副業上手な企業になるために

 いま日本の雇用形態が大きく変わろうとしている。2018年1月に厚生労働省がモデル就業規則を改定し、勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる、という副業規定を新設したのだ。

 同一企業で定年まで働く終身雇用制は、バブル崩壊以降、大企業以外ではあまり見られなくなってきている。それに伴って転職の経験者が増加しているが、それでもある瞬間を見れば一つの会社だけに属しているのが普通だった。しかし副業はこれとは事情が異なり、社会に大きな質的変革をもたらす可能性がある。

 まず、欧米では副業は当たり前のことだと考えている人が多い。それは、勤務時間外は互いに個人の時間を尊重するため、その中身には介入しない、という強い意識があるからだろう。私は以前ドイツに住んだ経験があるが、そこで就業時間後に上司が部下を飲みに誘ったところ、自分の自由な時間を奪うのかと部下から問い詰められ裁判ざたになったという話を聞いたことがある。

 日本で副業の議論が始まったことで、多様な生き方を尊重する社会への変化を感じると同時に、さまざまな社会課題の解決につながるのではという期待も高まっている。現在、多くの企業が人材不足で悩んでいる。特に人工知能(AI)の活用が進む中で、それを支える技術者が足りないのである。そこでもしも副業制度があれば、そうしたスキルを持った他社の優秀な人を迎えやすくなる可能性がある。

仕事を分けて最適配置


 また建設業でも人手不足が深刻化しているが、例えば労働契約を1日ではなく2時間という単位でできるようにすれば、作業員としては体調や都合に合わせてさまざまな仕事を選択しやすくなるだろう。これは雇用側から見れば、必要なスキルを持つ人を、そのスキルが必要な時間だけ雇用でき、労働生産性が向上する可能性があるのだ。

 物流業も人手不足だが、例えば関西から関東まで長距離輸送をするトラック運転手がなかなか見つからない場合、関西から途中の静岡まで、そして静岡から関東まで、と分けて募集した企業もある。こうすると拘束時間が減って人を集めやすくなる。

 つまり、企業はこれから、仕事をうまく「分ける」ことが重要だと思う。大きな仕事を分け、その部分に適任な人を雇用するのだ。これは労働者から見れば、自分の持つスキルでさまざまな企業において副業ができる可能性が広がり、互いに生産性向上と高収入といったウイン−ウインの関係になれるかもしれない。

 こうした取り組みは、特に翻訳やプログラミングなどの分野で盛んで、ギグエコノミーとも呼ばれている。課題を持つ人と、ソリューションの提供者がネットを通じてつながるのだ。その仲介サイトにはさまざまな国の人が自分のスキルを登録しており、次々と単発の仕事を受けて働いている。

求められる新しい視点


 もちろん副業には問題もある。知財が他社に流出するリスクや、副業で時間をとられて本業がおろそかになるといった懸念がまず思い浮かぶ。また、副業を認めると離職が増えるのでは、といった声も聞かれるが、逆に多様な働き方を認めた結果、離職率が下がったというサイボウズの例もあることに注目したい。そして税制が複雑になるのではないか、という心配もあるが、これこそせっかく導入したマイナンバー制度を大いに活用していくべきである。

 副業が必ずしも経済的にプラスにならない場合もある。例えば大学の教員はエフォート管理という仕組みがあり、副業した場合はそれぞれの組織で働く割合を決め、それに応じて元の給与を案分するのだ。これでは給与の総額は変わらないままであるが、海外ではエフォート管理を導入していないところも多くある。

 これから人生100年時代を迎えると言われており、今まさに働き方を根本的に見直す必要に迫られている。将来を見据えた新しい視点での雇用改革が求められている。
(文=西成活裕<東京大学先端科学技術研究センター教授>)

【略歴】にしなり・かつひろ 95年(平7)東大院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。09年東大教授。渋滞学や無駄学を提唱し、著書の『渋滞学』は講談社科学出版賞を受賞。ムダどり学会会長のほか、多くの有識者委員も兼務。51歳。

日刊工業新聞2018年7月16日

明 豊

明 豊
07月23日
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特に大手企業が人事部主導なので導入しても現状はうまくいかないだろう。各事業部門長、グループ長が理解ある人(担当するチームのパフォーマンスも気にする)はまだ少ない。個人的には副業をやるにしても「本業で成果をだすことにこだわる」ことが欠かせないと思う。副業というより「パラレルキャリア」という考えの方が良いのではないか。

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