迷走・東芝メモリの顛末。「アップルは錦の御旗だった」

東芝はいったんはWD陣営への売却方針を決めたが…

 「あれは錦の御旗だった」―。米ベインキャピタルが主導する「日米韓連合」に最終局面で参画したのが米アップル。東芝関係者は半導体子会社「東芝メモリ」の売却交渉でアップルが「流れを決定付けた」と振り返る。

 ベインは8月末、東芝と提携する米ウエスタンデジタル(WD)が起こした売却差し止め訴訟を回避して東芝メモリを買収できる新提案を出した。生煮えだったこの案の確実性を高めたのがアップルを筆頭とする米IT4社。「訴訟を飲み込んで資金を出してくれる。これはいけるとなった」(東芝関係者)。

 “リンゴ”の威力はすさまじかった。「係争解消のためWD推しだった経済産業省も『アップルと契約できれば日米韓でもオッケー』という雰囲気になった」(日米韓連合関係者)。

 東芝メモリの売却は迷走した。その原因を「最初にWDとの関係を整理できなかったことだ」と国内ファンド首脳は指摘する。

 経産省は早くから技術流出防止と雇用確保を唱え、交渉に大きな影響を与えた。ただ交渉が「ラグビーボールのようにあっちこっちに転がり、安心できない日々だった」と経産省幹部は心境を明かす。

 東芝は6月にベイン主導の日米韓連合を優先交渉先に選んだが、経産省幹部は当時から「WDの脅しが勝り、提案には致命的な欠陥がある」とみていた。係争が解決しない限り政府系ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行は参加できない。このため8月のある時期までは「WDと組むしか選択肢がない」(経産省幹部)との認識が広がった。

 「東芝とWDは同じ船に乗っている」(主力行幹部)。金融機関は当初、東芝とWDの対立を楽観視していた。しかし対立は想定以上に先鋭化した。

 売却交渉が遅々として進まない状況に、しびれを切らしたのは8月中旬。それまでは「売却先は東芝自身が決めるべきだ」と静観していたが「WDをどう取り込むか考えるべきだ」(主力行首脳)とWD陣営を推す声が強まった。

 9月11日、東芝はいったんはWD陣営への売却方針を決めた。「(WD陣営の)買収に参加する日本企業に対し、9月19日までに契約書を準備するよう通達が出た」と交渉関係者は証言する。

 しかしWDの失策が、その後の状況を一変させた。そして売却交渉のデッドラインだった9月20日を迎えた。東芝メモリの経営権取得に固執し、訴訟をテコに交渉を続けたWDに、東芝はノーを突きつけた。

 「最後の2週間、経産省は『どちらの陣営でも良い方に転がってほしい』と全力で支援してくれた」と東芝関係者は話す。今、2兆円のビッグディールが決着し関係者には安心感と高揚感があふれる。

 ただベインを勝利に導いた“錦のリンゴ”が問題を消し去ったわけではない。WDとの関係をどう再構築し、事業運営をしていくかという課題は残ったままだ。

日刊工業新聞2017年10月20日

後藤 信之

後藤 信之
10月21日
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 「すでに次期経営トップ候補のリストアップは始まっている」(関係者)。リストには過去の東芝半導体事業トップ経験者の名前も含まれているという。ただ、これには東芝内部から「過去の人を戻すのはどうなのか」との反発の声が挙がる。東芝には製造や開発の技術、販売ノウハウを積み上げ、NANDメモリー事業を世界2位までに育てた自負がある。「執行体制は現状維持で、ガバナンスの部分をベインに補足してもらうのがいい」(東芝関係者)。“餅は餅屋”で事業運営は東芝メモリ出身者が適しているとの主張だ。次期経営体制はWDとの係争解消後の参画を視野に指図権を付与されている産業革新機構や、日本政策投資銀行の判断も影響する。東芝メモリの経営は微妙なバランスでのスタートとなる。

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