個人データ預かる“情報銀行”、社会に根付くか

2019年度始動へ

 ビッグデータ(大量データ)は“21世紀の原油”とも称される。米グーグルなどの巨大プラットフォーマーは個人情報を含むビッグデータを収益の源泉として飛躍的な成長を遂げてきた。わが国は個人情報保護法の改正により、個人データの保護とその利活用をバランスさせる方向にかじを切ったが、利活用は思うように進展していない。そこをうまく動かそうと、生活者が自らの個人データを安心・安全にコントロールできる新しい仕組みとして、情報信託機能を担う「情報銀行」が立ち上がる。

 情報銀行は総務省と経済産業省が1年がかりでスキームを練ってきた。6月に指針が決まり、2018年末から始まる認定申請の受け付けに向け、19日に総務省で説明会が開かれた。登壇した佐藤ゆかり総務副大臣は「官民で一体となった画期的な取り組みであり、魅力的なサービスが生み出されることを期待したい」と語った。早ければ19年3月頃には認定第1号が決まる。

 個人データを安心・安全に流通させる仕組みは、海外ではパーソナルデータストア(PDS)やデータブローカーとして知られ、わが国でも大学などアカデミックの世界で議論されてきた。

 19年度に本格スタートする情報銀行のスキームはこれらとは若干異なる。情報銀行とは購買情報などの生活履歴や健康データなどの「パーソナルデータ」を個人の同意に基づいて一括で預かり、データの流通や利活用を促進する仕組み。スキームとしては「情報信託業」に該当する。

 生活者は情報銀行を介して個人データを企業などに提供し、その対価として信用力や金銭などが得られる。企業側は入手した個人データを自社サービスやマーケティング、製品開発などに活用できる。データの利用料は情報銀行に支払われ、個人にも還元される。こうして“宝の山”ともいえる個人データの流通を健全に促進するのが狙い。認定機関を担う日本IT団体連盟の別所直哉専務理事は情報銀行のあるべき姿として「利用者に役立つ、利用者のための仕組み」と強調する。

 情報銀行をめぐる議論の背景には、個人データがなし崩し的に使われている現状がある。法律的には本人の同意をとれば個人データを利活用できるが、不透明感による不安が否めないのが実情だ。野村総合研究所の崎村夏彦上席研究員は「同意に関する規約を読むだけでも大変。そもそも個人が事業者を審査するのは無理だ」と指摘する。その上で「意味のある同意がとれていなければ、同意自体に実効性がない」と疑問を投げかける。

 情報銀行のスキームの妙味の一つは、同意に対する考え方にある。情報銀行は「信頼できる第三者」として、個人データを包括的に預かり、事業者に情報提供するか否かの判断を個人に代わり、プロフェッショナルとして適時判断する。ここに大きな意義があり、海外からも注目されているという。

 情報銀行は制度面の立て付けも興味深い。国がスキームとして示すのは認定やガバナンス(統治)などのざっくりとした指針や枠組みのみ。これに沿って、認定機関である日本IT団体連盟が申請を受け付け、事業者を審査して認定する。ファイナンシャルプランナーのような資格はあっても免許制ではなく、民間ベースで事業者同士がサービス競争する仕掛けだ。

 このため情報銀行に名乗りを上げる事業者が相次ぐと見られる。すでに金融機関のほか、コンソーシアム(企業連合)による事業化の検討も進んでいる。情報銀行への参入をうかがう事業者は数多い。認定は任意であり、認定を受けない事業者でも多様なサービスが可能だ。何を選ぶかは生活者の判断次第。情報銀行が社会にどう根付くかが注目される。

情報銀行の意義について語る佐藤総務副大臣

日刊工業新聞2018年10月23日

  

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