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泥沼化する米中貿易戦争、日本企業も気を揉むアップル製品の行方

機械業界などは戦略見直し相次ぐ
泥沼化する米中貿易戦争、日本企業も気を揉むアップル製品の行方

新型アイフォーンを発表するティム・クックCEO(アップル公式動画より)

 米政権が対中制裁関税の第3弾を発動し、中国からの輸入品約2000億ドル(約22兆円)分に10%の追加関税を課した。中国も対抗措置として、直ちに600億ドル分の米国品に最大10%の報復関税を実施した。泥沼化の様相を呈してきた。“米中貿易戦争”は日本企業に海外戦略の見直しを迫りつつある。

 コマツは米国で生産する油圧ショベルの一部の溶接部品などを中国で製造してきたが、米国や日本、メキシコに順次移管する。同社は貿易摩擦の影響額として、2018年度に約40億円のコスト増加を織り込んでいる。今回の生産移管によって影響を低減する。

 また三菱電機は米国向けの工作機械の製造を中国から日本に変更した。金型部品などを作る放電加工機と、薄い金属板を切断するレーザー加工機で、中国・大連の工場で製造してきたが、関税によるコスト増を価格に転嫁するのは製品競争力を保ちにくいと判断、名古屋市東区の工場に移管した。

 米国販売のうち、放電加工機は7割、レーザー加工機は3割が中国製だった。三菱電機は中国で工作機械の生産を強化してきたが、貿易摩擦によって戦略転換を迫られることになった。

 このほか生産財各社では、ツガミが最終組み立てを中国から日本に移したり、東芝機械が中国での射出成形機生産を日本やタイに変更するなどしている。

 米国が問題視する貿易赤字を背景にした対抗措置が日本に広がれば、機械各社は米中間、日米間の事情を踏まえ追加の生産戦略の策定が必要になる。また制裁措置の「本質的な問題は市場を冷え込ませること」(機械メーカー首脳)との指摘がある。すでに工作機械は好調だった中国からの受注が貿易摩擦を一因に減速している。日米、東南アジアなど世界経済への影響が懸念される。

自動車部品 調査急ぐ


 日系自動車部品メーカー各社は加熱する米中貿易摩擦の自社への影響について調査を進めている。各社は大手を中心に世界各国に生産拠点を持ち、地産地消を基本方針に事業を展開しているが、一部の部品を中国から米国に輸出している企業もある。

 米政府が今後、中国に対して一段の追加関税をかける可能性もあり、大手日系部品メーカー首脳は「関税に該当する部品について調査を急ぎ、結果次第では生産移管を検討しなければならない」と打ち明ける。

 実際、住友電気工業は中国で生産するワイヤハーネス用接続部品を生産移管する方針を固めた。同部品が米国の制裁関税の対象となったためで、19年にタイまたは米国工場に移管する方向で調整する。

 井上治社長は「18年度に30億円程度を見込んでいる」と米中貿易摩擦による事業への影響額について見解を示した。また米国向けワイヤハーネスの一部を中国で生産しており、関税対象の同部品の生産移管も検討する。

 ただ、生産移管するにしても「(生産体制を整えるには)一定の時間がかかり、それ相当の準備が必要。簡単ではない」(ティア1部品メーカー首脳)と頭を抱える企業もある。完成車メーカーは当面、静観の構えだ。

 さらに北米自由貿易協定(NAFTA)見直しや自動車・部品に対する追加関税の検討など対中以外の米政府の通商政策の動向も依然、不透明。具体策を打ち出しづらい課題も抱えている。

 今回の対中制裁関税第3弾の内容に日本の電機業界は胸をなで下ろしている。米アップルの腕時計型端末「アップルウオッチ」やワイヤレスイヤホン「エアポッド」が対象から外されたからだ。業界内ではアップルウオッチに10%の関税が課されれば、製品コストは10ドル以上も上昇するとみられていた。取引のある部品メーカーは原価低減の圧力を避けられた格好だ。

 ただ、大手電機関係者は「この状態がいつまで続くかはわからない」と警戒する。トランプ大統領が対中制裁第4弾に踏み切れば、アップル製品も無傷でいられなくなる。

中国も報復措置として、米企業への部品や機器の販売制限を検討しており、アップルへの主要部品の供給に影を落とすとの観測は根強い。アップルが米中両国の綱引きの犠牲になっており、日系部品メーカーも戦略を見直す可能性がある。
日刊工業新聞2018年9月26日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
トランプ大統領は第4弾の制裁関税(2670億ドル分)を実施し、中国からの全ての輸入品に追加関税を課すことを視野に入れてるが…。

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