ニュースイッチ

働き方改革のカギは“集中”

AGCが求めた「世界で1番集中できる空間」
働き方改革のカギは“集中”

ジンズが企業専用の集中専用スペースを手がけたのは初めて

 AGCは、主にメガネの販売を手がけるジンズと協力し、本社内に社員専用の作業スペース「DEEP THINK(ディープシンク)スペース」を開設した。ジンズが2017年に東京都千代田区で開設した会員制のワークスペース「Think Lab(シンクラボ)」の知見を生かし、オフィスの中に「世界で1番集中できる空間」を生み出した。
 ディープシンクスペースは、新丸の内ビルディング(東京都千代田区)内にあるAGC本社に設置した。34階にある社員向け多目的スペース「スカイテラス」の一角にあり、利用できるのは社員のみ。室内は黒を基調にデザインされ、120センチ×120センチメートルのブースを12個設置。それぞれに机といすが1組用意されている。専用の予約システムを使って7-21時の間で希望の利用時間を申請できる。

とにかく集中できる空間


 ディープシンクスペースの環境作りは、利用者の集中力向上にこだわった。ジンズがこれまでに得たデータの中から作業内容と視線の関係、特に、考え事に適した視線と作業に適した視線や違いに注目。アイデアを練るには上向きの視線、ロジカルシンキングには下向きの視線が適していると分析した。これを踏まえて、目的に応じて視線や姿勢を変えやすいいすと、姿勢に合わせて天板の位置や角度を変えられる机を導入している。
 ジンズの井上一鷹Think Labプロジェクトリーダーは「集中を促す仕組みについては基本的にはシンクラボと同じコンセプトを守っている」と説明。シンクラボで得た知見を生かし、観葉植物やハイレゾ音源を用いたBGM、ヒノキやかんきつ系のアロマを使った室内の香り付けなど、利用者の五感を刺激して集中力の向上を助ける仕組みも導入した。
 同社によると、9月10日に開設してから年齢や役職を問わず利用希望者が続出。約8割の席が1日を通じて埋まっているという。

自分で考え、動ける風土を取り戻す


 AGCは、15年から進めている働き方改革の一環としてディープシンクスペースを開設した。同社の宮地伸二専務執行役員CFOは「16年に掲げた長期経営戦略を実現するためにも社員が自ら考え、動くことができる風土を取り戻したい」とし、「最高の集中空間を作ることで、生産性だけでなく創造性も高めて成長につなげたい」と設置の狙いを話す。
 AGCでは、ディープシンクスペースの他にも社員の集中力に注目した働き方改革を進めており、その一環で希望する社員にジンズのメガネ型ウエアラブル端末「JINS MEME(ジンズミーム)」を貸し出している。貸し出し用端末はAGCとシーイーシー(東京都渋谷区)が共同開発した作業動態分析システム「スマートロガー」と連動しており、一定時間内のまばたきの回数や視線、姿勢の結果をスマートフォンの専用アプリで確認できる。アプリではこれらのデータをもとに集中度を算出。作業や時間ごとの結果を比較可能にすることで社員に仕事の振り返りを促し、自発的な業務プロセスの改善につなげる狙いだ。

オフィスワーカーのための働き方改革とは?


 集中を促す空間の意義について、ジンズの井上プロジェクトリーダーは「最近流行のオフィスはイノベーションを生み出すためにコミュニケーションの強化を重視しがちだが、独創的なアイデアの根源に近いのはむしろ知性を深める行為だ」と語り、雑務に気をとられない空間作りの重要性を指摘する。
 さらに、「生産性の向上とは、本来生産を担う現場にこそ効果を発揮するもの。オフィスワークを効率化できても、そういう仕事は数年後には人工知能(AI)に食われているかもしれない」(井上プロジェクトリーダー)として、効率化ばかりがオフィス改革の目的ではないことを指摘する。
ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
AGCの担当者によると、2社が手を組んだ背景について「社員に任せてくれる社風が共通していた」とのこと。ジンズは今回のような空間作りを事業化するかは分からないとする一方で、「この先全くやらないわけではない」としています。働き方や職種の多様化が進む中で、デベロッパーやデザイン会社以外の企業によるオフィス作りは今後増えるのでしょうか。

編集部のおすすめ