火山噴火の兆候掴め!防災とは縁遠い研究者が動き始めた

先端技術を武器に

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(左)浅間山の外観(右)ミュオンによる観測結果(田中宏幸東大教授提供)
 世界有数の火山国、日本。常に噴火のリスクと隣り合わせで暮らす中で、GNSS(衛星測位システム)による地殻変動監視など、噴火予測技術は、大きく向上してきた。だが、マグマ活動推移の高精度な予測は難しく、突発的な噴火にいまだ苦しめられている。この現状を打開しようと、高エネルギー物理学や地球化学といった、従来は防災研究とは縁遠かった分野の研究者が独自の先端技術を武器に動き始めている。

宇宙線で火山内部透視


 火山は内部の状態が見えないから予測が難しい。「それなら、火山の内部を含めて丸ごと撮影してしまえばいい」―。東京大学地震研究所の田中宏幸教授は、宇宙線「ミュオン」を使い、火山内部の透視に取り組んでいる。

 2007年、田中教授による浅間山(長野県、群馬県)での透視成功は、世界を驚かせた。近年でこそ、福島第一原子力発電所で、核燃料が溶け落ちた「燃料デブリ」の位置推定に使われるなど、活用が進むミュオン。そのきっかけとなったのが、この火山透視だった。浅間山透視画像は、科学誌「ネイチャー」のリサーチハイライトにも取り上げられるなど、大きな話題となった。

 実は、ミュオン利用の歴史は古い。1950年代にトンネルから地表までの厚さを測ろうとしたのが始まり。60年代後期には、ノーベル物理学賞受賞者のルイス・W・アルヴァレズ氏らがピラミッドで透視実験を試みた。だが、「思うほど芳しい透視画像は得られず、ミュオン透視技術は、長く見捨てられていた」(田中教授)。

 その間、加速器の発達などにより素粒子検出技術は格段に進歩。最新技術を組み合わせることで、厚み数百メートルの構造物に手こずっていたはずのミュオンで、数キロメートルの山を「丸ごと透視」してみせた。

 透視画像は、噴火メカニズムの解明に新たな知見をもたらした。通常、マグマは地下から徐々に上昇し、そのまま噴火すると考えられていた。だが、浅間山では「振られたビール瓶のように、内部のガスの圧力が高まって溶岩の“ふた”が吹き飛ばされると、そこからマグマが一緒に吹きこぼれていた」(同)。

 田中教授が次に取り組むのは「リアルタイムの火山透視」だ。現在は、透視画像を得るのに1カ月かかる。観測時間を短縮し、マグマの活動推移を捉えられれば、防災に生かせる。将来は「スマホを火山に向けるだけで、内部の状態を映し出せれば面白い」(同)。

ヘリウム同位体利用


 マグマの動きによる火山性微動は、噴火の予兆を捉えるのに有効だ。だが、こうした地震活動を伴わないマグマ上昇もあり、また、地震発生から噴火まで時間的な余裕がほとんどないこともある。

 火山付近で採取されたガスや温泉水中のヘリウムから、マグマの動きを捉える手法を開発したのが、同位体地球化学が専門の角野浩史東京大学大学院総合文化研究科准教授だ。

 マグマは地球深部のマントルで生成する。大気、地殻、マントル中のヘリウム同位体比は大きく異なる。ヘリウムは不活性で化合物を作らないため、これをトレーサーとして、マグマの動きを知ることができるのだ。

 カナリア諸島エル・イエロ島の観測では、マグマの活動による地震が活発化する約1カ月前に、ヘリウム4の放出量とヘリウム同位体比の増加を確認。活動予測に効果的であることが示された。

 ただ、同位体比を調べるために使う磁場型質量分析計は600キログラム超と大型で、現地でサンプルを取り研究室に持ち帰って分析しなければならない。また、ppt(1兆分の1)オーダーというごく微量にしか含まれないヘリウムの同位体比を求めなければならないが、ヘリウムは大気中にも存在するため、高度な真空技術が必要となる。

 「オンサイト分析でき、かつ誰でもが簡単に操作できるようにしなければ、火山防災には使えない」(角野准教授)。そこで着目したのが、大阪大学の豊田岐聡教授らが開発した小型の「多重周回飛行型質量分析計」だ。これをベースに改良し、重さ50キログラム程度で、操作を自動化した分析装置の開発を進めている。22年度ごろには実用化できる見込みだ。
希ガス同位体比の計測に使う磁場型質量分析計(角野浩史東大准教授提供)


新型干渉計で捕捉


 火山活動が活発化すれば、火口付近数キロメートル圏内は立ち入りが制限される。そのため、活動推移把握や噴火タイプ判断には、最新のリモートセンシング技術の活用も欠かせない。

 最近では、高度な地殻変動解析の方法として、JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」など、合成開口レーダー(SAR)を搭載した衛星の活用が進む。ただ、回帰周期である14日ごとの観測画像しか得られず、地殻変動の細かな推移は捉えられない。

 防災科学技術研究所の小澤拓研究統括主任研究員は、地上設置型のレーダー干渉計を組み合わせ、精密な地殻変動観測に取り組んでいる。

 従来の地上設置型レーダー干渉計は植生域では利用できなかったが、樹木への透過性が高いレーダー波を使った干渉計を開発。4キロメートル先で、50メートル程度の分解能を実現した。試作機での実証を重ね、「車載式で移動しながらレーダー波を送受信できるようにする」(同)のが目標だ。

 観測対象の光学特性を得る、分光スペクトル計測による火山観測も発展している。火口付近の温度や火山ガス濃度分布、降灰組成など、地上で観測困難な火山表面現象を定量的に観測できる。

 だが、こうした高度分光スペクトル計測は航空機で行うため、1フライト数百万円。普及は難しかった。これに対し、防災科研の實渕哲也火山防災研究部門副部門長は、小型温度ガス可視化カメラの開発を進める。噴火時に各機関が飛ばすヘリで、まるで写真を撮るように、ワンショットで多様な情報を得られる。試験機を気象庁などに試験提供し、普及させる計画だ。
 

(文・曽谷絵里子)

日刊工業新聞2018年5月2日

COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

火山は予測の難しさはもとより、研究者の少なさも深刻な問題として指摘されています。そのため、他分野の研究者の参入による研究の進捗が期待されます。

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