世界から集った“ロボット人材”、進化の予感抱き2020年大会へ

 日本を世界のロボット技術が集まる最先端の拠点にすべく、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が仕掛けた競技・展示会「ワールド・ロボット・サミット(WRS)」(10月17日ー21日)。

 展示ブースには91社・団体の特色あるロボットが並んだ。生産現場の人手不足を背景に、安全柵不要で人と一緒に働ける協働ロボットや、操作体験を通じて製品を身近に感じてもらう展示に注目が集まった。

 ファナックは、可搬重量を従来製品の2倍にあたる14キログラムに高めた小型ロボットを初披露。部品の取り出し、搬送、組み立てを3台の多関節ロボットと人が連携して行う様子を実演した。人とロボットアームを組み立てる工程には、表面をウレタン製カバーでおおって安全面に配慮したロボットを配置した。

 三菱電機は、受注状況に応じて生産を最適化するIoT(モノのインターネット)システムを提案。「好みの多様化により、多品種生産を自動化する仕組みが求められている」と荒井高志ロボット製造部ロボットテクニカルセンター長は説明する。需要が高まっているAGV(無人搬送車)に搭載したロボットも展示した。

 ロボットとのふれあいを重視した展示も目立った。トヨタ自動車はロボットとスポーツの融合がテーマ。家庭用の生活支援ロボット「HSR」は、手足の不自由な人の代わりに物を拾ったり、棚に入った物を取ってきてくれたりする。来場者はHSRを操縦し、パラリンピック種目の「ボッチャ」体験を楽しめる。

 人と機械の融和を掲げるオムロンは、卓球ロボットと自動搬送ロボットを展示。卓球は相手の動きや球筋から技術レベルを予測し、それに応じた球を返せる。自動搬送は、障害物を回避しながら決められた場所に荷物を届ける様子を実演。越智直哉ロボット推進プロジェクト経営基幹職は「ロボットの働きを見てもらい、お客さまの(働き方に対する)意識を変えるきっかけになれば」と話した。

競技大会で見えてきた「未来」への課題


 23カ国・126チームによる5日間の激闘が繰り広げられた競技会。いくつかのチームは難解な競技課題をクリアするため、高度な技術や斬新(ざんしん)なアイデアを披露。ものづくり、サービス、インフラ・災害など各分野でロボットのさらなる進化を予感させる大会となった。

【ものづくり】「培った現場力」結実


 ものづくり部門は精密組立がテーマ。小さなネジやワッシャー、ベアリングなどを組み立て、ベルト駆動ユニットを作製する。優勝した南デンマーク大学の「SDUロボティクス」は3Dプリンター製の治具と力覚制御を利用し、作業の精度と生産の柔軟性を両立させた。3Dプリンターを会場に持ち込み、その場で治具を製作。急きょ渡される部品にも対応できる。ただ3Dプリンターは寸法精度に限界がある。これを力覚制御で補い、基本課題を達成して高得点をたたき出した。

2位に輝いた金沢大学と信州大学の「JAKS」は、高分解能触覚ハンドを開発して参戦。ハンドに小さな部品がいくつ挟まれたかを数えられる。これで堅く得点を重ねた。

 3位に入ったオフィスエフエイ・コム(栃木県小山市)の「FA・COMロボティクス」は唯一ベルト駆動ユニットを完成させた。システムインテグレーターの底力を見せつけた。青木伸輔ゼネラルマネージャーは「仕上げられたのは、ビジネスで何度も修羅場を経験してきた現場力があったから」という。

 精密組み立てをロボット化するにはまだまだ熟練者による精緻なチューニングが要る。大学勢は新技術でシステム構築のハードルを下げ熟練者を超えていくことが求められる。
精密組み立て競技ではキラリと光るコンセプトを持つチームが上位を占めた

【サービス】研究室と違う予想外の展開


 サービス部門はロボットに部屋の品物を片付けさせたり、飲料などを持ってこさせる「パートナーロボットチャレンジ」と、疑似コンビニエンスストア店舗で商品陳列や廃棄、トイレ清掃、接客などを行う「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」が行われ、各チームが完成度を競った。

 パートナーロボチャレンジではドアをロボがつかんで開ける動作や、床に置いてある複数の玩具を一つずつ見分けて棚の所定位置に入れる動作で点数に差がついた。

 九州工業大学の田向権准教授は「視覚と聴覚の部分を、しっかり作ることが重要。どこからどこまでの作業をロボにやらせるのか、最初に設計することも重要だ」と指摘する。

 コンビニでは商品陳列作業は総じてうまくできたものの、向きや角度を正確にそろえられるかでは明暗が分かれた。筑波大学の中内靖教授は「ロボットに百点満点を求める必要はない」と話す。

 実際のコンビニでは最低限の人が見守る。ロボに陳列の大半を行わせて店員は最終チェックだけにするとか、接客やトイレ掃除の仕上げなどは人間がやると分担するだけでも現場負担は相当違ってくると指摘する。ロボが動きやすいように商品棚の形や寸法、商品マーカーをつける工夫もポイントになるという。

 奈良先端科学技術大学院大学のガルシア・グスタボ助教は「研究室と違い、現場で使おうとすると予想外のことが起こる。しかし、これらは一つひとつ改善できることで、確実に次へつながる」と先を見据える。
ロボットがおにぎりを正確に置けるか心配そうに見つめる参加者

【インフラ・災害】操縦者の技量など課題も


 インフラ・災害対応部門はマニピュレーション(作業)のポテンシャルの高さが示された。プラント災害予防と標準性能評価(STM)チャレンジで、固いバルブを回す作業が達成されたためだ。

 これまで屋外で働くロボットは何よりも移動性能が優先されてきた。そのためアーム操作には限界があり、バルブを回すような作業よりも簡単な被災現場の撮影などが仕事の中心だった。

 今回、バルブを回す、パイプを引き抜くといった基本的な作業が達成され、より複雑な作業が狙える可能性が出てきた。従来の移動性能や運用性を損なわず、作業性能を高める技術開発は今後のトレンドになる。

 同時にその難しさも鮮明になった。トンネル事故災害対応・復旧チャレンジでは道具を使って事故車両の中から人を助ける課題が与えられた。2台の双腕ロボットが連携して達成したが、これには操縦者に相当な練習量が求められた。

 今回はシミュレーションとして競技が運営されたが、これを一度きりの災害現場で誰でも安定的に、高度な連携作業を実現する技術が必要になってくる。ロボットとしてはよりスリムで長いアームを展開でき、力強い作業を器用にこなす機体が必要なことも分かった。

 競技委員長を務める田所諭東北大学教授は「撮影に比べ手作業ははるかに難しい。既存の延長にない発想が求められる」と指摘する。大きな収穫と同時に難しい宿題が得られた。
遠隔操作でバルブを閉める課題に挑戦する

【ジュニア】自ら課題設定、創意工夫


 次世代の技術者育成が目的の「ジュニア部門」。19歳以下の若い出場者らはロボットのいる暮らしを想像し、身の回りで役立つロボットの開発に取り組んだ。一般的な“ロボコン”と違うのは、身につけた技術をどう社会に還元するかを子どもたち一人ひとりに考えさせた点だ。

 「スクールロボットチャレンジ」ではソフトバンクのヒト型ロボ「ペッパー」を、「ホームロボットチャレンジ」では自作の機体を使い、学校や家庭でよりよく暮らすためのロボットを考えた。技術レベルを問う他競技に比べ、自ら課題を設定し、開発、発表する能力に重きを置いた。

 課題も顕在化した。江口愛美ジュニア競技委員長は「一日一日成長が感じられ、達成感がある」としつつ、「ペッパーがあまり動き回らず、一方的な会話に終始するものが多い」と指摘。先生や友達など他人を助けるアイデアが多く発表されたが、発想の重複も目立った。「次回大会はもっと独創的なものが増えてほしい」と江口委員長は期待する。

 「視点を変えて何度もチャレンジして、壁を越えられたときが楽しい」―。「SMILE」のチーム名で出場した妹藤明音(せとう・あかね)さんは、目を輝かせる。大会をきっかけに深まったロボットへの興味関心を、2020年の本大会につなげたい。

日刊工業新聞2018年10月18日/22日

  

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