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電力先物上場めど立たない…東商取に問われる改善策

上期決算が試金石に
 東京商品取引所が年内を目標にしていた電力先物の上場が先送りになっている。当初は10月の上場を目指していたが、出来高低迷で赤字が続く東商取の資本力などについて大手電力会社の理解を得られず、上場のめどが立たない状況が続く。一方、日本取引所グループ(JPX)との間では証券や商品先物を一体的に扱う「総合取引所」の創設に向けた協議が始まった。経営安定化に向けた具体的成果を早期に示せなければ、両方の検討が難航することにもなりかねない。

 「年度内(2019年3月まで)が目標の一つ。それに向けて努力する」―。東商取の浜田隆道社長は再延期後の方針をこう話す。引き続き、上場認可申請で必要な発起人を大手電力から集めることに注力する考えだ。

 賛同を得られない背景には東商取の経営不振などがある。出来高の低迷により17年度決算は3期連続の赤字。政府の規制改革推進会議が6月にまとめた答申は、東商取が信頼性の高い市場を形成するには資本力や人的資源、経験の面で「課題が多い」と指摘した。

 大手電力からは多岐にわたる質問が示された。東商取は経営計画を含め一通り回答をし、「(大手電力が)社内で検討している状況。議論はかなり煮詰まっている」(浜田社長)とするが、賛同のめどはつかないままだ。

 一方、電気小売りの新規参入業者(新電力)からは早期上場を求める声が強い。16年の小売り全面自由化を受けてスポット市場が拡大し、18年1―9月の取引量は前年同期比で約3・5倍に増加。小規模業者が多い新電力では価格変動リスクをヘッジする需要が高まり、業界全体でも先物が必要なことは共通認識となっている。

 東商取は取引清算業務の適格性について国際認証を受けているほか、16年以降は大手電力も参加した模擬取引などを通じて電力先物の詳細設計を作ってきた。では他に上場を近づける材料はあるか。

 一つは経営安定化に向けた業績の改善成果を示すことだろう。18年度は国外からの市場参入促進により5月の海外取引比率が53・5%と単月で過去最高を更新したほか、前年度に増えた振興費の圧縮で収益単価の改善を見込む。一方、小口商品の売買が多くなると手数料の収益性が下がる影響があるという。

 東商取は12月に18年度上期の決算を発表する。経営改善に向けた具体的成果を示せなければ、上場延期を繰り返すことになりかねない。

 

(文=田中明夫)
日刊工業新聞2018年11月2日

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