申請取り下げも…どうなる55年ぶりの大学新制度“専門職大学”

設置認可まもなく発表

 55年ぶりとなる新たな大学制度「専門職大学」が2019年度に始まる。実践的な高等教育を通じ、高度な専門人材を育成するのが目的だ。情報通信技術(ICT)や介護など社会ニーズの高い分野で第1弾の設置認可申請で審査が進んでおり、近々認可が発表される。

来年度始動―人気は医療・福祉分野


 新たに始まる専門職大学・専門職短期大学は、大学の創造力と専門学校の実践力を併せ持った教育が目的。専門職大学では卒業に必要な124単位のうち、3分の1が企業での実習などとなる。通常の大学では産学連携教育はインターンシップ(就業体験)などごく一部にとどまっており、差別化を図る。

 また、企業や自治体などの経験を基に指導する「実務家教員」は教員の4割以上。うち半分は(博士号取得者など)研究能力があり、もう半分は現場で本業を持つ人材で想定する。こうした条件は「産業ニーズ対応の高等教育を長年、議論して盛りだくさんになったが、小規模で地方でも立ち上げられるよう設計した」(文部科学省・高等教育局)。

 申請第1弾の大半が医療と福祉分野だった。専門学校で厚生労働省関連の実習を手がけ、文科省の条件をクリアしやすい背景がある。今後はICTのほか、6次産業化の農業、インバウンド(訪日外国人客)観光などで期待されている。

 専門職大学で申請中の学校法人・敬心学園(東京都新宿区)は、専門学校のリーダー格の一つ。医療・福祉系専門学校5校を運営する。在籍の約3700人のうち、約7割が留学生を含む学士号を取得した社会人だ。

 20年前は国内の高卒生が主力だったが、大学への進学率が向上した結果、経営危機に直面したなどで、主対象を社会人に変えた。さらに「(専門学校を修了した)『専門士』は国内の認定資格にすぎない。大学と違い、留学生の母国などで通用しない問題があった」と同学園の小林光俊理事長は説明する。

 敬心学園が計画する東京都江東区の「東京専門職大学」の校舎は、研修所だった建物を活用する。小林理事長は、「この地に8年前に専門学校の一つを置き、『いずれここに大学を』と思っていた」と明かす。

 同大では「リハビリテーション」「福祉介護イノベーション」の2学科を予定。さらにリハビリテーションは「理学療法」「作業療法」の2専攻からなる。いずれも専門学校と同様、卒業後は理学療法士などの受験資格を得られる。さらに、医療・介護分野の課題の中から、その分野全般にわたる必要な能力を身に付ける「職業専門科目」は「スポーツ・レクリエーション」「地域活性化・ツーリズム」「ロボット・福祉機器」などを五つの柱とする。加えて新事業創出や起業に向けた経営マネジメントの教育に力を入れる。

 敬心学園大学開設準備室の宮田雅之事務局長は、「医療機関や福祉施設での労働者を育てるのが目的ではない。百貨店やホテル、航空会社などでこれまでにないサービス、イノベーションを生み出す人材を育成する」と強調する。

 

「普通の大学でいい」の声も


 第1弾で最も注目を集めたのは、専門学校でICTの「HAL」やファッションの「モード学園」を広く経営する学校法人・日本教育財団(東京都新宿区)だ。東京、大阪、名古屋に専門学校を置いているが、新たに工科系、ファッション系の2専門職大学の学部・学科を3都市に置く計画だ。

 工科系である「国際工科専門職大学」(申請中)の東京工科学部の川端晋一統括責任者は、「教育目的は基本同じだが、カリキュラムには、各都市で異なる産学連携教育を盛り込む」と構想もユニークだ。

 日本教育財団は当初、これらに加え医療福祉の専門職大学も3都市3大学で展開し、計5大学での設置認可申請をしていた。しかし夏に入って、現段階では理想の教育環境を整えられないとし、医療福祉の3大学は設置予定を1年延期した。

 さらに、二つの学校法人も申請を取り下げたという。詳細は設置審査終了まで公開されない。

 専門職大学開設の主体はほとんどが、専門学校を運営する学校法人だ。大学と同等の校地面積、専門職大学特有の教員資格などを求められるため、手を挙げるところは必然的に限られる。ただ、専門学校自体は駅に近い賃貸ビルの中で運営することも多く、校舎や体育館など土地・建物の確保は悩みのタネだ。

 こうした懸念を受け、会員の多くが専門学校関係者の「コンテンツ教育学会」は、7月に専門職大学のシンポジウムを開催。申請第2弾で20年度開学を目指す、学校法人・電子学園(東京都新宿区)のICTの「i専門職大学」をケースに議論がされた。

 うまく解決できたのは土地の問題だ。同大の校舎は自前だが、校地は東京都墨田区から50年の定期借地で調達した。同区にとって大学の誘致は10年来の悲願だ。折しも都内23区で大学の定員増を10年間、禁ずる地域大学振興法が成立。例外となる専門職大学でこその展開になった。

 次の課題は教員の確保だ。同学園は産業界出身で修士・博士の学位を持つ教員を抱える。しかし、同大設立準備室の宮島徹雄室長は「ここ何年も専門学校の教員をしている経歴では、専任実務家教員にならないとされた」と打ち明ける。

 さらに学生の一度の受講は40人まで、という通常の大学より厳しい条件に対し、「定員200人なら同じ授業を5回、するしかない」(宮島室長)。教育の質に関わるどの条件も、経営に影響する。同学園は約70年の専門学校経営での蓄えを使い、開設にあたり新たな借り入れはしていないものの、「経費回収は15―20年程度かかる見込み」(同)だ。

 同学会理事長のデジタルハリウッド大学大学院の高橋光輝教授も「10年先までシミュレーションした結果、断念したという話を聞く。『普通の大学でいい』という経営判断もある」と状況を説明する。実際、同大は政府の規制緩和で株式会社が設立する大学院でスタートし、専門職大学に似た教育研究が売りだ。

 第1弾の結果発表と、20年度開学に向けた第2弾の設置認可申請が控える。新制度の定着に向けた重要な時期となりそうだ。

東京専門職大学は東京23区職員の研修所だった建物を使う(敬心学園提供)

(文=山本佳世子)

日刊工業新聞2018年9月25日

山本 佳世子

山本 佳世子
09月27日
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教員評価で教育や産学連携の活動が、通常の大学では十分に認められないという問題を耳にする。社会の役に立たない論文であっても、その実績の方が
大事にされるというのは悩ましい。が、専門職大学であればそんなことはない。産業社会が必要とする活動に注力する教職員を、正当に評価することになる。通常の大学に、専門職大学が刺激を与えてくれることを楽しみにしている。

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