日本の食卓支える家庭用ラップ、60年目の挑戦
「NEWクレラップ」と「サランラップ」が独自の技術力磨く
日本の食卓で大活躍する家庭用ラップは、クレハが手がける「NEWクレラップ」と旭化成ホームプロダクツ(東京都千代田区)の「サランラップ」が2強だ。ともに1960年発売で、20年に60年の節目を迎える。両社とも時代ごとに変化する消費者の生活スタイルにあわせ、地道に使いやすさを追求してきた。足元の国内シェアは2社合計で約8割。他を寄せ付けない発想で独自の技術力を磨き上げ、圧倒的な存在感で市場を制する。
国内で最初の家庭用ラップは、呉羽化学工業(現クレハ)が発売した「クレラップ」。2カ月後には旭化成工業(現旭化成)と米ダウ・ケミカル(現ダウ・デュポン)の合弁会社が「サランラップ」を送り出した。現在はどちらも幅30センチメートルと22センチメートル、15センチメートルで、長さ50メートルと20メートルの計6種類をそろえる。発売時は幅30センチメートルが売れ筋だったというが、核家族化や個食化が進んだ今は幅22センチメートルが主力。特に50メートル版は品種別販売の4割を占める柱だ。
NEWクレラップやサランラップの主原料は、合成樹脂のポリ塩化ビニリデン(PVDC)だ。食品の鮮度保持に不可欠な酸素や水蒸気のバリアー性(遮断性)が高く、食器との密着性も優れる。冷凍庫から電子レンジまで対応する使い勝手の良さも普及を後押しした。約500億円の国内市場でNEWクレラップは35%、サランラップは48%を占める。残りは業務用が主体のポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)製ラップだ。
ただ同じPVDCとなると、その差は薄さや強度、弾力など製法によるわずかな違いに限られる。こうなると消費者の好みや慣れも関係してくるため、素材そのものでの差別化は難しいのが実情だ。そこで両社が重きを置くのが、使いやすさを左右するパッケージの改良だ。クレハの陶山浩二執行役員家庭用品事業部長は「クレラップからNEWクレラップに衣替えした89年以降だけでも、140カ所以上の仕様を見直した」と胸を張る。
実際、NEWクレラップは毎年のように細かい仕様変更を打ち出す。特に知名度を引き上げたのが、89年に採用したV字型刃の「クレハカット」だ。箱を内側に傾けるだけで中央部から簡単に切れる仕組みで、陶山執行役員は「これで25%だったシェアが35%に拡大した」と振り返る。ラップの飛び出しや巻き戻りを防ぐ工夫や箱の小径化、さらには箱の角を面取りして握りやすくするなど、クレハならではのこだわりが詰め込まれている。
これに対し、サランラップは数年単位ながら大胆な改良が持ち味だ。3月には、それまでの直線刃をM字型刃に変更。「クレハカットへの宣戦布告」(関係者)と業界を驚かせた。旭化成ホームプロダクツの坂元善洋マーケティング部長も「M字型刃は今回最大のポイント」と自信をみせる。3カ所の先端に力を集中させることで切れ味を向上。端を折り込み開封直後の引き出しを容易にしたほか、箱を2ミリメートル細くして握りやすさも高めた。
クレハと旭化成ホームプロダクツの両製品が「切りやすさ」や「持ちやすさ」を強調する背景には、20―30代女性を攻略したい思惑がある。関係者によると「NEWクレラップは30―40代、サランラップは50―60代の支持が多い」という。ただその中でも指名買いは一部で、大半は店頭で選ぶ層だと言われる。このため両社が狙うのが、例えば1人暮らしで初めてラップを使うようになった初心者。早期に“ファン”として取り込んだ上で、安定ユーザーに育てる戦略を示す。
その姿勢は近年のテレビCMにも表れている。クレハはV字型刃を訴求してきた従来を改め、イメージキャラクターの『クルリちゃん』『クルミちゃん』がNEWクレラップを使う日常を描く。陶山浩二執行役員は「特にファミリー層の好感度が高い」と目を細める。またサランラップも緑・赤・青のパッケージカラーをまとったキャラクター『たぶんクマ』を起用。製品の機能以上に、若い世代にブランドを浸透させる路線にかじを切った。
国内の人口減少を迎える中で市場の展望が明るいわけではない。クレハの陶山執行役員も「家庭用ラップ市場は年0・5%の落ち込みを見込む」と打ち明ける。その上で掲げる打開策の一つが、2014年に始動した「クレラップコミュニティ」だ。ホームページから登録した10―60代以上の安定ユーザー約3万人が、料理のレシピやユニークな使い方を自由に発信し合うことができるファンサイトだ。製品の豆知識やクイズも楽しめる。
思い描くのは「テレビCMとは異なるアプローチ」(陶山執行役員)で、すでに手応えも感じている。そもそも安定してNEWクレラップを購入する“ロイヤルユーザー”の集まりだが、さらに同製品だけを選ぶ“オンリーユーザー”が17年に14年比6・2ポイント増の13・3%に拡大する効果があったという。18年度はキャラクターのLINEスタンプを充実するほか、インスタグラムやフェイスブックなどの積極活用にも乗り出す計画だ。
市場縮小という逆境に挑むのはサランラップも同じ。旭化成ホームプロダクツの坂元善洋マーケティング部長は「マーケットリーダーとして使い方を提案し、市場を創出したい」と意気込む。その一例が、ラップにイラストやメッセージを書ける「サランラップに書けるペン」だ。おにぎりやサンドイッチを包んだ後で飾り付けたり、冷凍保存の管理用に日付を入れたりできる。投稿写真のコンテストや体験イベントも開いている。
高い遮断性
国内で最初の家庭用ラップは、呉羽化学工業(現クレハ)が発売した「クレラップ」。2カ月後には旭化成工業(現旭化成)と米ダウ・ケミカル(現ダウ・デュポン)の合弁会社が「サランラップ」を送り出した。現在はどちらも幅30センチメートルと22センチメートル、15センチメートルで、長さ50メートルと20メートルの計6種類をそろえる。発売時は幅30センチメートルが売れ筋だったというが、核家族化や個食化が進んだ今は幅22センチメートルが主力。特に50メートル版は品種別販売の4割を占める柱だ。
NEWクレラップやサランラップの主原料は、合成樹脂のポリ塩化ビニリデン(PVDC)だ。食品の鮮度保持に不可欠な酸素や水蒸気のバリアー性(遮断性)が高く、食器との密着性も優れる。冷凍庫から電子レンジまで対応する使い勝手の良さも普及を後押しした。約500億円の国内市場でNEWクレラップは35%、サランラップは48%を占める。残りは業務用が主体のポリエチレン(PE)やポリ塩化ビニル(PVC)製ラップだ。
パッケージ改良
ただ同じPVDCとなると、その差は薄さや強度、弾力など製法によるわずかな違いに限られる。こうなると消費者の好みや慣れも関係してくるため、素材そのものでの差別化は難しいのが実情だ。そこで両社が重きを置くのが、使いやすさを左右するパッケージの改良だ。クレハの陶山浩二執行役員家庭用品事業部長は「クレラップからNEWクレラップに衣替えした89年以降だけでも、140カ所以上の仕様を見直した」と胸を張る。
実際、NEWクレラップは毎年のように細かい仕様変更を打ち出す。特に知名度を引き上げたのが、89年に採用したV字型刃の「クレハカット」だ。箱を内側に傾けるだけで中央部から簡単に切れる仕組みで、陶山執行役員は「これで25%だったシェアが35%に拡大した」と振り返る。ラップの飛び出しや巻き戻りを防ぐ工夫や箱の小径化、さらには箱の角を面取りして握りやすくするなど、クレハならではのこだわりが詰め込まれている。
これに対し、サランラップは数年単位ながら大胆な改良が持ち味だ。3月には、それまでの直線刃をM字型刃に変更。「クレハカットへの宣戦布告」(関係者)と業界を驚かせた。旭化成ホームプロダクツの坂元善洋マーケティング部長も「M字型刃は今回最大のポイント」と自信をみせる。3カ所の先端に力を集中させることで切れ味を向上。端を折り込み開封直後の引き出しを容易にしたほか、箱を2ミリメートル細くして握りやすさも高めた。
攻略の思惑
クレハと旭化成ホームプロダクツの両製品が「切りやすさ」や「持ちやすさ」を強調する背景には、20―30代女性を攻略したい思惑がある。関係者によると「NEWクレラップは30―40代、サランラップは50―60代の支持が多い」という。ただその中でも指名買いは一部で、大半は店頭で選ぶ層だと言われる。このため両社が狙うのが、例えば1人暮らしで初めてラップを使うようになった初心者。早期に“ファン”として取り込んだ上で、安定ユーザーに育てる戦略を示す。
その姿勢は近年のテレビCMにも表れている。クレハはV字型刃を訴求してきた従来を改め、イメージキャラクターの『クルリちゃん』『クルミちゃん』がNEWクレラップを使う日常を描く。陶山浩二執行役員は「特にファミリー層の好感度が高い」と目を細める。またサランラップも緑・赤・青のパッケージカラーをまとったキャラクター『たぶんクマ』を起用。製品の機能以上に、若い世代にブランドを浸透させる路線にかじを切った。
打開策
国内の人口減少を迎える中で市場の展望が明るいわけではない。クレハの陶山執行役員も「家庭用ラップ市場は年0・5%の落ち込みを見込む」と打ち明ける。その上で掲げる打開策の一つが、2014年に始動した「クレラップコミュニティ」だ。ホームページから登録した10―60代以上の安定ユーザー約3万人が、料理のレシピやユニークな使い方を自由に発信し合うことができるファンサイトだ。製品の豆知識やクイズも楽しめる。
思い描くのは「テレビCMとは異なるアプローチ」(陶山執行役員)で、すでに手応えも感じている。そもそも安定してNEWクレラップを購入する“ロイヤルユーザー”の集まりだが、さらに同製品だけを選ぶ“オンリーユーザー”が17年に14年比6・2ポイント増の13・3%に拡大する効果があったという。18年度はキャラクターのLINEスタンプを充実するほか、インスタグラムやフェイスブックなどの積極活用にも乗り出す計画だ。
創意工夫
市場縮小という逆境に挑むのはサランラップも同じ。旭化成ホームプロダクツの坂元善洋マーケティング部長は「マーケットリーダーとして使い方を提案し、市場を創出したい」と意気込む。その一例が、ラップにイラストやメッセージを書ける「サランラップに書けるペン」だ。おにぎりやサンドイッチを包んだ後で飾り付けたり、冷凍保存の管理用に日付を入れたりできる。投稿写真のコンテストや体験イベントも開いている。
日刊工業新聞2018年5月9、10日