「東芝メモリ」売却中止を検討。IPOも選択肢に

米中貿易摩擦の余波、銀行や証券会社も容認に傾く

 東芝による半導体メモリー子会社、東芝メモリ(東京都港区)の売却について、中国の独占禁止法の審査期限まで2週間を切った。東芝は「売却前提」の姿勢を変えないが、水面下では主力取引銀行なども含め、東芝メモリの新規株式公開(IPO)を軸とした「プランB」に向けた協議を始めた。メモリー事業の売却が再び重要局面を迎えている。

 中国の独禁法審査の承認の遅れには、米中貿易摩擦が影響しているとの見方が専らだ。米政府は中国スマートフォンメーカー、華為技術(ファーウェイ)やZTEに対し制裁を実施。中国は反発を強めている。

 東芝メモリの売却先は米ベインキャピタルを軸に、韓国SKハイニックスなどで構成する「日米韓連合」。独禁法審査の承認は、中国の格好の手札となる。

 政治の道具になりつつある今、東芝や主力行の幹部は「静観するしかない」と漏らす。先行きは見通せなくなっている。

 中国の独禁法審査の影響で買収が長引くのは異例ではない。例えば米クアルコムによるオランダ半導体メーカーのNXPセミコンダクターズ買収は、中国の承認が得られず、合意から1年半以上たった今も実現しない。

 営業利益の約9割を稼ぐ東芝メモリが留まれば、一時的に東芝本体の業績は改善する。しかしクアルコムのケースと同様に審査が長引けば、毎年数千億円規模が必要なメモリー事業への投資負担が財務の重しになるのは確実。

 中国メモリーメーカーの台頭や需要の一巡などでメモリー市況が悪化し、業績が落ち込めば、経営再建の道は振り出しに戻る。

 東芝メモリの処遇が定まらなければ、東芝が年内に予定する中期経営計画の策定作業にも影響する。「株主総会を終えてからでは遅い」(東芝関係者)。

 審査期限は28日とされる。そこで東芝は、5月末までに承認を得られなかった場合、IPOに向けた具体的な協議や作業に入る方針を固めた。

 売却中止を見据え、関係機関の思惑もうごめく。東芝はIPOにより当面のキャッシュを得られれば、自己資本の強化や借入金返済など、財務の安定化を図れる。

 銀行や証券会社にとっても、IPOの方がうまみは大きい。市場関係者からも「2兆円の売却額は安すぎる」との声も漏れ、仕切り直しを容認する声は大きくなりつつある。

 「東芝メモリがIR(投資家向け広報)経験者の採用を強化しているらしい」―。半導体業界ではこんなうわさも流れる。売却後に予定するIPOに向けた動きと見られるが、売却中止でその時期を早めるためではないかとの臆測だ。

 15年の不適切会計の発覚から3年。成長戦略がいまだ不透明で、東証1部復帰という課題も残る東芝には、経営再建の歩みを鈍らせている余裕はない。決断の時期は近づく。
                

日刊工業新聞2018年5月14日)

政年 佐貴惠

政年 佐貴惠
05月15日
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東芝メモリが勝ち抜くには、自ら稼いだ利益を自らの投資に回すことが必要。東芝が手がけるインフラ中心の足の長いビジネスとメモリビジネスでは経営判断の仕方も大きく異なる。もし売却が中止になっても、東芝が東芝メモリを抱え続けることは難しいだろう。それよりも懸念されるのが、市況の下落だ。売却を決定した時と同様に、再び時間との闘いが東芝に訪れる可能性もある。

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