトですか。
 「WRSに向けて開発した技術もあるが、ラボで開発してきたコンセプトになる。ラボではロボットのワークセルを開発していて、汎用的なロボットで多彩な製品を作りわける。将来はロボットセルでドローン(飛行ロボ)を組み立てる計画だ。そのためにセルのデジタルツイン(双子のようにデジタルに再現されたシミュレーションモデル)を開発している。新しいプログラムはこれで検証してから実機に載せる。実機とデジタルツインを連携させる。インターフェースを一元化した効果が得られている」

 ―WRSでは参考になったチームはありましたか。
 「FA・COM(オフィスエフエイコム・栃木県小山市)は素晴らしいロボットセルを作っていた。競技で出題されたベルトドライブユニットを完成させた唯一のチームだ。ただベルトドライブユニットの組み立てに特化した生産システムともいえる。我々はより柔軟性を追究したい。二つ目はJAKS(金沢大学と信州大学の合同チーム)で、彼らの回転ハンドは面白い。小さなツールでスクリュードライバーを使いこなしていた。我々はもっと大がかりになってしまった」

 「三つ目はロボティックマテリアルズ(米国コロラド州)で、グリッパーにカメラやGPUを内蔵している。グリッパーでつかんだモノや状況を確認できる。最後は3upテクノロジー(日本)で有志のメンバーがガレージでロボットを組み上げ、WRSの難題に挑戦した。このスピリッツには感銘を受けた。WRSでさまざまな情報交換ができた。収穫は多い」

 ―デンマークは小国です。SDUの躍進の背景は。
 「SDUは学生数が3万2000人の総合大学。地理的にはユニバーサルロボット(UR)やモバイル・インダストリアル・ロボッツ(MIR)の本社や研究開発部門が近くに立地していて交流が深い。欧州ではロボット技術の一つの中核機関になっている。EUの研究開発プロジェクト『ホライズン2020』の実施機関にもなっている。私もこうした背景があってドイツからSDUに移って来た。デンマークに来てカルチャーショックを受けたことがある。コミュニティーが非常にオープンでフラットな組織になっている」

 「日本とドイツは似ていてヒエラルキー(階層)がしっかりしている。例えば共同研究を始めようというときに、現場は技術の重要性や難しさを理解していても、『ボスに聞いていみる』、その上でも『ボスに聞いていみる』と話しが前に進まないことがある。デンマークはフラットでやりやすい。ボスとオープンに話して素早く意思決定できる。企業との産学連携も同様だ。国としてベンチャー企業のような文化をもっている。ドイツに比べて経済格差は小さく、均質な社会が背景にあるのだろう。悪い面を挙げるとすると、学生と教授もフラットで気軽に相談をけるため、私自身の研究の時間は減っていることだろうか」

 ―2020年大会に向けて期待や要望は。
 「18年大会は部門全体として課題の達成率は約30%だった。2年間で技術開発を進め、20年大会には70―80%にはもっていきたい。課題や形式の多少の変更はあるだろうが、現段階で非常にいい技術課題が設定されている。2年での進歩を見てもらいたい」

 ―WRSの企画時点では食品工場での柔軟物や不定形物のハンドリング、工場内搬送も挙がっていました。
 「我々も研究を進めている。食品加工のニーズは強く、ロボットは数をこなさなければならない。精密組み立てとは別の技術が必要になる。競技大会として運営するなら柔軟物は衣類が向くだろう。また人とロボットが共に働く共働ロボも重要なテーマになるだろう。工場で人の仕事をロボットに置き換えるのでなく、人を支援し、人の能力を増幅するようにロボットを活用する。雇用は世界的にも重要なテーマだ」

 ―技術面ではどんなブレークスルーが必要ですか。
 「デジタルツインのシミュレーションをフォースベース(力覚制御)でコントロールする必要がある。シミュレーションはモーション(動作計画)からオペレーション(検証や実機制御)に活用範囲が広がっている。実機は位置ベースから力覚ベースに移行中だ。シミュレーションも力覚制御に対応させたい」

 ―摩擦などを精密に計算し始めると、ものすごく難しい問題になります。ただロボットが扱うワーク側は摩擦の影響が大きいです。
 「その通りだ。だからこそアカデミアが挑戦しないといけないテーマだ。だが精緻なデジタルツインや検証環境ができれば、みなでコピーして並行して開発ができる。実機は1台しかなくてもいい。デジタルツインの中で新しいコンポーネントを動かしてから実機に反映できる」

 ―大会ではビジョンの計測や処理に時間がかかっていました。力覚でもっと素早く作業するためにも、爪の先で精緻に力を測る必要がありませんか。
 「力覚は対象に近いところで測った方がいい。我々も研究しているが、まだ製造業の求める信頼性や耐久性をクリアする力覚センサーがない。我々は大会ではグリッパーのグリップ力と手首の力覚センサーでコントロールしていた。これで十分な精度は得られた」

 「ただWRSで米ロボティックマテリアルズのハンドに着目した理由が、指摘されたタクトタイムの問題だ。彼らのハンド内蔵カメラで、把持状況を高速に識別できればソリューションの一つになるだろう。彼らとは連携について話し始めている。実は日本のチームとも互いの技術を組み合わせてみようと共同研究を企画しているところだ。我々が競技会に出場するのは初めてだったが、素晴らしいネットワークを築けた。これは順位や賞金では表せない財産になる。WRSのコミュニティーから次の技術を生みだしていけるだろう」
(聞き手・小寺貴之)

日刊工業新聞2018年12月5日号の記事に加筆

小寺 貴之

小寺 貴之
12月05日
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SDUはユニバーサルロボットを輩出した大学だ。ロボットや生産技術分野の人材を世界から集めていて、シュレット教授もその一人だ。デンマークの国自体は小さいため欧州での連携を前提としている。産学連携も機動的だ。日本の研究者が欧州のロボット業界とネットワークを築くには、いいパートナーになるだろう。

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