「海運会社は今、耐える時期だが同時に次の時代へ仕込むとき」
日本郵船は「パーフェクトストーム」をどう切り抜けるか
「パーフェクトストーム」―。日本郵船社長の内藤忠顕は、海運業界を取り巻く現状をこう表現する。中国の経済減速などでコンテナ船需要が減り、2017年3月期は創業以来最大となる2450億円の当期赤字を見込む。逆境の中で打ち出すのは、海洋や自動車物流など、従来の海運の枠組みを超えた事業に乗り出す「More Than Shipping」だ。空前絶後の荒波の中、日本郵船の常識を打ち破る航海が始まる。
10月31日、都内の会見場に日本郵船、商船三井、川崎汽船の社長が並んだ。発表されたのは、コンテナ船事業の統合。コンテナ船をはじめ主力船種の運賃はピークの10分の1と大不況のただ中にある。
ただ足元では不調のコンテナ船事業でも、主力事業に変わりはない。切り離せば、売上高は30―40%下がる。歴史も規模もある事業を切り離すには、大きな痛みを伴う。
日本郵船が代わりに育成するのが「液化天然ガス(LNG)、海洋事業、自動車物流事業」だ。海洋事業では9月に、千代田化工建設とシンガポール・エズラホールディングスとの合弁会社「イーマス・チヨダ・サブシー」に約100億円を出資し、海底油田開発事業に参画した。
このプロジェクトで日本郵船は「サブシー」と呼ばれる海底設備の建設やオペレーションなど、経験のない分野の事業を担う。イーマスには社員も送り、同社の経営や海底工事のオペレーションにも関与する。
海底で発掘した原油をタンカーに積み出して輸送する事業などで蓄積した、船舶の定点保持システムなど特殊技術を生かせると判断した。専務の長沢仁志は「経験はないが、技術はある」と自信をのぞかせる。技術やノウハウが問われ、安定的な利益が見込める海洋事業は、改革の旗印だ。
海運は競合との差別化が難しく、常に市況にさらされ、浮き沈みも激しい業界。会社の危機は過去に幾度かあったが、その度に先人たちが知恵や努力で乗り越え、創業131年の歴史を紡いできた。
ただ、内藤はこの長い歴史が社員のプレッシャーとなり、時に保守的な社風を作り上げていると感じている。「今は耐える時だが、次に向かって仕込む時でもある。逃げずに挑まなければ」と、社員の奮起を促す内藤。歴史や常識を壊す覚悟で、次のステージを見据える。
(敬称略)
歴史的低水準の海運市況で、厳しい経営環境に置かれる日本郵船。海洋事業や自動車物流事業など、海運業プラスアルファで生き残りをかける。内藤忠顕社長は「いつも人よりも半歩前を行くことが大事」と説く。内藤社長が描く、差別化や比較優位の戦略を聞いた。
―中期経営計画のコンセプトでもある業務改善運動の「きらり技術力」を進めることで、どのような企業となることを目指していますか。
「企業が生き残るには多様化が必須で、創意工夫による差別化が重要になる。比較優位を追求し、いつも人よりも半歩前を行くことが大事だ。今の海運業界は非常に厳しい経営環境にあり、差別化しないと他社に追いつかれてしまう。また、きらり技術力に関連するさまざまな取り組みは、社内で何かやりたい人にきっかけや名目を与えるという意味もある」
―海運市況の低迷が著しいコンテナ船事業について、大手3社による事業統合を決めました。
「コンテナ船業界は世界上位20社のうち、4社が消えた。コンテナ船の市場は、グローバル化と(大差のない)コモディティー化が同時に進み、寡占化しないと勝てない。一方で、コンテナ船は日用品などを輸送し、社会のインフラでもある。完全競争を求められ、海運会社が厳しい状態に長く置かれることは、いい状態ではない」
―海洋事業や液化天然ガス(LNG)船事業、自動車物流事業の強化を打ち出す背景は。
「創業から130年、祖業である海運業で伸びてきたが、コンテナ船やドライバルク船は産業全体が沈んでいて、どんなにいいサービスをもっていても、成長は難しい。そういうときはスピード感をもって、事業ポートフォリオの入れ替えに対応し、伸びるところを伸ばす“アメーバ型”のビジネスに変えていかなければならない」
―LNG燃料の実用化を、業界に先駆けて進めます。
「燃料から海運の将来を考えたとき、重油の時代は長く続かない。次の燃料の選択肢がいくつかあるが、LNGは間違いなくその一つ。時間をかけ、次の展開も考えながら、負けないでやっていくしかない」
―“船頭”として、今後、日本郵船をどのように動かすのか、思いを聞かせてください。
「海運会社は今、耐える時期だが、同時に次の時代に向かって仕込むときでもある。とはいえ、(資産負担の軽い)ライトアセットが大前提だ。船を造るのではなく、アイデアなどで次の形を仕込むことになる。目的意識をもって、逃げずに挑む」
10月31日、都内の会見場に日本郵船、商船三井、川崎汽船の社長が並んだ。発表されたのは、コンテナ船事業の統合。コンテナ船をはじめ主力船種の運賃はピークの10分の1と大不況のただ中にある。
ただ足元では不調のコンテナ船事業でも、主力事業に変わりはない。切り離せば、売上高は30―40%下がる。歴史も規模もある事業を切り離すには、大きな痛みを伴う。
日本郵船が代わりに育成するのが「液化天然ガス(LNG)、海洋事業、自動車物流事業」だ。海洋事業では9月に、千代田化工建設とシンガポール・エズラホールディングスとの合弁会社「イーマス・チヨダ・サブシー」に約100億円を出資し、海底油田開発事業に参画した。
このプロジェクトで日本郵船は「サブシー」と呼ばれる海底設備の建設やオペレーションなど、経験のない分野の事業を担う。イーマスには社員も送り、同社の経営や海底工事のオペレーションにも関与する。
海底で発掘した原油をタンカーに積み出して輸送する事業などで蓄積した、船舶の定点保持システムなど特殊技術を生かせると判断した。専務の長沢仁志は「経験はないが、技術はある」と自信をのぞかせる。技術やノウハウが問われ、安定的な利益が見込める海洋事業は、改革の旗印だ。
海運は競合との差別化が難しく、常に市況にさらされ、浮き沈みも激しい業界。会社の危機は過去に幾度かあったが、その度に先人たちが知恵や努力で乗り越え、創業131年の歴史を紡いできた。
ただ、内藤はこの長い歴史が社員のプレッシャーとなり、時に保守的な社風を作り上げていると感じている。「今は耐える時だが、次に向かって仕込む時でもある。逃げずに挑まなければ」と、社員の奮起を促す内藤。歴史や常識を壊す覚悟で、次のステージを見据える。
(敬称略)
内藤社長インタビュー
歴史的低水準の海運市況で、厳しい経営環境に置かれる日本郵船。海洋事業や自動車物流事業など、海運業プラスアルファで生き残りをかける。内藤忠顕社長は「いつも人よりも半歩前を行くことが大事」と説く。内藤社長が描く、差別化や比較優位の戦略を聞いた。
―中期経営計画のコンセプトでもある業務改善運動の「きらり技術力」を進めることで、どのような企業となることを目指していますか。
「企業が生き残るには多様化が必須で、創意工夫による差別化が重要になる。比較優位を追求し、いつも人よりも半歩前を行くことが大事だ。今の海運業界は非常に厳しい経営環境にあり、差別化しないと他社に追いつかれてしまう。また、きらり技術力に関連するさまざまな取り組みは、社内で何かやりたい人にきっかけや名目を与えるという意味もある」
―海運市況の低迷が著しいコンテナ船事業について、大手3社による事業統合を決めました。
「コンテナ船業界は世界上位20社のうち、4社が消えた。コンテナ船の市場は、グローバル化と(大差のない)コモディティー化が同時に進み、寡占化しないと勝てない。一方で、コンテナ船は日用品などを輸送し、社会のインフラでもある。完全競争を求められ、海運会社が厳しい状態に長く置かれることは、いい状態ではない」
―海洋事業や液化天然ガス(LNG)船事業、自動車物流事業の強化を打ち出す背景は。
「創業から130年、祖業である海運業で伸びてきたが、コンテナ船やドライバルク船は産業全体が沈んでいて、どんなにいいサービスをもっていても、成長は難しい。そういうときはスピード感をもって、事業ポートフォリオの入れ替えに対応し、伸びるところを伸ばす“アメーバ型”のビジネスに変えていかなければならない」
―LNG燃料の実用化を、業界に先駆けて進めます。
「燃料から海運の将来を考えたとき、重油の時代は長く続かない。次の燃料の選択肢がいくつかあるが、LNGは間違いなくその一つ。時間をかけ、次の展開も考えながら、負けないでやっていくしかない」
―“船頭”として、今後、日本郵船をどのように動かすのか、思いを聞かせてください。
「海運会社は今、耐える時期だが、同時に次の時代に向かって仕込むときでもある。とはいえ、(資産負担の軽い)ライトアセットが大前提だ。船を造るのではなく、アイデアなどで次の形を仕込むことになる。目的意識をもって、逃げずに挑む」
2016/11/15/12/14