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フィンテック時代に個人情報はどう扱われる?

個人情報の第三者提供を緩く認める「情報銀行」
 ITと金融を融合したフィンテックの新潮流は金融業界のみならず、経済や社会全体に劇的な変化をもたらすことになりそうだ。スマートフォンの活用拡大と相まって、我々の暮らしや仕事は今後ますます便利になっていくのは言うまでもない。一方で利便性の副産物として、個人データの扱いなどで新たなリスクが広がることも避けて通れない。フィンテック社会の実現に向けた課題として、利便性とリスクをどうバランスさせるかが問われている。

顧客の利便性高まる 


 フィンテック企業と金融機関とのサービス連携が急ピッチで進んでいる。ここにきてメガバンク勢もフィンテック各社とのサービス連携に向けて「アプリケーションプログラムインターフェース(API)」の公開に動きだしている。API公開によって、フィンテック企業は銀行の勘定系システムに接続し口座情報などを取得できるようになる。結果として、サービス開発はやりやすくなり、顧客の利便性が高まるといった図式だ。

 オープン標準として銀行API、証券APIの整備が進んでいるが、API連携は金融業界に止まらない。医療や健康など幅広い分野へとサービス連携が広がることで、経済や社会全体に劇的な変化がもたらされる。

 ただ現状では個人の金融データと医療データ、運転データなどを組み合わせたサービスの実現は難しい。個人データといっても単純な決済情報から遺伝情報まで幅広く、サービス連携を技術論だけでは語ることはできない。

個人データの扱いは?


 一方、フィンテック云々を語る以前の問題として、一般生活者からは「本人を特定する個人データを勝手に使われたくない」という声も聞こえてくる。それは日本だけではない。KPMGコンサルティング(東京都千代田区)がまとめた、世界24カ国・約7000人を対象とした消費者意識調査によると、企業による個人データの取り扱いや利用方法について「懸念している」、または「非常に懸念している」との回答が56%だった。「身近で役立つ存在」であるべき個人データが、消費者にとって「不快でプライバシーを侵害する存在」へと変容していく一線がうかがえる。

 金融や流通業界で提供が相次ぐ各種ポイントサービスなどでは、割引と引き替えに個人データを入手してマーケティングに役立てている。一般生活者が個人データの扱いを明記したプライバシーポリシーに合意し、すべてを理解した上で多様なサービスを利用するのは自由だが、プライバシーポリシーを読んでもよく分からず、運用面でグレーなことも少なくない。

財産権の問題にも


 もとより、わが国においては、データが個人のものであるという考え方が制度的に明確化されておらず、個人データが人知れず分析されていることへの不安は拭えない。こうした状況に対して、玉井克哉東京大学先端科学技術研究センター教授は「取得した個人データを生かして利益を得るならば、企業は何をどう使うのかを明確にすべきだ。そもそも契約の中身が分からなければ正常な取引にならない。財産権の問題なのだ」と釘を刺す。

 問われているのは個人データを自らの意思で管理・利用する手段やツールの整備だ。これらが整えば、さまざまなデータを組み合わせた質の高いフィンテックデータが活用できる。

情報銀行で個人データを“運用”


 その一環として、個人データに紐付くさまざまなデータを個人が管理できるようにする枠組みとして、「パーソナル・データ・ソース(PDS)」や「情報銀行」といった仕組みが注目されている。
 
                                
 情報銀行とは、健康や購買履歴などの膨大な個人情報を本人の同意があれば、事業者が一括で預かってデータ流通させてもよいとする考え方だ。

 対象となるデータはスマートフォンやポイントカードなどの利用から得た位置情報や購買情報といった生活履歴や健康データなど広範にわたる。個人は自らに関するパーソナルデータを信頼できる認定機関(情報銀行)に預けておき、一般事業者はこれらをマーケティングなどに活用する場合には利用料を支払う。そこで得た収益は金銭やポイントの形で個人に還元されるといった仕組みが想定される。

 自分の運転履歴を情報銀行に預けておき、保険会社が照会を求めてきたら了承し、無事故ならば保険料が安くなるといったことも可能となる。

先行する欧州


 情報銀行への取り組みは欧州が進んでいる。欧州連合(EU)は「一般データ保護規則(GDPR)」を定め、2018年から施行する。データは個人のものであることを明確化して、データ・ポータビリティー(移行性)をはじめ、個人データを扱う管理者に義務を課す方向で調整が進んでいる。

 わが国ではこうした議論はまだ始まったばかり。利用者には見えにくいが、事業者間でサービス連携する際の仕組みを安全かつ効率化するためにさまざまか検討が進められている。

 「情報銀行は個人情報の第三者提供を緩く認める話だ。各自が自分の情報をどこかに預けて、プライバシーを尊重したうえで、使い勝手をよい仕組みを作れば社会全体のメリットになる」。こう語るのは三根公博マネックス証券執行役員。マネックス証券はネット証券の草分けであり、新技術への対応は積極的。「金融サービスを情報技術を用いて提供しているという意味ではわれわれもフィンテックだ」と胸を張る。

 ネット証券も2000年ころに一大ブームとなり、世の中を変える存在として脚光を浴びた。「当時、ネット証券なんて…と笑う人もいたが、10年経てば世の中は変わり、証券業界のあり方も一変した。フィンテックも同様。そんなこと、と笑っていると、自分たちが置いてけぼりにされる」(三根氏)とも。マネックス証券は現在、仮想通貨で株式や投信が仮想通貨で買えるような検討にも着手している。そうした試みから、フィンテックの次の時代も垣間見える。
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
個人データを人知れず使われのは気持ち悪いと感じるか、便利になるならまったく構わないと考えるか。この辺りは個人差もあるだろうが、国民性の違いも大きい。お隣の中国を見ると、フィンテックの普及にはこの国民性の違いが結構大きく影響するように思える。日本としては、まずは技術の力でハードルを下げていかなければならない。

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