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どうなる自動車の追加関税、20%賦課なら営業利益のマイナスは?

リスクはくすぶり続ける、最大25%減少する可能性
どうなる自動車の追加関税、20%賦課なら営業利益のマイナスは?

インプレッサなどを生産するスバルの米国工場(溶接ライン)

 安倍晋三首相は27日(日本時間)、トランプ米大統領と米ニューヨーク市で会談し、物品貿易協定(TAG)締結に向けて2国間交渉に入ることで合意した。日米間の貿易・投資の拡大に向け、農産品や工業製品などの関税引き下げを含めて協議する。交渉中は日本製自動車への追加関税を米国が発動しないことで一致した。日本は米国が求める2国間交渉と引き換えに、当面の発動回避に成功した。ただ発動回避は暫定的で、TAG交渉の行方も不透明。日本のリスクはくすぶり続ける。

 日米首脳会談の最大の焦点は、米国が検討を進める輸入車関税引き上げの取り扱いだった。現在の2・5%から25%へ大幅に引き上げる意向を示すトランプ大統領の一手に注目が集まったが、結局、TAG交渉中は発動しないことで合意し、日本側は一息付いた格好。ただ米国の自動車産業の生産拡大・雇用増はトランプ大統領が狙う大本命。日系自動車メーカーが狙い打ちされるリスクはくすぶり続ける。

 日本の自動車業界の中には、首脳会談でトランプ大統領が「輸入車の追加関税に関し強行姿勢を示すのでは」と懸念する声もあった。それを「棚上げ」という形で軟着陸させられた背景には、日本が農産品分野で譲歩する方針を示したことがある。それによりトランプ大統領は11月の中間選挙でアピールできる材料ができたからだ。

 ただ首脳会談後の共同声明には、「自動車産業の製造および雇用の増加を目指す米国の立場を尊重する」との趣旨の文言が盛り込まれた。米政府が、日系メーカーの米国生産増を促す政策導入を目指す方針を改めて示した格好で、輸入車の追加関税に加え、輸入台数制限という選択肢を将来突き付ける懸念はぬぐえない。

 交渉にあたり、日本は農産品分野で環太平洋連携協定(TPP)水準までの自由化を実現することと引き換えに、米政府の輸入車関税引き上げを回避するシナリオなら比較的描きやすかった。

 しかし共同声明の内容を踏まえれば、自動車産業の発展に直結しない農産品開放は「あまり効果がないだろう」(みずほ総合研究所の小野亮主席エコノミスト)。また米国からの輸入車関税はすでにゼロで日本は交渉材料に乏しい。

 参考になるのは7月の米国と欧州連合(EU)の協議だ。EUは工業製品の関税撤廃交渉と引き換えに、米国から自動車追加関税の棚上げを引き出した。日本と似た状況にあるEUが、今後、どのように米国と交渉を進めるか注目される。

 日本の自動車メーカーにとって米国は最重要市場で、17年は日本から総輸出台数の4割近くを占める約174万台を輸出した。関税引き上げや台数制限を回避できず、米国向け輸出が減れば、部品メーカーも含め国内の自動車産業基盤を維持することは難しくなる。

 米国での自動車生産拡大・雇用増をどう実現するか、日本政府と自動車メーカーは歩調を合わせて方策を探る必要がある。
                  

 
日刊工業新聞2018年9月28日の記事から抜粋
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
日米物品貿易協定(TAG)の間は自動車への追加関税を発動しないことで合意は大きな進展だろう。どの程度時間の猶予があるのか、TAGの展開を注視したい。通商拡大法232条の商務省調査結果は年末から年明けとなるなら、来年3月までには追加関税決定の山場が訪れる。仮に20%の追加関税が賦課された場合、自動車産業の営業利益は最大25%減少する可能性もある。

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