米で死亡事故続く自動運転、日本はどうする?

葛巻清吾・SIP自動走行システムプログラムディレクターに聞く

  • 0
  • 3
ウーバーの自動運転車(同社公式動画より)
 米国で自動運転車の死亡事故が続き、社会からの安全要求レベルが上がっている。日本では内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)として自動運転技術の開発が進む。安全性に関わる技術は、本来は官と民が協調して進めるべき領域だ。SIP自動走行システムのプログラムディレクターを務める葛巻清吾トヨタ自動車先進技術開発カンパニー常務理事に自動運転開発の展望を聞いた。

 -米国家運輸安全委員会(NTSB)が米ウーバーの死亡事故の予備報告をまとめました。自動運転技術よりも安全対策の不備が目立ちます。日本で同様の事故が起きれば国プロすら吹き飛ぶと思います。

 「そのためSIPの大規模実証実験では多重の安全対策をしている。万が一でも起こさないように準備している。一連の事故は米国でも大きな問題になり、国民の意識も変わった。技術開発を止めることはないが、より慎重に進めなければならない。実証実験などをより安全に見直すことは重要で、またそうあるべきだと思う」

 -運転支援システムなどを実用化しても一部の機能を外すなど、ユーザーは必ずしも設計通りに使う訳ではありません。米ウーバーは開発側が自ら、それを証明したともいえます。今後、システムがドライバーを監視して適切でない利用を防ぐなど、対策強化が必要になりませんか。

 「内閣府SIPのPDとして答えられる範囲に限られるが、まず実証実験は警察庁のガイドラインを順守してもらう。ただ守ればいいのではなく、その上で各社にもしもに備えてもらう。ここは開発者が高い意識をもって進めるしかない。実用化に向けては、これまでの自動車と同様、メーカーと規制当局が議論しながら安全を作っていくことになる。最低限、事故が起きたら記録を残すことが重要だ。完全自動運転が実現すると無人の車が走り、証言者もいない事故がありえる。何が起きたか解明し、対策するだけの情報が必要だ。SIPでは安全性評価システムの開発を始めたいと考えている」

 -米国では安全性を示すために試験走行の距離を競っていましたが、その実態が明らかになり信頼が失われたように思います。

 「今はまだ計画段階だが、SIPではシミュレーションを利用したい。例え10万キロメートル無事に走れたといっても、簡単な環境から厳しい環境までかなり開きがある。実際の公道試験は重要だ。ただ、まれに発生するがクリティカルな事象を評価しているか保証できない。またクリティカルな事象を拾うために、膨大な距離を走る必要がある。機種ごとに走るとなれば大変なことになる。距離だけでは評価が難しく、国として評価技術をもつ必要がある」

 -シミュレーションで、この世界のあらゆる交通状況を再現するのは不可能ではないでしょうか。また技術や社会の変化にあわせてシミュレーションを拡張し続け、その妥当性も評価できないといけません。

 「技術的にもとても難しい挑戦になる。参画機関で議論を重ね、SIPとして協調して開発しようとコンセンサスができつつある。SIPでは自動運転の車両を開発しているのではない。ダイナミックマップ(三次元地図)など自動運転を支える基盤技術を産学官で連携して開発してきた。安全性評価シミュレーターも評価項目や技術仕様を議論し、コンセンサスを固めていく」

 -自動運転システムの安全性審査など規制側が使えますか。

 「初めから(規制利用のレベルを)保証するのは難しい。まずツールを作り、参画機関で検証していく。将来は、そこを目指さないといけないと考えている。これは世界でも、まだどこにもできていない技術だ。インパクトは大きいが難しい挑戦になる」

 -2018年度はSIPの第一期が最終年度を迎え、同時に第二期が前倒しで始まりますね。
 
 「総仕上げと立ち上げを同時に進めている。第一期で進めてきたダイナミックマップは事業会社ができ、ビジネスを回しながら継続的に運用する体制ができつつある。18年度にすべての高速道路の約3万キロメートルの三次元地図が商用配信される予定だ。技術としては標識など動かない置物データ標準化や登録がすんだ。次は情報の更新を実証したい」

 「例えば道路工事などで車線ごとに交通規制が変わり、渋滞情報、信号などの情報を配信して更新するシステムを検証する。車線などの規制は日単位や時間単位、渋滞は分単位、信号の色をみるなら秒単位の変化になる。各情報を三次元地図にひも付けて更新していく。基本的な構造を完成させ、多様な情報を収集し統合、配信できるようにする。今後、自動車や道路管理会社、官公庁など、さまざまなプレーヤーから情報を受け取ることになる」

 -民間会社としてダイナミックマップ基盤が設立されたため、機動的な用途開拓が期待されます。

 「ダイナミックマップの三次元データが公共測量として扱えるよう公認された。道路台帳の整備更新に使えるほか、電柱や電線の日常点検にも利用できる。また渋滞情報などは建設工事の効率化に有効だ。資材の運び込みは早すぎると場所をとり、遅すぎると工事が遅れる。現場の進行に合わせてちょうどいいタイミングで届くことが理想だ。ダイナミックマップは到着時間の正確な推定やルート選定に生かせる」

 「またスポーツの試合など人が集まるイベントでは人の流れをコントロールするニーズがある。携帯電話基地局の情報から人数を推定していたが、今後、自動運転車や次世代信号機のセンサーからより詳細な人数や往来がわかるだろう。こうした情報は近隣店舗のマーケティングや人員配置などに生かせる。運用やビジネスモデルはこれからだが、自動運転以外の用途開拓が期待される」

 -約300キロメートルの区間で実施した大規模実証実験は。

 「日独仏の民間・大学など22社・機関が参加している。政策目標の18年度自動車専用道での自動運転技術実用化には確かな貢献ができたと考えている。次は一般道に向けた開発になる」

 -市街地を走るとなると専用道に比べ難しさが跳ね上がります。

 「そのための安全性評価システムでもある。同時に自動運転のサービスを地域レベルで作っていきたい。社会受容性を計るには、技術として問題ないことを示すこと、新技術を利用するメリットを示すことが重要だ。その両方を定量化し、社会が判断できるように示したい。ただ運転を自動化するだけなら、タクシーを使えばいいとなってしまう。交通事故の低減や渋滞の抑制、過疎などで公共交通の成り立たない地域で運転手不足に応えたり、自動運転車両なら二種免許が一種免許ですむなど、具体的に検証できる形でメリットを示したい」

 -なかなかLIDARのコストが下がらないなど、開発機はあるものの量産仕様のシステムが登場していないように思います。

 「まずは電動カートで運用モデルを探るなど、成熟した技術で構成することになるだろう。実施地域に限って一部規制を緩和するなどして、実際のサービスに落とすところまでやる。安全性についても初めは人手をかけてでも、安全を確保して進めることになる。地域に大きな協力を求めることになるため、もともとやる気のある地域でなければ難しいかもしれない。現場を作り、運用を試すことでさまざまなサービスを作っていきたい。そうすれば市場規模を見通せ、コスト削減につながる」

 「さまざまな使われ方をする自家用車は専用道から一般道へ広げるための基盤技術を国際協調で開発する。地域の移動や物流などサービスの実用化は各地域の課題を解いていく。この二つのアプローチで自動運転社会を実現していきたい」
葛巻清吾・SIP自動走行システムのプログラムディレクター


■米ウーバー死亡事故

時速69キロメートルで走る自動運転車が道路を渡る歩行者をはねて死亡させた。システムのLIDARは約115メートル前で歩行者を検出し、約25メートル前で緊急ブレーキが必要と判断していた。だが自動ブレーキ機能は無効だった。理由は不規則な動きを起こさないため。搭乗者にブレーキを踏むよう警告する機能はなかった。

搭乗者は衝突の直前に下を向いていた。自動運転のシステム画面を見ていたと搭乗者は証言している。搭乗者には画面を操作して走行中の出来事を分類して開発用データを集める責任や、画面のメッセージを監視する責任があった。結果、歩行者に気が付いてから急ブレーキをかけたが間に合わず、時速63キロメートルで衝突した。

日刊工業新聞2018年6月12日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

シミュレーションで初めからあらゆる状況は再現できない。自動運転車などで実際の交通環境を計測し、まれな状況を検出してシミュレーションに追加していく必要がある。企業間の競争ではなくメーカーと規制側の連携が必須だ。産学官でダイナミックマップを事業化させたSIPなら実現できるかもしれない。

関連する記事はこちら

特集