NTTドコモも参画、土砂災害の「突然」なくせ
熊本県で斜面監視システム開発へ
大分県中津市で11日、土砂崩れが突然発生し、大きな被害が出た。国の推定では、土砂災害の可能性がある場所は約67万区域にのぼり、全国どこでも土砂災害発生のリスクを抱えている。こうした中、土砂災害の「突然」をなくす技術の開発が熊本で進んでいる。熊本地震をきっかけに始まった、リアルタイム斜面監視システム開発プロジェクトだ。
2年前の熊本地震では、地震後の土砂崩れ対策が課題となった。地盤工学が専門の防災科学技術研究所(防災科研)の酒井直樹主任研究員は「地震活動が収まった後も土砂災害リスクは残り、ずっと対応が求められる」と話す。土砂災害は、一般に雨などがきっかけとなり発生する。だが、それが「いつ」起こるかを知ることは、現在の知見や技術では難しい。雨量に加え、地質や植生、地盤の風化、さらには土と水の化学的作用など土砂崩れの要因は多いからだ。
気象庁は、地震などで地盤が弱まった地域について、土砂災害警戒情報発令の判断基準を震度に応じて引き下げる。ただ、「斜面がどこでどの程度緩んでいるかは分からず、経験則で安全側に設定」(国土技術政策総合研究所の野呂智之土砂災害研究室室長)されており、警報発令は増える。日常生活や経済活動への影響も大きく、熊本県では、復旧が進むにつれ、より高精度な土砂災害リスク判断の要望が高まった。
そこで2016年8月、防災科研と熊本県などが協力し、土砂災害を起こす斜面の変化を捉える新たな監視システムの実証を開始。杭(くい)の中にMEMS(微小電気機械システム)型加速度センサーを組み込んだ装置を熊本県阿蘇市、南阿蘇村、西原村の計9地点に設置した。
この実証で有効性を確認し、17年10月、実用化を見据えた新たな開発プロジェクトが立ち上がった。プロジェクトには熊本県西原村と防災科研、熊本高等専門学校、地元企業のエー・シー・エス(熊本県益城町)とRimos(熊本県大津町)などが参加。通信についてはNTTドコモが支援し、IoTを活用したリアルタイム監視を目指す。
現在のシステムは斜面に「異変」があった時点での通知で、避難に十分な時間はとれない。だが、設置数を増やして実証を重ね、ビッグデータ(大量データ)化すれば、予兆現象を捉えられる可能性が高い。人工知能(AI)によるリスク判断の自動化も検討中だ。
プロジェクトの狙いは、こうした技術開発だけではない。最終目標は、地域で完結する“地産地防”の仕組みづくりだ。地元自治体と地域の中小企業が主体となり、開発から製造までを担う仕組みをモデル化し、全国に広げようとしている。
土砂災害の危険性がある区域は全国にあるが、地域によってリスクの特性も求められるニーズも違う。地域企業が主体となるからこそ、ニーズを理解した開発が可能になる。
熊本の実証で地元が強く求めたのは、大幅なコストダウン。既存の斜面監視装置は設置費を含め数百万円。自治体や個人でも設置できる価格で、まずは設置地域を増やしたいとの声があった。
プロジェクトが目指すのは、斜面全体の監視で20万―30万円のシステムだ。IoT技術の進展やセンサー類の低価格化で、「個人が自宅の裏山にセンサーを設置して監視し、さらにそれぞれからのデータを共有して地域の防災につなげる時代も近い」(酒井主任研究員)。
(文・曽谷絵里子)
2年前の熊本地震では、地震後の土砂崩れ対策が課題となった。地盤工学が専門の防災科学技術研究所(防災科研)の酒井直樹主任研究員は「地震活動が収まった後も土砂災害リスクは残り、ずっと対応が求められる」と話す。土砂災害は、一般に雨などがきっかけとなり発生する。だが、それが「いつ」起こるかを知ることは、現在の知見や技術では難しい。雨量に加え、地質や植生、地盤の風化、さらには土と水の化学的作用など土砂崩れの要因は多いからだ。
気象庁は、地震などで地盤が弱まった地域について、土砂災害警戒情報発令の判断基準を震度に応じて引き下げる。ただ、「斜面がどこでどの程度緩んでいるかは分からず、経験則で安全側に設定」(国土技術政策総合研究所の野呂智之土砂災害研究室室長)されており、警報発令は増える。日常生活や経済活動への影響も大きく、熊本県では、復旧が進むにつれ、より高精度な土砂災害リスク判断の要望が高まった。
そこで2016年8月、防災科研と熊本県などが協力し、土砂災害を起こす斜面の変化を捉える新たな監視システムの実証を開始。杭(くい)の中にMEMS(微小電気機械システム)型加速度センサーを組み込んだ装置を熊本県阿蘇市、南阿蘇村、西原村の計9地点に設置した。
杭にMEMS
この実証で有効性を確認し、17年10月、実用化を見据えた新たな開発プロジェクトが立ち上がった。プロジェクトには熊本県西原村と防災科研、熊本高等専門学校、地元企業のエー・シー・エス(熊本県益城町)とRimos(熊本県大津町)などが参加。通信についてはNTTドコモが支援し、IoTを活用したリアルタイム監視を目指す。
現在のシステムは斜面に「異変」があった時点での通知で、避難に十分な時間はとれない。だが、設置数を増やして実証を重ね、ビッグデータ(大量データ)化すれば、予兆現象を捉えられる可能性が高い。人工知能(AI)によるリスク判断の自動化も検討中だ。
〝地産地防〟
プロジェクトの狙いは、こうした技術開発だけではない。最終目標は、地域で完結する“地産地防”の仕組みづくりだ。地元自治体と地域の中小企業が主体となり、開発から製造までを担う仕組みをモデル化し、全国に広げようとしている。
土砂災害の危険性がある区域は全国にあるが、地域によってリスクの特性も求められるニーズも違う。地域企業が主体となるからこそ、ニーズを理解した開発が可能になる。
熊本の実証で地元が強く求めたのは、大幅なコストダウン。既存の斜面監視装置は設置費を含め数百万円。自治体や個人でも設置できる価格で、まずは設置地域を増やしたいとの声があった。
プロジェクトが目指すのは、斜面全体の監視で20万―30万円のシステムだ。IoT技術の進展やセンサー類の低価格化で、「個人が自宅の裏山にセンサーを設置して監視し、さらにそれぞれからのデータを共有して地域の防災につなげる時代も近い」(酒井主任研究員)。
(文・曽谷絵里子)
日刊工業新聞2018年4月16日