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首都圏直下型地震の防災に貢献する東京ガスの「地区ガバナ」とは?

地震計を設置し、社外にデータ提供
首都圏直下型地震の防災に貢献する東京ガスの「地区ガバナ」とは?

地震計が設置されている圧力調整器「地区ガバナ」

 東京ガスは2001年、地震防災システム「SUPREME(シュープリーム)」を稼働した。首都圏1都6県の供給エリアで、ほぼ1平方キロメートルごとに約4000カ所ある圧力調整器に地震計を設置し、強い揺れを感知すると当該地区へのガス供給を遮断する。東日本大震災で作動し、ガス漏れによる2次災害防止効果を実証した。同システムの地震観測データを社外へ提供して、官民連携により首都圏のレジリエンス(復元力、強靱〈きょうじん〉)を高める取り組みも始動した。

供給自動停止


 臨海部に立地する液化天然ガス(LNG)の輸入・貯蔵基地で熱量を調整した都市ガスは、高圧導管に送り出され中圧、低圧へと2段階の減圧を経て、内陸部にある一般家庭まで届けられる。「地区ガバナ」と呼ばれる圧力調整器は最終的に中圧のガスを低圧に下げ、家庭やオフィスで使えるようにする小規模プラント。電力の変圧器に相当する街角の設備だ。

 東ガスの導管網は総延長6万3000キロメートル余り。災害時の供給停止範囲を最小限に抑えるため、中圧・低圧導管網はブロックに分けて、大きな被害が想定される区域を切り離せるようになっている。

 低圧導管網は250区域以上に分割。地震が発生し、圧力調整器の地震計が震度6弱相当以上の揺れを感知すると、供給を自動停止。同時に観測データは本社にある「供給指令センター」のシュープリームへ送られ、地盤条件などを反映した被害推定に基づき、ブロック切り離しに必要な圧力調整器も遠隔操作で遮断する。

 首都圏では直下型地震が懸念される。国は現在、2キロ―5キロメートル間隔・約300カ所にある地下設置型の高精度地震計で「首都圏地震観測網」(MeSO―net=メソネット)を運用。観測網の充実は防災・減災に不可欠だが、整備に多大なコストと時間がかかる。そこで注目されたのが、民間事業者による地震観測網の活用だ。

鉄道など参加


 防災科学技術研究所が主導し“企業も強くなる・首都圏も強くなる”のキャッチフレーズで17年度にスタートした「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」は、官民連携により防災レベルを高めるのが狙い。双方が持つデータを集約して、災害対応や事業継続計画(BCP)に活用する「データ利活用協議会」(通称=デ活)が活動の中核となっている。

 デ活には東ガスのほか、鉄道や通信事業者などが参加。国の地震観測網に東ガスのシュープリームが加わるだけでも、首都圏の観測地点数は10倍以上の高密度になる。高層ビルやエレベーターに設置されている地震計などのデータが収集できるようになれば、個々の建物の被害推定も不可能ではない。
地震防災システム「シュープリーム」で観測した首都圏の揺れ状況(東日本大震災)
日刊工業新聞2018年5月28日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
首都圏には企業や国の機関が集中している。東ガスの小山高寛防災・供給部防災グループマネージャー兼供給指令室長は「防災・減災には企業や国、大学の連携が重要。我々のデータを首都機能の維持につなげたい」と期待する。 (日刊工業新聞社・青柳一弘)

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