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船舶IoT基盤が始動、世界で前例のない取り組みは海事産業に革新もたらすか

ビッグデータを共有、活用
 海運会社が持つ船の航行データを使って、造船や舶用機器の改良、サービス開発に役立てる基盤「IoSオープンプラットフォーム」が始動した。日本海事協会の子会社、シップデータセンター(シップDC、東京都千代田区)が公正な立場からデータ保管と提供を担う。船舶ビッグデータ(大量データ)の共有・活用が、日本の海事関連産業に、どのような革新をもたらすのか。世界でも前例のない取り組みが始まった。

 海事産業にはデジタライゼーションの波が押し寄せている。情報通信技術(ICT)の進化で船上のデータを陸上と共有する船舶IoT(モノのインターネット)「IoS」の環境が整いつつある。

 海上の船で航行データを吸い上げるシステム「船上データ収集装置」の搭載船も増えてきた。さまざまな機器を陸上で監視し、保守の最適化や安全航行につなげるのが狙いだ。

 日本郵船の吉田泰三経営委員は「1社で取り組むのは限界がある」と話す。ビッグデータ活用によるイノベーションは、国際競争力の維持、向上を目指す日本の海事産業全体の課題。IoSの効果を最大化するには、海運会社以外も航行データを利活用しやすい仕組みが必要だ。

 日本海事協会の冨士原康一会長は、IoSオープンプラットフォームを「海事産業が出したコネクテッドインダストリーの一つの答えだ」と説明する。利益相反する事業者が共同利用する基盤であるため公正性の担保に最大限配慮。安全かつ安心にデータを取引できる環境を整えた。

 メーカーにとって、実際の使われ方を把握できるようになることは意義が深い。日本舶用工業会の山田信三会長(大洋電機社長)は「これまで(航行データは)トラブル発生時にしか、分からなかった」と話し、モノづくりへのフィードバックに意欲を見せる。

 海運会社にとっては、提供したデータが、自らのニーズを満たす製品開発につながる可能性を見込める。商船三井の川越美一専務執行役員は「使い勝手の良い船を手に入れられるようになる」と期待をかける。

 ジャパンマリンユナイテッドの佐々木高幸取締役は、ビッグデータの有効性から「たくさんデータを集めることが大事だ」と指摘する。まずは年内に、データ取得船300隻を確保する計画だ。

 2022年までに登録船を550隻に増やす目標。シップDCの池田靖弘社長は「海外企業も受け入れたい」と話す。
 
日刊工業新聞2018年6月13日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
国内海事産業の競争力強化を狙いとした枠組みだが、世界の海事産業の発展基盤となる将来像も抱き、志高く船出する。 (日刊工業新聞社・小林広幸)

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