シリコンバレーと交流も、東京・大手町のオープンイノベ拠点がアツい

多様な交流、革新の源泉に

 「『テックラボ』は“出島”の一つ。デザイン・シンキング(思考)を活用してインキュベーション(起業支援)し、日本発のイノベーションを世界に発信したい」。SAPジャパン(東京都千代田区)の内田士郎会長は、11月に開設するテックラボの狙いを語った。テックラボが拠点を構えるのは、三菱地所が大規模改修に着手した築60年の大手町ビル(同)。東京のオフィス街のど真ん中にオープンイノベーションの一大拠点が誕生する。

 大手町ビルの大改修は2021年3月に完了する計画。三菱地所の湯浅哲生執行役常務は今後の目指す姿として「多様な交流から新しいアイデアが次々と生まれ、チャレンジができる街」を掲げた。

 オープンイノベーションは、都心を中心に開設ラッシュだ。いずれも斬新(ざんしん)な空間の演出やデザイン思考への取り組みを前面に打ち出している。ただ、施設を整備しただけではハードウエアができるのみであり、なかなか前には進まない。そこで何をどう推進するかといったソフトウエア的な取り組みが肝となる。

 改修する大手町ビルには、先行している成功例がある。電通、電通国際情報サービス(ISID)、三菱地所の3社が共同で運営するフィンテック(金融とITの融合)拠点の「フィノラボ」だ。フィノラボには現在、スタートアップ会員が46社、企業会員が10社、総勢400人超がメンバーとして参加。毎日のように交流会やイベントが開催され、英国の「レベル39」や米シリコンバレーの「プラグアンドプレー」など著名なインキュベーションセンターとの交流でも実績を持つ。

 今回は大手町ビルの改修の先駆けとして、フィノラボの面積は現行比2倍の約3900平方メートルに拡張。これを機にスタートアップ会員向けの業務支援サービスも刷新した。フィノラボは開設から3年を迎え、「多くのスタートアップ会員がミドルステージへと成長する過程で、本格的な業務支援に対するニーズが高まってきた」(ISID)ためだ。

 フィノラボのメンバーにはリキッドやマネーツリー、マネーフォワードなど、そうそうたる新興企業が名を連ねる。大手では、みずほフィナンシャルグループがラボを設けている。

 大手町ビルの一角には、すでに数々の成功ストーリーが生まれており、テックラボはこれに続く。テックラボを主導するSAPジャパンの親会社は、欧州最大のソフトウエア会社である独SAPだ。

 SAPの創業者の一人であるハッソ・プラットナー氏は00年代前半にいち早くデザイン思考に着目し、「本業と離れた出島で新技術にチャレンジして、芽が出た事業を本業に取り込む」ことで自らの経営変革を推進し、その実践ノウハウを客先に提供して成功を収めてきた。SAPジャパンのカスタマーイノベーション担当は「重要なのは顧客視点でモノを考え、イノベーションの芽となるアイデアを形(デザイン)にすること。その原動力としてデザイン思考を活用した」と語る。

 SAPは「アップハウス」と呼ぶ、デザイン思考の拠点をすでに全世界に展開中。本国のドイツに2カ所、米国はパロアルト、ニューヨーク、アジアでは韓国にアップハウスを開設している。日本はこれまでアップハウスはなかったが、テックラボとして新たな一歩を踏み出す。

 改修する大手町ビルにはトヨタ自動車の開発部門も入居する。自動運転を支える周辺技術の開発拠点を設ける。会計大手のKPMGジャパンはデジタル技術を活用し、日本企業のイノベーションを促進する施設「KPMGイグニション・東京」を7月に開設した。雲の上の頭脳戦も主役は人や企業であり、多様な知恵や異業種の交流からイノベーションが生まれ、成功への連鎖につながる。

日刊工業新聞2018年7月24日

葭本 隆太

葭本 隆太
07月24日
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